短い世界のお話

ろくろく んよちい

第1話 『水面の列車』 秋乃風さんの企画より

見上げると水面みなもがゆらゆらと太陽の光を反射して揺れている。


頭上をすーっと銀色の影の群れが通り過ぎていった。




「ホームに列車が参ります。黄色い線までお下がりください。なお車両内はパソコン、携帯電話等の電波を発する機器は使用できませんので電源をお切りになってお待ち下さい。」

アナウンスが駅の構内に響き軽快なリズムの音楽が流れた。その後、プラットフォームに少し黄色がかったような白い車体に青、赤、緑のラインの描かれたた列車がほとんど音を立てず静かに入ってきて止まった。車体には『Bubble Trainバブル  トレイン』と車体の色とは多少不釣り合いにも思えるパステルカラーでの文字で書かれていた。

 よく見るとボディの下の方は少し錆びたような茶色が所々見え隠れしている。昔使われていた車体をベースに作られているらしい。外観は当時のままだが、内装は新しく栗皮色ブラウン生成ホワイトに塗られたシンプルな木目調と浅葱色スカイブルーのラインで清涼感のあるデザインになっている。



ぱちん、プシュー、と車体のまわりに膜のように張っている泡が弾けて扉が開く。



泡電れっしゃ来たからまた後で返信するね。』

スマホの通知に返信して電源を切る。

以前1度だけ電源を切り忘れたことがあって3日ぐらいスマホが動かなくなって焦った。故障というわけではないけどバブルトレインの放つ特殊な電波みたいな何かがスマホとかの電子機器には良くないらしくて調子が悪くなるのだ。

電源が切れたのを確認して私は列車に乗った。


扉を入ってすぐの車体前方右側の席に座る。

ここは車窓から外の景色を眺められる私の特等席お気に入り


「扉が閉まります。今いちど電子機器の電源をお切りになっているかをご確認頂ますようよろしくお願い致します。」

プシュー、ふんわりと持ち上がった車体のまわりに薄い膜のような泡が広がる。

駅を包む泡からぽわりと外へ列車が進む。


列車を覆う泡の外はもちろん水中である。

太陽の光をきらきらと反射させた魚の群れを列車が追い越していく。



――――30年ほど前、地球全体をを豪雨が襲った。雨は止む気配を見せず降り続けた。その影響で雨が振り始めてから10年ほどで水面が上昇し陸地の7割ほどが水に浸かってしまった。今は豪雨も収まり水の上では時々晴れている様子も見られる。


 水に浸かってしまった最初の5年程は水死が原因で世界の人口が8割まで減少した。

その3年後、不思議なことにその水には酸素が30%ほど含まれていることが判明したり一部の森林地域では天然のくうきに覆われた場所も発見された。

世界の科学者たちが研究を進め、研究開始からわずか5年程でその酸素を利用して人間が呼吸するために必要な空気を人工的に作り出すことに成功した。しかも水上の空気と特殊な器械を利用して半永久的に呼吸に必要な空気を作り出すことができるようになったのだ。


一時期は食物の値段が信じられないほど上がっていたそうだが、この技術のおかげで今は昔のように野菜や動物も育てることができるようになった。――――






 私は水中生活を始めた世代の2代目。

 生まれた時は既にこの街は水の中でバブル状の空気の中で過ごすのが当たり前になっていた。最近では携帯型の空気バブル缶が一般発売されたおかげで観光業も活気をもどしつつある。




「あ、イルカだ。」

誰かがそう声を上げた後車内でもアナウンスが流れた。


「車両前方、右側の外を御覧ください。『ヨウスコウカワイルカ』をご覧になることができます。以前は生息数が減少し絶滅の恐れがあるとまで言われたイルカの仲間です。現在は個体数も増えてきていると言われています。」

駅員の中には水族館の職員がたまに乗って解説をしてくれることもあるのだ。


振り返ると2頭のイルカが楽しそうに泳いでいるのが見える。


そのまわりに銀色の群れが集まっていて幻想的な景色を作り出していた。




水面からきらきら反射するの太陽の光で車内が明るくなった。

どうやら次の駅が近づいてきたようだ。


「まもなく終着駅でございます。本日もバブルトレインにご乗車いただきありがとうございました。」



ぷしゅー、と泡が出る音と同時に列車はホームの奥へとゆっくり進んでいった。



 今日も明日も、これからも。

水面を揺らし光をきらきらと反射させながらバブルトレインは走る。




おしまい。





☆★☆★☆★☆★


秋乃風さんの企画「『水面の列車』このタイトルで小説を作ろう」より参加させていただきました。

https://kakuyomu.jp/user_events/16816700427818656011


楽しい企画ありがとうございました。

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