第2話 才能と成長

3日後


「おお!新入りにしてはなかなか似合ってるじゃないすか」

「ふむ、ぴったりのサイズが残っていてよかったです」

「あ、あの…よろしくお願いします!」


 結果的に言えば、雇われる形に収まっていた。僕が指輪を盗んでしまった事のお詫びとして1週間お試し店員として働かせて貰う事で5歳から働くのは一般的なのでその練習としては丁度良いのではないか、と話は纏まっていた。

 その他諸々の詳しい所は聞かされていなかった。


 一昨日の父が聞いた話によるとアベリア商会なる人達が街に入っててきたらしくアベリア商会の特徴は変人の店長だが品揃えが豊富で、変態の店員だが接客上手、変な店だがリピート客が絶えない知る人ぞ知るそこそこ有名な商会らしい。


 そんなこんなで約束の日に店に赴くとまさに例のアベリア商会、母は驚きからか冷や汗を流し父は覚悟を決めたようにしかめた顔をしていた、店に入るとあれやこれやと社員室と言う所に流されて大人達の話が終わると今日から働く事になっていた訳だ。

「頑張れよ、仕事が終わったら迎えに来るからな」と父は仕事に向かい、母も「家事が終わったらすぐに来るからね」っと何度もこちらを振り返りながらも家に帰って行った。もちろん僕は見えなくなるまで手を振ることを忘れない。別に寂しくないし。嘘じゃないし。






「改めて紹介させて貰うよ、アベリア商会の店長をやらせてもらってます、タチバナヨウです」

「俺はシュウっす!接客担当っす!久しぶりっすね!」

「トウよ、雑務を担当してるわ」

「アズマです、僕は仕入れ担当やってます。これからよろしくお願いします」

「私はカゲだよー、カゲはカゲなの~よろしくね~」

「ボ、ボクはレクトデス」


 緊張で片言になりながらも何とか自己紹介をする。店長ことタチバナヨウさんと巨人ことシュウは知っていたがが後の3人は初めて見た、それに…


「トウさんとアズマさんとカゲさんってもしかして亜人ですか…?」

「よく知ってるね~そうだよー私はハーフエルフでよ~こう見えてもピチピチの62歳だぴょん」

「エルフ!」

「ふふん!僕は犬の獣人です、だから鼻が利くのです!君の今日の朝ごはんはラピット肉と玉ねぎ、隠し味にヒポプテ草のスープですね!」

「あ、あってる!!」

「ドワーフよ」

「か、かっこいい!!!」

「…ふん、亜人って呼び方は気に入らないわ、でも、見処あるじゃない…」

「俺は置いてきぼりっすか!?混ぜるっすよ!」

「「「黙れ変態」」」

「ハァン!ご褒美っす…」


 初めて亜人、、じゃなくて、エルフと獣人とドワーフと呼ばれる人達を見た、カゲさんは妖精さんみたいでアズマさんは頭の上に三角の耳がぴょこっと出ててかわいいトウさんは銀色のサラサラ髪がとても美人を際立たせて居た。皆凄い人達なんだぁシュウさんは置いておいて…それからは皆は僕の質問攻めだった。初めて見る自分に無い特徴を持った人達で、聞く事が新鮮で逆に僕の事を質問されたりして楽しかった。


「仲良く慣れそうで良かったです。けど、仕事は仕事。今日からレクト君にやって貰うのは読み書きの練習です!」

「はい!!!」

「いい返事です。そうですね、カゲ頼めますか?」

「ん、了解。ビシバシ教えるの~」

「ビシバシとかそそるっすね」

「次この子の前で言ったら殺すよ?」

「わかったっす!まずは物騒な魔法の発動をやめるっす!言わない!言わないっすから!!」

「ほんものの魔法だ!すごい!初めて見ました!!」

「お勉強が終わったらおねーちゃんが教えてあげるです!だから頑張るんですよ~」

「うん!」

「…ちょっと羨ましいです」

「トウったら珍しいですね。そんなにかっこいいって言われて気に入っちゃいました?」

「うるさい…」


「はい!では朝会議終了。今日も1日頑張りましょう」

「「「「はい(っす)」」」」





 それからは忙しい日々が続いた、毎日朝早くからアベリア商会に行き朝はカゲさんに読み書きを教えてもらい、昼は店の掃除とお金の計算の練習とシュウさんに言われてたま接客をしたり、空いた時間にはカゲねぇに簡単な魔法を教わったり、店長の冒険話(たぶん嘘)を聞いたり、シュウのパシりに使われたり、トウさんがカゲねぇに嫉妬してたり、シュウにパシりに使われたり、アズマさんとお出かけしたり、シュウがサボってるのをバラしたり、トウねぇと仲良くなったり、シュウがこうかくしょぶんされて僕のパシりになったり。

 1週間だけの約束だったはずが1ヶ月に伸びて、2ヶ月、半年っと僕が続けたいと言ったからどんどんと延びていった。

 その間に僕は読み書きにお金の計算に簡単な魔法を一通りに覚えた。最初は知らなかったがプレゼントされた指輪は『鑑定の指輪』と言うアイテムで指輪を持つと見たモノの名前がわかるらしい。

 初めてこの指輪を持った時に見えたのはこの『鑑定の指輪』の漢字が僕には読めなかったらしい、でも読み書きを覚えた事によって〖鑑定〗と言うスキルを正確に使える様になったと店長を初め皆にすごく褒められた。〖鑑定〗とは指輪を付けているだけでなく装着者の才能がなければ正確には使える様には絶対に使える様にならないらしく。褒められた事が嬉しくてずっと指輪を付けている。


 僕だけの秘密だけど掃除の時に〖鑑定〗を使うとホコリが視えて掃除大会で僕に勝てる人は居ない。


 そんなある日、この〖鑑定〗に不思議な事が起こった。


「タチバナ店長、鑑定すると名前以外にも説明?が浮かび上がる様になったんですけどこれって何ですか?」

「ほー、それはスキルの"成長"ですね」

「成長?」

「そうですね、鑑定の指輪をもう一度鑑定してみて下さい」


 言われた通りに〖鑑定〗を発動する、といっても伊達に毎日付けてない。寝る前にはいつも手入れは欠かさないので細かなキズでも一瞬で見つけれるのだか。


『鑑定の指輪』

・〖鑑定レベル1〗

 新品のようだ。


「鑑定レベル1?」

「ふむ、しっかり視えてますね。実はスキルには"レベル"と言う概念があるのです。レベルが上がる事を成長と言って簡単に言えば強くなったと言えますね」

「でも鑑定レベル1って一番下ではないですか?」

「そうです、いい所に気が付きました!成長したのは指輪じゃなくて…

アナタです!!」


 僕を指差す店長の顔はシュウから聞いた事のあるドヤ顔。『キマった…』っと幻聴が聞こえてきそうなのはさておき話は続く。


「やはり私の推測は間違ってなかった!レクト君間違いなく君は鑑定の才能を持ってますね」

「鑑定の才能?」

「前に才能が無いとスキルが使えるようにならないと言ったのを覚えてますか?」

「はい、才能が無い人には絶対に使えないって奴ですよね?」

「その通り、しかしその才能にも階級があるんです。例えば水魔法ならこの才能が下の中くらいあれば練習すれば誰でも使えます。しかし水魔法の中級を使うには中の下は無いと難しいでしょう。しかしこの才能が上の上、所謂天才だったら、中級の水魔法なんて1度初級の水魔法を使ってコツを掴んでしまったら覚えられてしまう、とまあ魔法に限らずそんな才能の階級がある。と言うのが伝わればいいです」

「僕には〖鑑定〗の才能、それも高いのを持っていると言うことですか?」

「そうです。私がレクト君に初めて会った日の事を覚えてますか?あの時私は本当に驚きましたよ、1度、それも不完全な状態の〖鑑定〗でスキルを取得してるいる。すなわち」

「天才…」

「あぁ!私が言いたかったのに!」

「えへへへ」

「ま、まあ正解です。それに君は若い、可能性があるなら最高の高みを君に見せてあげたい」

「本音を言うっすよ」

「ついでにうち専属の鑑定士になってほしい…ってシュウ!?」

「ほーら言ったっす!そんな事でレクトは騙せても俺は騙せないっすよ~!あんななりして店長はしたたかっす!レクちゃんは見習っちゃダメっすよ!」

「…」

「無言の圧を感じるっすね!これは戦略的撤退っす!あっ、レクト借りて行きますね!今日は剣の稽古するっよ!」

「えっ!?ちょっまっ」


 有無を言わせぬ聞かぬで走り去るバカシュウに誘拐された僕は練習場に連行されるのであった。


 ちなみにボロボロに負けた、稽古と称して勝つと片手で両手を塞いでくすぐるのは流石に大人げないって、絶対僕で遊んでるって…次は勝「反抗的な目をしてるっす!」

「ギブギブギブ!許して!もうしなアヒャヒャヒャヒャヒャ」


 このあとシュウはめちゃめちゃ怒られた。

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