#14or83:有象or無象

 そして。その後は諸々省くが。


色々なことがあった。謎の「白く光る俺」が突然現出したことの、その前も、その後も。


 その何連発かの衝撃の何発目かで、思考の限界を流石に迎えてしまったようで俺は、「意識体」でありながら全身から力が抜け出てしまったような不可解な状況に陥ってしまっていたわけで。本当に身動きが取れなくなっていたことから不本意ながらシンゴの丸い背中におぶわれるという体勢で、謎の力場が渦巻いていた秋葉原から、枯れていながらも平穏さをなびかせているような馴染みは無いが一日程度で妙に落ち着くようになったホームタウン西日暮里へとほうほうの体で帰って来れたのだが。


 のだが。


「もしやこの流れって、『可能性の僕』らが『本当の未来の自分』を掴むための覇権争いへと発展する? ふふ、それはそれで面白そうだけどねえ……」


 何に昂ってるのか全くもって分からなかったが、「白光り俺」……「ルーツ」と成り得るあのおさげ双丘ファミレスウェイトレスの姓から以後「朋有トモアリ」と呼ぶことにする……は、帰ってきて早々にシンゴの手狭い六畳間の薄壁に寄っかかる体勢を取りくつろぎ始めつつそんな言葉を述べ散らかすのだが。


「そもそもお前らは何だ。なぜぽこぽこ今になって湧いてきた?」


 とりあえずイニシアチブを取り戻したい俺は、少し強めに質問というか詰問を投げかけてみるものの。しかして「お前」でなく「お前ら」。そう、その呼びかけから察せられるように、


「『今』が正にその未来が揺蕩い始めた『特異点』に他ならないと、何故逆に分からない?」

「あるいはキミの『創造力』の賜物……なのかもやん……?」

「せやのやで!! つまりはシンゴはんが選ぶオ×コはんが誰やっちゅうことがまだ決まとりまへんねやのんや!! わ、言うてもたのやで!!」

「ま、この『七人』全部が想定上の竿姉妹ジュニア同士の顕現体と言えなくもないわけやっちゅうねん正味のハナシぃ」

「つまりはあんたはんも単なる『可能性』に過ぎないとこまで落とし込まれてはるかもあらしまへんかえ? せやんあまデカい顔しとると恥かくどすえ?」


 シンゴ実体を中心として二メートルの射程圏内に、俺含めて七人もの意識体がおるェ……シンゴの「ひとめぼれ」はあのファミレスの内部で奇跡的になのか分からないが計七人のウェイトレスに対し発揮されたわけで。見境という概念が無いのだろうか……


 それぞれ身に纏っているオーラのような光の色は、白・赤・青・緑・黄・橙、そして改めて意識して「視て」みると、当の俺の身体も暗くうっすらとした「紫」のそれに包まれていた。見た目はほとんど変わらない。俺、俺、俺の外面を有した何かということは承諾しがたいが確かなことなのだろう。そして何で外見だけは一律変わらぬのだろう……


 さらにはそれぞれの大きさは何故かまちまちだった。等身大と言っていいのかは分からないが、普通の大きさなのは俺と、「白」こと朋有だけ。他は形容すると薄気味悪さが否応増してしまうが、手乗りのいわゆる妖精サイズ、と言ったら良いか。その中でも大中小がある感じなのだが、それがまたこちらの遠近感を揺らしてくる悪影響しか与えてこないという状況。さらにさらにはそれぞれが部屋中央に据えられたちゃぶ台の上でめいめいあぐらをかいてくつろいでいるという過労による幻覚ばりの光景が先ほどからさも当然のように展開している。それにしてもまったくもって意味不明な事柄を立て続けにまくし立てて来られたが、エセい上方言葉の奴が四人もいるよ何でそこに集束していってしまっているのかも謎過ぎて何も話の取っ掛かりも掴めねえよ……


 俺が、「能力」とやらで創り出してしまったのだろうか……それともこいつらが執拗に言い募るように「可能性」がうっかり現出してしまった類いのすこし不思議体験なのだろうか……既に意識体である俺には何も言えることも無かったので、しばし真顔の無言でこのどこか走馬灯めいた光景を意識の網膜に決して焼き付けないように薄く睥睨するにとどめているのだった……が、この澱んだ空気に耐えきれず思わず言葉を発する。


「もう隠しているのも無駄というかアホくさくなったので言うけど、シンゴは俺の父親ってわけだ。俺は二〇二〇年で死んで、その意識だけがこの二十四年前に飛ばされてきたと。そして何故か自らの血縁にあるこの時代の人物を依り代として何故か同じ境遇で選抜された奴らと闘うと。洗い直して改めて説明すると、そうなる」


 今日いちの衝撃的な告白と思えなくも無かったが、今日一連の出来事を顧みるに今日いちのインパクトの無さであることに気付く。対するシンゴのリアクションも、あそうなんだうん……という納得の凪ぎ方であったわけで。しかし次の瞬間その丸顔を小刻みに震わせるように頷かせていたかと思ったら、


「それはそれとしてなるほど……? つまりこの僕があの麗しき七人の花嫁たちを等分に娶ることが出来たのならば、平々凡々たる甘味の少ない青春を送って来たこの僕がッ!! ハーレムの王となる可能性の未来に、僕はなるッ!!」


 昂ってしまったゆえのその虚言にしては漲る何かを有した声が、六畳間を仕切る薄壁をびりと一瞬共鳴させた後、一斉にその出処に向けて差し出される六色の「それだ」の人差し指の群れたち。にやりと音がしそうなほどのいいニヒルな笑顔の群れ。こんな表情の俺を見るのは自分でも初めてだ……そしてそれが色とりどりに連なっていることも……いや、そこじゃあないな、


 ありとあらゆる事柄が、全っ然違うと思うのだが。

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