第4話 第十一地域
崖にアーチ状の木扉が確認出来る位置まで到着した。センリの炎の力を使って扉を焼失させ、先に進む案が採用された。左の脚を器用に持ち上げると、もう一つ踏み込み、網状の脚の踵から炎を扉に向けて発射した。
扉はみるみる燃えて焦げ落ち、炭となってアーチ周りに広がった。アーチに向かい前進をする四人は、アーチの中のトンネルが今までより奥行きがある事を感じ取った。
しかし、特別な変化も見受けられず、次の地域に足を踏み込んだ。
とても暗い地域で、街灯に照らされる看板、ネオンサインで第十一地域にたどり着いた事が分かった。学ランたちがいた。
「地域、地域で天候が変わっていると言うのか。気味が悪い場所だ」とセンリは呟いた。
すると薄気味悪い暗闇の中を例の学らんの者たちがいそいそと、何か運んでいた。
「君らの方が詳しかろう、ここ第十一地域はどう言った所だろう?」とセンリが声を張り上げて質問した。
学ランは帽子を直しながら答えた。
「ここはラッキーな場所なのです。ちょっと先に地域を対角線状に登る階段がある事がわかります。それがどこに通じているのか、お分かりでしょう?」
センリは答えた。
「もしかして、あると言われている城への階段か?登り続けると到着するのか?」
学ランたちは一斉に作業の手を止め、一斉にこちらを見た。
「ご名答!その通りです。階段の段数は一千段。晴れてそこまで登る事が出来れば城は目の前です」と答えた。
「それで他に情報がないのか」とセンリ。
「順番にしか報告する事が出来ない決まりになっております」と言うと、作業を開始して大きめの煉瓦を階段から上に運び出した。
階段は巨大なものだった。幅は十メートル、高さは三百メートルに至る段差三十センチメートルの構築物であった。
エイジ、ユラ、センリはいざ行かんと前のめりになっていたが、ルウスだけは違っていた。それは彼女の特殊な水の体型を維持しながら、小さな階段を登れるか不安だったからである。
ルウスはその不安を率直に皆に伝えた。
ユラは言う。「この機会は絶対チャンスで、登らない手は無いと思う。考えたのだけど、両手両足を使って登っていくというのは、どう?ここの平らな場所で確かめてみてはどう?」
そう言われたルウスは、少ししかめ面をしながら、身体とゼリー状の水をうつ伏せにした。両手両足で身体を押し上げると、四つん這いで少し歩いてみた。
「どう?」とユラ。
「思ったより身体が動かし易い、階段、登れるかもしれない」とルウス。
「ルウス、少し前向きになってきたな」と、センリ。
「どう思うエイジ?」とユラ。
「うん、失礼だけど、これだけの体格をルウスが四つん這いで動かせるなんて、驚いたよ」
「そう言われると、恥ずかしい」とルウス。
「でもこれで四人とも城を目指せるなら、御の字よ」とルウスは喜び飛び跳ねた。
彼らは既に気付いていた。高さ八十メートルまで登っていた。この大階段は日干し煉瓦を積み上げて出来ていた事を。ルウスの水分が煉瓦に染み込んで、彼女の重みで階段が崩壊していっている事を。
しかし、四人は後戻りは出来なかった。既に階段は溶けてなくなってしまっていたのだから。前進のみが選択肢だった。
しかし、日干し煉瓦の階段を水で溶かしながら進むのは無理があった。ルウスが階段を溶かし落として行き、登ってもたいして高さを稼ぐ事が出来ないのである。
終いには前進をすればする程、下って低くなって行く始末に至った。
「もう城は諦めよう、これ以上進んでも下るだけだ。ルウスにもっと溶かしてもらって、地上に戻ろう。学ランたちはこうなる事を見越していたんだよ!」と怒りを覚えながらセンリが言った。
そう言っている間にも、ルウスの大量の水分と重量で、階段はどんどんと溶け落ちて行った。
このままでは全員ばらばらになって、地上に叩き落とされていくと思ったルウスは、ゼリー状の水分の中に、エイジ、ユラ、センリを取り込み、来るべき崩壊に備えた。
階段は乾燥部分と溶けた部分とで、二つに千切れ、溶けた方にいた四人は百メートル程の高さから、ルウスに包まれつつ落下していった。
約百メートルの高さを水の中で無呼吸で、三人は苦しみながらの状態だった。地上にルウスが接触した瞬間、大きく跳ね上がり、制御不能の状態で、何度も位置を変えながら、次第に跳ね返りは落ち着き、最後は静止した。
静止後、エイジ、ユラ、センリはルウスの中から外に放り出された。三人は泥とまみれ、不快感に満たされていた。
「ここはどこだ?」とセンリが言うと、エイジが辺りを見回した。暗闇に草木が茂り、垂直に崖、乾いた日干し煉瓦がそそり立っていた。
「十一地域の隅に来てしまったの?」と泥を落としながらユラが呟いた。三人とも泥まみれの姿に不快感を示していたので、ルウスはまとめて水を身体に放出した。二分もすれば泥は吹き飛び、濡れてはいるが、綺麗な身なりになった。
その二分間の間にエイジは、草木の奥に日干し煉瓦をくり抜く形で、アーチ状の木扉がある事を見付けていた。
「まだ地域は続くと言う事、目処が立たない事、城はどこにあるのか」エイジは呟いた。
彼はみんなを促して木扉の前に来ると、センリを呼びつけ再び扉を火炎放射で焼き落とすように指示した。左足の義足を抱え上げ、扉に向かって炎を放射した。
炭、灰と化した扉は地面に焼き崩れた。今度は左カーブがかかったようなトンネルが続き、今までになく照明が付き、明るかった。
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