第4話 買い物
「それでは言ってきます」
エレンが先導して歩き出す。
エレンはカテドラル教会により支給されている赤と白の魔導服を着こなしている。
一方のルカとイリナは青と白を基調とした魔導服を着ている。ルカはそのスピードを活かすため、スカートではなくパンツスタイルだ。
イリナはスカートとパンストから見える絶対領域に興奮せざるおえない。
「ああ。頼むぞ」
王様を後に俺とエレン、イリナ、ルカは城下町へと歩を進める。
「ちっ。こんなやつと旅なんてできるかよ」
ルカは苛立ちを露わにしている。
「お姉ちゃん」
イリナが咎めるように言うとルカは大人しくなる。
城下町は活気で溢れていて、荷物を載せた荷馬車が何度も往復していた。
八百屋や魚屋、精肉店。他にも占い、骨董品、アクセサリーなどなど。
様々なものが露店として並んでいる。
「まずは武具からですね。セイヤ」
エレンは柔和な笑みを浮かべ、町一番の武器屋に入る。
「お。兄ちゃん、確か〝勇者〟なんだって? そりゃ助かるよ。このダダールの北には魔物がはびこって、補給が途絶えたままなんだ。なんとかしてくれよ」
「それも勇者の務めです。心してかかります」
代わりにエレンが答えてくれる。
そして耳打ちをしてくるエレン。
「受け答えはあたしが担当します。それと、武器はショートソードくらいは使えるかと」
「勇者なんだからバスターソードとかのロングソードがいいんじゃないか?」
店主はかかかと笑いながら、剣を出してくる。
「いえ。振り回しやすいショートソードでお願いします」
「ショート? 両手剣か、双剣じゃないのか……」
残念そうに呟く店主。
「ええ。勇者さまは基本的に魔法が得意なので」
「おう。そうだったな。確かにあの氷魔法は絶大だった。まるで〝片翼のウインド〟みたいだった――って本人の前で言う言葉じゃないか」
かかかと笑い飛ばす店主。
店主の見ている先、イリナが恥ずかしそうにはにかむ。
「片翼のウインド?」
俺が疑問符を浮かべているとイリナが口を開く。
「私、の……二つ名、です……」
あー。そんな恥ずかしい習慣がこちらにはあるのね。
中二病は小学校で卒業したからな。
「お。それに〝狂犬のウルルド〟もいるじゃないか」
店主がルカを見て言う。
「うっさい」
ルカは相変わらずぶっきら棒で横柄な態度で応える。
これには店主も困ったような顔を向ける。
「で。勇者さんはどんなショートソードがお望みかな?」
「お金は気にしなくていいですよ。国家予算から出ますので」
イリナの後押しを受け、俺はショートソードを触ってみる。
軽い。
そして切れ味が鋭い。
指に血が滲む。
「これがいいかな」
「じゃあ、これを三本ほどくださいな」
イリナの言葉に疑問を覚える。
「え。なんで三本も?」
「血ですぐに使えなくなりますからね。捨てるんですよ。すぐに」
あー。そうなのか。
戦いどころか、喧嘩すらみたことがないからな。
うん。俺の人生イージーモードだったな。
「分かった」
俺はイリナの言う通りに剣を選ぶと、武器屋を後にする。
「次は防具ね。そのまま、という訳にはいかないでしょう?」
歩き始めるとエレンは隣に着いて回る。
「ふふ。あたし買い物って好きなのです」
「そうなんすか……」
「乗り気じゃないですね」
エレンは困ったように眉根を寄せる。
俺としてはチートも受け取れず、この世界に来てしまったのだ。不安でいっぱいだ。
防具屋にいくと、そこには
「勇者さまにお似合いの武具をよろしくお願いします」
そう言って奥にある装備室に行くと、俺は鎧と
だが――。
「重い……」
重くて機動性が落ちる。
「これじゃあ、いざというとき、動けませんね……」
エレンたちは困ったように嘆息を吐く。
装備は籠手とすね当てのみで、がっつり鎧を着込むのは断念した。
だが、籠手とすね当てでもかなり重い。
そのまま装備して町中を練り歩く。
「腹減ったな……」
「てめー。状況、分かっていんだろうな?」
ルカがにじり寄ってくる。
こ、怖い。
「わ、分かっているけど……」
ぐぅうっと腹の虫が鳴る。
「そんな、に……厳しくしない、の」
イリナが声を少し高めに言う。
「ちっ。分かったよ」
ルカの奴、しゃべらなければいいのだけど。
そういう意味ではイリナの方が可愛いな。
「まあまあ、あたしたちも満たしましょう。あの〝金の屋〟で食べましょう?」
有名料理店なのか、俺たちはその列に並ぶ。
「ここ、おいしいのか?」
俺が訊ねるとエレンが微笑みコクリと頷く。
「はい。とても美味しいですよ。オススメは〝オリジナルスパゲティ〟ですよ」
「しかしなげーな」
ルカがいらつた様子で、嘆く。
「そう、焦ら……ないの」
少しテンションの高めなイリナ。
「イリナ、好きなのか?」
「は、はい。……このお店、何度か、来ている……の」
まだ緊張が解けないようで、ビクビクしているイリナ。
少しでも緊張が解けるように話しかけているつもりだが、どうしたものか。
自分たちが席に案内されて、スパゲティを頼む。
チーズと海鮮系の具に甘めのソース。
あまり美味しいとは言えなかったが、この時代なら最先端の料理らしい。
「まあ、腹も膨れたし、次行くか」
俺がそう提案すると、エレンは頷く。
「ちっ。なに仕切っているんだよ」
「まあ、まあ」
ルカが苛立ちを呟き、それをイリナが納める。
露店のある大通りを歩き出す
俺が串焼きの匂いにつられ、じーっとみているとエレンが隣で微笑む。
「食べますか?」
「いいのか?」
「はい」
俺は嬉しくなり、ガッツポーズをとり、串焼きを頬張る。
「ふふ。子どもみたいですね。勇者さまは」
「そ、そうか……?」
日本の焼き鳥みたいな味がして嬉しくなる。子どもっぽいと言われようと、郷土の味には勝てまい。
「まるで日本の料理みたいだ」
「にほん?」
「俺の住んでいた故郷だ」
ルカは少しばつの悪い顔を浮かべる。
「俺、日本に帰れるかな……」
「帰れますよ。一緒に帰る方法を探しましょう、ね……?」
エレンがふふふと笑いを浮かべる。
馬車に荷物を載せて、魔族のいる北東へ向かう。
砂漠の土地、アルマロ。
馬車に乗り、ルカが
走り出した馬車は石を乗り上げてガタンと音と振動を鳴らしながら、走り続ける。
「あたし、この旅は少し不安がありました」
「不安?」
「本当に魔物を倒せるか、です。でもセイヤさんと一緒ならできる気がします」
「なんで……?」
俺なんてクソ雑魚じゃないか。なんの能力も持たないひよっこ。弱者。
「あたし、カテドラル教会の第二聖上院なのです」
「……?」
分からないと首を傾げる俺。
「簡単に言えば、カテドラルの二番目に偉い人です」
「え。そんなに!?」
俺が驚いて目をパチパチと
「ふふ。そんなあたしだから、派遣されたのです。その力と権力を示すために……」
エレンはその力を誇示するための道化師として表舞台に立たされたのだ。
急進派のエレンと保守派のダリル。
急進派を一斉に落とすために向かわせたダリルだが、急進派をけしかけることもした。
その一枚岩で行かない関係値を払拭するためにエレンが駆り出された。しかもエレンは他に犠牲者を出したくないから、先頭に立ったのだ。
その求心力はすごく一つの街を上げて動いたという。
「エレンはその力を皆のために使うんだな」
「はい。あたしにとって大事なのは、民草です。それを
「それがエレンの戦う理由か……」
「はい」
気持ちのいい笑顔を浮かべて、錫杖をぎゅっと寄せるエレン。
どこか
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