第4話:うっかりさんにも程がある

 それから、彼女は今まで通り変わらず接してくれた。

 一ヵ月経った頃からなんだかやたらとスキンシップが増えたような気がしたが、卒業まで彼女は何も言わなかった。卒業式の後に彼女を家に呼び出して答えを問うと、彼女は目を丸くしてこう言った。


「えっ。私、返事しなかった!?」


「……えっ?いや、何も言われてないが」


「えぇ!? やだ! うそ!」


「……それはこっちの台詞なんだが?」


 彼女は昔からちょっと抜けているところがある。しかし、これは予想外だった。抜けているところが可愛いと思っていたが、流石にこれには怒りを覚えた。


「ちーちゃん、ごめんね。私、勘違いしていたみたい」


「……」


「ちーちゃん。無視しないでぇ」


「……」


「ちーちゃん」


「……許しを乞う前に言うべきことがあるだろう」


「……ちーちゃんが好きよ。友達としてじゃなくて、人として」


「……うん。それで?」


「……正直ね、女同士ってことに不安がないわけじゃないの。けど……ちーちゃんと約束したものね。自分の気持ちを大事にするって」


「うん」


「だから……私、ちーちゃんの恋人になります。これからは恋人として、よろしくお願いします」


「……うむ。よろしい。……ありがとう」


「本当にごめんねぇ……一ヵ月くらいでもう答えは出てたのよぉ……」


「一生引きずってやる」


「ちーちゃぁん……」


「私がこの半年間どれだけ——「ごめんねぇ〜」わっふ……」


 抱きしめられ、頭が柔らかい肉に包みこまれる。そのまま「大好きよ」と愛しむような声で囁かれると、怒りは一瞬で吹き飛んでしまった。


「……ずるいな。好きだと言えば許されると思っているだろう」


「思ってないわ。不安にさせてしまった分を取り戻すために言ってるだけ」


「……ずるい」


「本当に反省してるのよ」


「それは伝わったが、一生根に持つ」


「えー……そんなぁ……」


「君が悪い」


「それは分かっているわ。だから……これからはちゃんとする。大好きよ。ちーちゃん」


「……どこが好き?」


「小さくて可愛いところ。あと……告白してくれた時、彼に『付き合っちゃう?』って言われて困っていた時、私のことさりげなく守ってくれたでしょう?あれね、凄くカッコよかった」


 背が低いことはずっと気にしていたが、彼女が気に入っているなら悪くないかもしれないとも思ってしまう。


「……他には?」


「えっと……小さくて可愛い」


「それはもう聞いた」


「……逆に、ちーちゃんは私のどこが好きなの?」


「む。そうくるか……」


「無いの?」


「あるぞ。たくさんある。まず、おっとりしているところ。それから、雰囲気。声。あと……私だけに甘えてくれるところ。抜けているところも可愛い。告白の返事を忘れたことは流石に可愛いと言えないがね」


「……まだある?」


「うむ。まだ出るぞ。聞くか?」


「……ううん。もう十分。十分、伝わった」


 そう呟いて彼女は私を抱きしめる腕に力を込めた。少し早い心臓の音が、彼女が照れていることを伝えてくれる。釣られて私の鼓動も早まる。


「大好きよ。ちーちゃん」


「うむ。私もだよ」


 こうして私たちは、ただの幼馴染から恋人同士になった。付き合えたこと時代は泣くほど嬉しかったが、なんだか拍子抜けするような始まり方だった。

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