#18or79:疾風or迅雷
天城の構想。その一端の、ほんの先っぽ辺りが呈された、としか思えなかったが。
サイコロを使ってのギャンブル。一見、公平。一見、運任せ。とは流石に楽観は出来なかったわけで。それでも場に流れる雰囲気は相変わらずの弛緩気味。余興のビンゴにでも興じるようなイベント感。いや違うだろ。それとも俺が重く考えすぎているとでもいうのだろうか。
「ゼロナイン何とか」。出目が「0」から「9」? 出目の幅を増やしたところで、結局は運なんじゃあねえのかよ。分からない。天城の意図からして不明だが、どう出たらいいのかも皆目、に過ぎる。
「こちらが『ルール』になります。ここに書かれていることが全て。今の段階で、ということですがね。至らないところもある私でありますからして、この『第一回戦』の対局を通して、その場その場で細則を付け加えていき、完璧なものに仕上げていきたいと思っている所存です」
背後のスクリーンを指し示した天城の横顔は、
<一、 サイコロをひとつ選択する。赤と青の二色あるが、これは対戦相手と違う色で区別しやすくするためであり、実際の対局に使用するのはひとつとする>
<二、 主催者から『ダイス』の掛け声が上がったら、そこから五秒以内にサイコロを『ボウル』と呼称される『場』に入れる。五秒を過ぎた場合、負けとなる。対局者双方が五秒を過ぎた場合は、双方失格となる>
<三、 天面の数字を『出目』とし、その多寡で勝負を決める。具体的には大きい数字を出した者が、小さい数字を出した者から、数字の大きさの差分だけ後述の『ライフ』を減らすことができる。これをどちらかの『ライフ』がすべて失われるまで続ける>
<四、 『ライフ』はひとり一律『10』。しかし自分の対局開始時点での『十万円』を支払うことによって『1』を買うことを可能とする。この購入は各投擲の前に受け付ける。ひとり何回まででも、一度にいくつ購入しても構わないこととする>
いや、分からねえぞ。周りも流石にざわめき始めたが、何となくの困惑気味の雰囲気。そしてその間にも参加者の群れの中を縫って黒スーツのスタッフらしき男らが次々と参加者を照会しながら何やら封筒を手渡している様子が見て取れた。おそらくカネだ。参加した全員に配るとかのたまっていた「十万」、それに人によっては「紹介料」とかを上乗せした額が豪勢にも振る舞われているんだろう。
「96番」の「ミカゲコウゲ シンゴ」様ですね、と念を押され、心ここにあらずでがくがく頷いた当の丸顔にもしっかりとした紙の造りの、何かのマークが箔押しされている封筒が手渡されていた。
全員十万は持っての「対局」になるわけか……あるいはそれ以上のカネ持ちもいるだろうが。いや待て、シンゴも百五十万がとこを剥き身で持参してきたぞ? ライフの多寡勝負……これはかなり優位に立てているんじゃあないか? まあ同じ額をあの「会合の五人」も得ているか。あいら、鹿屋、日置、三島、出水。こいつらと当たることはなるべく避けたいが……対局相手はどう決めるってんだろう……?
分からないことだらけの割に、進行役のそつ無さがそうするのか、するすると場は動き始めている。落ち着け。
「まあ、まずはやってみた方が早いということで、どうです? この壇上でどなたかおふたり、エキシビジョン的に対局をやってくださる方いませんかね? もちろん勝敗は厳然とつけさせていただきますが、もちろんタダとは言いません。百万。勝利した方へこの場でお渡しします。どうです?」
カネ、カネ、カネで掌握しようとしてくるいけ好かなさはもはや清々しいほどだが、うさん臭さとか脂ぎった何かを感じさせないのはもはや才能なんだろう。とは言え、いきなり行く奴はそうはいねえだろう。まずは「見」がこういう時の定石。有利な出目を持つサイコロがあるかも知れねえし。とか思っていたら。
「は、はははははい~、やらせていただきますでゅふっ」
至近距離からそのような声が放たれていたわけで。びしっと左耳に左腕がつくようなとてもいい姿勢にて挙手。そのよれたシャツの袖口はほつれまくっていたものの、それは良い姿勢でそう言い放っていたのだがェ……
待て待てまてまて。何でお前は俺に相談することも無しに脊髄で物を考えてそして即決してしまうんだよ? おおかた隣のあいらにいいとこでも見せようとか思ってくらいのことだろうことはもう筒抜けレベルで分かろうものだが。うぅん……いやこの身内ながら予期せぬ勢いに乗るしかねえのか……? それでもって流れを引き寄せるしかねえのだろうか。とにかくもうやるしかない。
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