#33or64:羊頭or狗肉

「ゲームは全部で『五ターン』。それが終了した時点でいちばん多く『賞金』を得ていたヒトに『優勝賞金』としてプラス二千万円を進呈します。同額のヒトが複数いた場合は残した『札』の数字が大きい方へ。それも同じだったらくじ引きで決めます」


 おい。馬鹿丁寧な口調になったが、言ってることは不穏というか激し過ぎやしねえか。「五ターン」ってことは手持ちが六枚だから一枚余らせるってことになる。そこらへんにも駆け引きが生じそうだが……今考えるべきは進呈されるっていう額の多寡だ。「6」って手書きの汚い文字が踊ってるこのアクリルのちんけな札が、「六百万円」ってことになる。うまく立ち回って五戦全部で回収出来たのなら、全員が全員、千五百万から二千万持って帰れるってことになるのか。それプラス優勝者に二千万円だと? 二億五千万の軍資金があるにしろ、大盤振る舞いに過ぎる気がするが。


  いや待て待て。「七人:六種:五戦」ってとこが性悪だ。


 そこまでうまくは行かないってことか。よくよく考えてみれば参加者は七人。六種しかない札を最大にばらけて出したとしても当然最低二人は被る。「1」が二人被って後はバラバラ、ってのが最大の奴の支払いパターンと考えられるから、その場合、二千万の払い。それが最悪五戦続いてプラス優勝賞金足すと……一億二千万円が最大支払いになる。ちょうど半分くらいってことか。いや、「1」が一ターンで二枚消費されることを考えると、四ターン以降はそれ以上の数字を重ねないとになるからもう少し減るかもだが。細かいことは考えすぎるとこんがらかってくるのでやめた。ともかく、


 そのマキシマムがまず起こりえない確率だってことも承知の上なんだろう。まあ最大限うまくいってそれだからなぁ。結構考えてやがるな。そして一人頭、二から三千万のお持ち帰り。なかなか惹かれる額でもある。割と現実的なというか。うまい設定……見ればどの女の顔も真剣みを帯びてきた。降って湧いた案件としては破格だ。やらない選択肢はまず見当たらないか。いや、待てよ……


 ここにいる七人が結託すれば、全員が結構な額を得ることが可能なんじゃあねえか?


「……」


 素早く視線を走らせて、それぞれが肩口に俺の姿格好をした人形然としたものを乗せているという不気味な絵柄に負けず、それぞれの思惑を探ってみる。案の定、目線を送り合っているコも何人もいた。が、


「もちろん、話し合って出す札を決めてもいいし、ゲームが終わった後で、勝った人が負けた人に賞金を分けてあげてもオーケーだよ」


 シンゴはのんびりとした口調でこっちが考えていた事を呈示してきた。何だと? それを許してしまうのかよ。どういうことだ?


 場の面々も虚を突かれたようだ。まずは頭の中で考えているんだろう。全員が上目遣いというか虚空に焦点を合わせたまま固まってしまった。


 俺も考えてみる。結託するのなら過半数の四人以上じゃないと難しいというかそもそもの意味が無さそうだ。ベストは六人……か? 六人が違う数字を五ターン出していく。残る一人が何を出してもどれかに当たって潰される。から六人の誰かが優勝できる。そして得た賞金を六人で山分け……その場合だと、一から六まで足した数字、二十一の五ターン分で一〇五、そこから残る一人に相殺される分……最大で二から六まで足した二十を引いて八十五、つまり八千五百万円と優勝賞金二千万で計一億五百万円。六で割ると一人頭は千七百五十万円。なかなかだ。


 でもなあ……こいつらはそこまで仲いいってわけでも無いしな。それ置いて理で結託するにせよ、諸々事情が絡みまくってるからなあ……シンゴのいかれたハーレム理論に基づく手管で、互いを競わせるようにさせて自分に興味を向けさせるなんてことをやってたからなぁ……まず他の誰かを信用することからして難しいか。そして出し抜くことを考えてる輩もいるだろうし、その考えに至った時点で他者への信用なんか皆無になるだろうし。って、そこまで考えてんのか、あの丸顔は。


 それはそうかも知れなかったが、それだけじゃあ無かった。


「で? 何かおいしいコトだけ目の前にぶら下げてくるけどさぁ、当然デメリットってのもあるわけよねぇ? それ呈示して来ないのはアンフェア。このお金の安全性、ってのも私らには知りようも無いしねー」


 杜条なら、そのくらいのつっこみはしてくると思った。デメリット。だがあるんだろうか。シンゴは純粋な気持ちで店舗経営を考えていて、その従業員として最適なこの七人を勧誘している。そこは間違いないと思うんだが……


 全然違った。


 いきなり凪いでいた丸顔が変な感じに溶けて崩れた。うふふふふ……という気色の悪い押し殺した笑い声も漏れてくるが。まさかこいつ……


「僕に没収された札は、いつでも使える『チケット』となる、っていうのが最大の細則、だよぅ」


 言いつつよれたコピー用紙を抜き出すと、こちらに向けて掲げてくる。果たして、


<『札』を呈示された場合、その者はその数字に応じた身体の箇所をその相手に自由にさせなければならない。


 1:両手首より先

 2:両肩より先

 3:脚の付け根より先

 4:上半身

 5:首より上

 6:下半身          >


 思っていたより相当ヤバかった。ハーレム計画は未だ健在だったわけだ。そこは本当にブレねえんだな大したもんだよ……


 全員からフクロにされても致し方無いほどの「細則」だったが、そこはカネの力。気色ばんだ一同だったが一呼吸で落ち着いたようだ。損得勘定なのか何なのかは分からなかったが、逡巡は一瞬だった。おそらくはそこまで強要は出来ないと踏んでいるんだろう、シンゴの性格的に。が、不気味は不気味だ。それにこの細則とやらによって、


 結託作戦は完全に瓦解したことになる。誰が好んで「4」「5」「6」辺りをカブらせる? そこは話し合いでは永遠に解決しないだろう。よって、


「……」


 ガチのタイマン勝負と相成ったわけだ。うぅん、そして春日嬢はこの諸々の中でも静かにいい姿勢で微笑んでいるだけなんだが、大丈夫か?

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