第10話 エンター
ショウは刻印に向かって走り込んで行った。
壁に両手がぶつかるとそのまま刻印を挟んで掴んだ。
そして前回同様に右方向に動かそうとした。しかし、それは出来なかった。
若干ひるんだが、ショウはあらゆる方向に動かそうとし、引こうとし、押そうとした。
そして「E」の刻印は壁の中に押し込まれていった。
「エンターという意味でもあるのか」とショウは呟いた。
刻印の中心から三メートル下の床にかけて、開口が左右に開いていった。開口が幅三メートルで止まった時、眩ゆいばかりの銀色の光がショウを照らしたのだった。
「新しい光、新しい場所へ」そう呟いた後、ショウは三人の元へ戻った。
センリは今にでも銀の光の向こうへと行けると言った。
しかし、ユラとエイジはかつての旅を始めた頃の姿ではなくなっていた。
ユラは床に崩れてしまったまま、起き上がる事も出来ず仕舞いで、近づこうとすれば身体を小さく縮めてしまうのだった。
エイジはあぐらを組んで力のない瞳をショウに向け、頭を左右に振り、「もう難しい。動けない。力が入らない、ここから全身で立ち上がり、行動を共にしろと言われても無理だ。よく理由が分からない・・・」と言う始末でどうしようもなかった。
「進む道は見つかったが、そこを進める人間が二人だけとは。どうしようか?」と言うとショウは頭を抱えてしまった。
「この二人をこのままここに置いて行くのも心配だな。精神がどうかしたのか、外傷はないし」とセンリも困り顔で仲間を見た。
その時、初老の男の声が聞こえてきた。
「え、え、良く二人は頑張りましたね。もう何もしないでいいですよ。今から医院の心療内科に連れて行きますから、ストレッチャーで。みんな準備にかかって」
男たちは五人でやって来た。早速、ストレッチャーにユラとエイジを乗せた。
「ルウスはどうなるんだ」エイジが急に声を張り上げた。
「大丈夫だよ、ちゃんと箱に入れて地下施設の櫓の上に葬るから。ユラとエイジは治療が長くかかる。だからまた彼らも治ったら地下施設の櫓の上で休暇についてもらう。良くやった」と初老の医師が言った。
「先生、その辺で。行きましょう」と男。
銀の光の向こうへと消えて行った。
みんなが去った後、不意にいつの間にか一人の大男が立っていた。
彼は首里乃シロシと言い、胴体に細長く開口があり、そこから吹雪を飛ばす能力があった。
「俺は旅の仲間の代わりとして先生に選ばれて連れて来られた。よろしく」とシロシはあいさつで、右手をあげた。
「俺たちの知らない世界の事を知っているのか?」センリが不思議そうに言った。
「いや、地下施設の櫓の上で突如目が覚めて、その時、先生がいた。地下施設を抜け、雲の中につながる鉄階段を長く渡って来て、今ここにいる」とシロシは目をぐるぐるさせながら、言葉にした。
「外の階段を下ればこの旅も終えられると思うが、するか?」と続けた。
「怪我も病気もしていない、精神も弱ってない俺が途中で旅を投げ出したりしない」とセンリが言った。
ショウも一番旅をしている自分が、途中で投げ出す訳がないと、声を荒らげた。
「では三人の仲間で改めて、旅に銀の光の向こうへと進もう」と力を込めてシロシが言った。
「エンターの道の先には、城があると思っているが、シロシあるのか?」とショウは尋ねた。
「俺はそこに行くつもりで、地下施設から連れて来られたから、それは愚問だ。さあ行くしかない」少し苛ついてシロシは言った。
分かった向かおうと、三人が言うとエンターの道の先にみんな消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます