#15or82:無茶or苦茶
明けて火曜。六月十一日。「一回戦」の締め切りまであと三日。昨日はいろいろ「意識」のキャパを超えることがありすぎて、ほとんど昏倒するように「寝て」しまったわけで。その反動で朝四時くらいに目覚めた俺は、薄紫に染まる空を開け放たれた窓の隙間からぼんやりと仰ぎながら諸々をもう一度整理しようと努め思考をくゆらせるのだが。
てっきり「九十六名」での生き残りというか復活を賭けた戦いに巻き込まれたかと思っていたが、さらに俺だけに未来を賭けた「七名」での戦いが付与されていた。猫耳はあれだけどや感溢れる感じで「能力の承継」以外では、「未来は変わらない」とかのたまっていたが、シンゴが俺の母親を選ばなかった場合、
この俺という存在は消滅する、と思われる。もう既に「可能性の何とか」という幻影にしてははっきりとけったいな自我を有した輩どもが現出していることもあり。そしてシンゴは鼻息荒くハーレムがどうとか言っていたが、例え親父が「二人以上」と褒められたことでは決してない関係に陥ったとしても、生まれるのは「一人」であると思われた。
「可能性の僕ら」が「本当の未来の自分」を掴むための覇権争いへと発展する――「白」の朋有が言っていたことを鵜呑みにするわけではないが、何となく、七色の俺らは本当に等分割された「意識」の破片のような気がした。この今、思考をこねくり回している「俺」ですら。確かに、俺は確かに二〇二〇年まで十八年という短い時間だったが生きてきたと思っていたが、それもあやふやになってきた。例えばこれも誰かの夢に過ぎないとか。いやいや……
あまり根源的なことを奥へ奥の方へと考えるのはやめておこう。
俺の視界の中でぺったりとした布団の上で大の字をかいていびきと無呼吸を繰り返している丸顔を見るにつけ、その周囲二メートルという微妙に気障りな範囲に同じような寝相で転がっている大小まちまちなてめえの色とりどりの姿を見るにつけ、
流されるところは流されるしかしょうがないような気がしていた。それよりも「初戦」の立ち回り方だ。天城は締め切りの三日後に参加者を招集するつもりと言っていた。「一斉対局」を望んでいるとも。例の、いろいろな力場が渦巻いている秋葉原にて。そしてそこで呈されるのは「対局の方式」と思われる。天城に適した、あるいは天城が求めているだろう「能力」を持つ者が勝ち上がれるような?
何はさておき卑怯とも思われるあの財力だ。対局に勝利すればいくら出す、とかの条件がつけば、乗らない奴はまあいないとも思われる。そして期限までに対局しなければアウト。であれば大多数が「天城杯」参加に流れる。対局者がいなければ対局が成立しないから不承不承参加せざるを得ないものもそちらに流れる……
究極、九十六人が全員、参加ってことになるよな……
この時点でもう天城の策に乗せられている気もするが、諸々「時間」……「期間」は欲しいところだ。第一戦は確実に勝っておきたい。その後どうなるかはその後のとりあえずの猶予期間「二週間」で考える。
能力開示により、破格の百五十万円を得たので、シンゴがバイトに精を出す必要は無くなった。これを機にやめちまえと言ったら、そそうだね、そうだ秋葉原のあのファミレスで代わりに働くというのはどうだろう? 秋葉原というあの「場」を見張っておくっていうのは結構重要なんじゃないかな……とか言い出したが。お前あの七人のウェイトレスとお近づきになりたいだけだろ? とは勿論言わなかった。言わでもってこともあったが、そこに鋼の意志のようなものを感じたから。良し悪しはともかくこの行動力……こういう奴が成功するもんなんだろうか。
ともかく、
本当にその日中に元のバイト先をやめて、秋葉原の例のファミレス「ジョセフィーヌ」に調理スタッフとして即日採用されたシンゴは、もはや直前に迫った「対局」のことなど忘れておるのだろう……見た目に反して異様なほどの手際の良さを見せつつ、俺の目から見てもルックス偏差値が高いと思われる「七人」とたどたどしくも会話なんかをこなしているように見受けられるが……いや、どうすんだよ。
その七人とのやり取りにおいて好感度が上がったかと思われると、それに対応した「意識体」が大きくなり、逆だとしぼむという分かりやすいっちゃあそうだが、ワケ分からない謎仕様が付されている。うぅんこれ可能性がゼロになったらその場でパチンと弾け飛んだりしねえよなあ……
俺の母親と思しき「春日
「可能性の俺たち」の現在ランキングは、
一の座:
二の座:
三の座:
四の座:
五の座:
六の座:
七の座:
すがすがしいまでの評価軸に、こちらでの生き残りに早くも黄色信号が灯り始めてきていることを感じ、かと言ってどうとも出来ない俺がいる。手乗りくらいの体長になりながら。
そして、とうとうと言うかようやく、「対局」の日がやって来たわけで。
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