第5話 第十二地域
トンネルを抜けた先は、何の区画地域なのだろうか。第十一地域で階段を登り、泥まみれで落下したのは、かなり皆の体力を消耗させていた。
一先ず喉の渇きを潤そうとエイジ、ユラ、センリ、そしてルウスまでもまだたくさんあるゼリー状の水を、ごくごくと飲んだ。
第十二地域の表示看板があり、空は薄曇りで明るさは程々にあった。
みんながいる場所はこの地域の北西の端だろう。おそらく。
また上部には梁のような一本一キロメートル程の木材らしきが、等間隔で並んでいた。本数は三十本位だろうか。
仮に見た感じの木材であれば、直ぐに折れてしまい、第十二地域は地獄絵図になるだろう。何か芯に鋼鉄が入っているのか。
エイジの思考が止まった頃、喉を潤したユラ、センリ、ルウスが彼の元に集まって来た。
「ここは明るく見渡せるからいいが、かえって見え過ぎて気味が悪い。学ランたちが製作したスペースという臭いが漂う」とセンリが言った。
「私もセンリと同じ。なんか仕掛けがしてあるような気がする。今までもだけど」とユラは苦笑いをした。
「俺も危険を感じる。特にあの無数の梁みたいな木材。ルウスは?」とエイジが言う。
「私の目にはあの梁の中央辺りに、人がぶら下がっているように見えるの」とルウスは呟いた。
「何っ!」と皆が叫んだ。
約七百メートル先、区画地域の中央辺りに、小さくぶら下がり、動く何かが確認出来た。
「俺は関わらない!」と一番に言ったのは、センリだった。
「どうしても助けると言うなら俺抜きでやってくれ。もしあれが人で仲間に入れるとなると、守る命が一つ増えるんだからな」
「そう興奮するな、センリ。一先ず近くに行って確認だけでもしたい」と興奮を抑えてエイジが言った。
「命は大切。救うべき」腕組みしてユラが言った。
「私の水分が役に立つかもしれないから、みんなについて行くよ」と小声でルウスが言った。
「大きく後悔する。俺は距離をとるから」とセンリ。
「着いて行くのか、センリ?」とエイジ。
「出来るだけ離れて着いて行く。そして関わらない。リスクが増えるだけだ」と苛立ち気味にセンリは言った。
ここも一辺一キロメートルの正方形に区画された第十二地域は、対角線の距離が約千四百メートル。その中央の梁に人間らしき者がぶら下がっていた。四人は、対角線に沿って、梁の下を潜るように前進して行った。
百メートル、二百メートルと確実に前進し、五百メートルの地点まで到達した。
梁は地上から高さ二百五十メートルの高さにあり、崖に深々と突き刺さっていた。
この地点に来ても人間らしきは未だ人間らしき者としか確認出来なかったため、更に直下まで進もうと先を急いだ。
二百メートル進むと人間らしきの直下まで、辿り着いた。見上げると二百五十メートルの高さを識別するのは、難しい作業だった。
確かに人間らしき者がぶら下がっているように見えた。下からエイジ、ユラ、ルウスが、大きな声で、人間らしきに呼びかけた。反応がない。何度か呼びかけた。反応がない。
人形か何かなのか。
「言わんこっちゃない」苛立たしく、センリが呟いた。
その時、四人が立っている地面をユラが苛立ち、揺らし出した。すると梁と同形同材の木材が長さ一キロメートルの巨大さで地上に現れた。
地上に現れた巨木にユラは絶えず振動を与え続けた。その梁は徐々に四人を乗せたまま、上昇して行った。
吊るされた人間らしきに近づいて行くと、それは木で作った人形だと言うのが分かった。四人は大いに落胆した。
しかし、エイジは前向きだった。更に崖の上端を目指して梁を揺らし続けて欲しいとユラに頼んだ。
巨木は振動を繰り返しながら、徐々に上昇し四人を乗せて、高さ二百五十メートルの三十本の梁を超えた。
更に上昇して行き、崖の上端に四人を乗せた梁の位置は達していた。
「みんな、城だ。城がある高さに来れたんだよ」エイジは笑みを含み言い放った。
「相談なしに勝手な事を」と皮肉一杯にセンリが言った。
「先ずは崖まで移動しよう」とエイジ。
梁も梁で7、8メートル幅があったので安心して北側の崖までの五百メートルを渡る事が出来た。
「霧で視界がきかない。城はどこにあるの?」とユラが声を上げた。
「城って話も学ランたちの浮ついた嘘なんじゃないか?」とセンリは疑心暗鬼になっていた。
「どうして、崖を歩いてみても何も見えて来ないじゃないか」と再びセンリ。
「じっくり探しに行こう」とエイジが自分に言い聞かせるように言った。
崖の端を東に暫く進むと、それは忽然と現れた。
幅、奥行二百五十メートルの薄い黒曜石の板が、階段状に三十枚立ち現れ、三十段目から浮くように同じ黒曜石の一辺が二百メートルの正方形断面、高さ約千八百メートルの直方体が現れた。
この直方体は、西に十五度傾いており、上端から上はどうなっているか、確認できなかった。雲が厚かったのであった。
「これは城なのか?全くイメージに沿わない」とエイジが大きく言う。
「この中に進むとなるとまるで視界がきかなそうだ」とセンリ。
「城にたどり着く事が一つのターニングポイントのように、捉えていたけど、この建造物は混乱してしまう」とユラは見上げながら呟いた。
ルウスは水の中で呟いた。
「私はただ不安。私だけ身体が違うし。どうなるのかな」
「城主に会えることの期待、この世界の構造を教えて貰える可能性、俺らの存在の意味、どこから来たのか、その答えを示してもらえるか」とエイジは呟き、「その期待を持ちここまで来たのはある」と続けた。
ユラ、ルウス、センリも同じような事を考えていた。
「これが城ならば答えを求めて、中に入って行く選択肢を俺らは持たないといけないかも」とエイジは階段の段板を押しながら言った。
残りの三人は方々を見つめながら考えていた。
時間はかかったが、無駄な時間にはならなかった。
四人は黒い階段に足をかけ、黒い城に向かう決意を固めた。
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