第5話:思っていたほど
卒業した私は彼女と共に青山商業に進学した。お互いに恋人が居るということを隠しはしなかったが、相手が女性であることは公言せずに居た。
ほとんどは私達の恋人は男だと勝手に勘違いしていた。なんとなく察している人も少なからず居たかもしれないが、触れられることはなかった。ありがたいと思うと同時に、少し息苦しくもあった。
高校三年生になると、その年から制服の規定が変わった。今までは男子はズボンとネクタイ、女子はスカートとリボンでブレザーだけが男女共通だったが、その年からは性別問わず、ネクタイとリボン、ズボンとスカートをそれぞれ自由に組み合わせで良いことになった。LGBTに対する配慮らしいが、『それ言われるとLGBTじゃない女子はズボン穿くなって言われてるみたい』という批判的な意見もあった。私もどちらかといえばそっち派だった。LGBTに対する配慮という一言は余計だったような気もする。LGBTといいつつ想定しているのはTだけだし。と、ツッコミどころは多かったものの、スカートが苦手だった私にはありがたかった。
4月から私はスカートとリボンをやめてズボンを穿いてネクタイを締めて登校するようになった。
「あらちーちゃん。スカートやめたのね」
「学校が許可したんだ。何の問題もないだろう」
「けど、絡まれちゃうかも」
「そうだな。しかしまぁ、気にすることはないさ。そんなの一部だろうし、馬鹿にする方が無知を晒して恥ずかしい想いをするんだと思い知らせてやればいい」
「ちーちゃんカッコいい」
「ははっ。なんだ。惚れ直したか?」
「ふふ。直さなくてももう惚れてる」
「ふふ。……これをきっかけに、カミングアウトしやすい環境になるといいな」
「そうね。……もしかして、タイミングみてカミングアウトするつもり?」
「うむ。けど、今はまだしない。今したら、やっぱりLGBTなんじゃんと言われかねないからな。LGBTじゃないけどスカート苦手だからズボン穿きたいという女子が余計に肩身の狭い想いをしてしまうかもしれない」
「ちーちゃん、色々考えてるのね」
「君と違ってな」
「む。私だってちゃんと考えてるわよ」
「……告白の返事を忘れる人に言われても説得力ないな」
「あー!またそれ持ち出す!もー!」
「はははっ。すまんすまん」
学校に行くと、案の定注目を集めた。そして一人の男子が「小鳥遊お前、心が男だったの?」とからかってきた。
「いや。別に心が男なわけじゃないよ。スカートが苦手なだけだ。私服でもスカート穿かない女性はいるだろう?何か問題があるか?」
私がそう返すと、案の定彼も、にやついていたクラスメイト達も黙った。LGBTなのという質問に対する答えはyesだが、彼の質問は「心が男なの?」というものだ。だから私は嘘はついていない。それに、別に異性愛者だったとしても同じ選択をしていたと思う。
「いいなぁ。私もズボンにしようと思ったんだけど、親が今更いいでしょうって」
「私はLGBTだって思われるからやめろって言われた。酷い偏見だよね」
「てかさ、LGBTに対する配慮っていうけどさ、関係あるのTだけじゃね?ビアンの人だってスカート穿きたくない人ばかりじゃねぇし」
と、まるで自分のことのように憤る友人。この時点で私は、彼女は恐らくレズビアンなのだろうと察したが、敢えて突っ込まなかった。
「ビアンって初めて聞いた。普通レズっていわね?」
友人の一人が突っ込む。彼女は明らかに動揺しつつ「レズって差別用語らしいからあんま使わない方が良いって聞いて」と説明した。
「マジ?知らんかった。普通に使ってたわ。気をつけよ」
友人の反応にホッとする彼女。もはやバレバレだが、誰も何も突っ込まなかった。差別は全く存在しないわけでは無い。だけど、私が思っていたよりは、酷いものではないのだなとその時感じた。
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