運命、陰る
金色の縁、『月光』を飾る。 なかなか綺麗な額縁だけど、見方によっては安っぽさもある。100円だし仕方ないか。
丁重に紙袋に入れて、僕は扉を開ける。
「いってきます!」
露に照る赤い花、影を孕むジャングルジム、まだ霞む空、いつもの風景。
街路を曲がり、あの家へ。
今日はピアノが聞こえない。昨日、言い争ってたもんな...
「おはよ、そなた君。」
しょげていた所、背後から突然橘花さんが姿を現す。思わず僕は驚いて顔をくしゃげる。
「わぇっ!?お、おはよう。なんで、いつの間に?」
「ずっ〜といたよ。そなたくん、ピアノの方ばかり見てたから気づいてなかった。」
「そおなんだ。今日はピアノ弾かないの?...あ、いやごめん。」
話している途中で昨日の出来事を思い出す。意味もない謝罪だと、我ながら馬鹿らしく思う。
「そんな謝らないでよ。まあまだ仲直り出来てないけど、私の想いはとうに決まってるもの。でも、今日はピアノ弾かない日!ちょっと疲れちゃった!」
「そうなんだ。ぁ、あの、ほんとにごめん僕、橘花さんのピアノ好きだから、ずっと応援してるね。あ、あと、コレ」
紙袋から『月光』を取り出す。
「うわぁ!綺麗!ほんとに素敵!やっぱりそなた君才能あるよ!大事にするね。ほんとにありがとう!絵のタイトルは何にしたの?」
「月光にしたよ。特に理由は無いけどね。直感。」
「月光...月光、うん!すごく似合ってる。あのね、月光って、ピアノの曲にもあるの。私、その曲がすごく好き。ずっとこの家で弾いてたのも、月光。なんか、運命感じるね」
はにかむ彼女の顔は、雲間から顔を出す太陽に照らされてより一層輝いている。
「そうなんだ!月光って言うんだ。橘花さんが弾いていた曲。僕もすごく好きだよ。あの曲。少し悲しくて、でも、美しくて。すごいね。こんな偶然あるんだね。時間も時間だし、そろそろ学校に向かおうか。」
「うん!」
それから僕らは他愛のない話で盛り上がった。転入してきてすぐは、あんなに印象が悪かったのに。今じゃこんなにも仲良くなってる。
これも運命ってやつなのかな。なんにせよ、いま、すごく幸せだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます