第4話

彼女が話したがっていたのは自分のことに限らず、周囲の人や世の中そのものに対してだった。


僕はその度に話を聞くつもりで臨んだが僕の態度は気に食わないようでよく怒られた。

「この前、死にたいって子がいたんだけど、理由なんかなかったんだよね。だって、話を聞いたって『自分が嫌』とか『自分の人生が嫌』とか言うだけで自分で自分のことを好きになろうとする努力しないんだもん。

もう聞いてて気持ち悪くなっちゃってさ、

なんかもう、さっさと死ねば?って感じになっちゃった。」


こう言う言葉をはっきり言えることが彼女にとっては愛すべき自意識になっているんだろう。

僕は話を聞くだけだ。


彼女について話すことはたくさんあるが、それは追々話していく。

僕は勉強をすることを続けようか迷っている。少しの参考書と山のようなノートが僕を踏み止ませる。

これまでやってきたことに対してどうあるべきか、なんて考えるのは初めてだった。

過去の自分は未来の自分に何をしたかったかなんて期待はしていなかったが、僕は生きたいとか死にたいとかを考える癖がついてしまっていた。


ところで、SNSでいくつかの言葉を見つけたと彼女は言っていた。

「この人小説家気取って気持ち悪いポエムを毎日投稿してるんだよね。この人はね、売れない音楽家で、ほら、フォロワー少ないでしょ?でも曲はいいと思うんだよね。

この人は会社員なんだけど、絵を描いていて凄い素敵なの。」


彼女は矢継ぎ早に話す。自分が話したいから話している。僕はサンドバッグで、彼女はスピードが武器のプロボクサーみたいだった。


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