魔女マツモトアズキーーその後


 顔を上げるとおじさんはこつ然と姿を消していた。まるで、おじさんにもう一度会いに行った次の年のハロウィンのように。私、幻でも見て……ううん、違うよ。


「月でひよった卵とレイズサワースライム」


 私の両手にはおじさんから貰った二つのお菓子がある。


「おじさん、ねぇ、どこ行っちゃっーー」


 ーー後ろから、ソロリソロリと近づいてくる気配がする。もしかして、おじーー


「ーードワォッ! 狼女ただいま参上ダアッ!!」

「ヒッ……て、モカちゃん?」



 目の前で両手を大きく上げたイヌ耳のカチューシャを付けた女の子が私を驚かす。私の友だち「舵束かじたばモカ」ちゃんだ。


「なあんだ、大して驚かせなかったなぁ」


 モカちゃんはちょっと不服そうな顔で、仮装用だという特に改良してない黒パーカーの紐をシュコシュコと引っ張る。


「ご、ごめん、でも、なんでモカちゃんがこんな所に?」

「そりゃ、あずきが急に走り出しちゃうからさ。追いかけるてもんでしょう?」

「あ、そうだよね、心配かけちゃって」

「ああ、いいっていいって悪いのはさとし達なんだから、とりあえずあずきを泣かせた男どもは後でシメとくから」

「も、モカちゃん! さっちゃーー智くん達にあんまり酷いことしないでね。私も悪いところはあったんだから」

「はあい、あずきが言うなら程々にしときま〜す」


 ほ、ほんとにわかってるのかなぁモカちゃん。ちょっとやりすぎる所があるからなぁ。


「あ、そうだモカちゃん。あの、凄く背が高くて頭が燃えてるガイコツ頭のおじさん知らない?」

「え、なにそれ、悪魔に魂を売ったライダーの話?」






「ふぅん、そんなハリウッド映画顔負けなコスプレおじさんがいたんならアタシも見たかったなぁ」

「モカちゃん、私の話信じてくれるの?」

「あったり前じゃん。アタシのあずきがこのアタシに嘘つくわけないじゃなぁい」


 モカちゃんはおじさんの話を信じてくれた。そうだよね、昔からモカちゃんと智くんーーさっちゃんは私の言うことを信じてくれてたもんね。


「それに、動かぬ証拠にそのゼリーっぽいウネウネしちゃいそうなお菓子でしょ?」

「うん、そうなんだけど。私これ実はあんまり好きじゃなくて、おじさんには悪いんだけど……」

「ふーん、じゃ、いらないんなら」

「え、モカちゃんッ!」


 モカちゃんはおもむろに私の手の中のレイズサワースライムを豪快に鷲掴むと

「いらないならも〜らいっと。アングッ」

 一口で食べちゃった。


「うん、なんかちょっと酸っぱくて喉の奥にズルっと入ってく感じで面白い」

「ええ、そんな一口で食べて大丈夫なの? あれ、ちょっとずつ千切って食べるやつだと思うんだけど?」

「えー、そうなん? まぁ大丈夫大丈夫アタシてば馬鹿舌だからなんとかなるなる。おぉ、なんか凄いお腹いっぱいになった感じはあるけど」

「も、モカちゃんそれホントに大丈夫なの!」


 なんか凄くあっけらかんとしてるけど心配になっちゃうよモカちゃん。


「ん、でもなんか凄く元気パワーがみなぎってくる感じがする。なんかリンゴ握りつぶせそうッ」


 た、確かになんか肌がツヤツヤしてる気はするけど……ぇ、モカちゃんそんな力コブできるくらい鍛えてたっけッ。


「まぁまぁアタシの事はいいからさ、それよりみんなの所に帰るよ」

「ぇ、でも」

「みんなも心配してたよ。大丈夫、智がまた照れ隠ししようもんならアタシが絞め落とすやるんだからんっ」

「だ、ダメだってばモカちゃんッ!」

「程々にするって…… 程々にね

 ようしさあほら、レッツゴーゴーでございますっとくらいッ!」



 モカちゃんが私の背を押して公園から連れ出そうとするその時、夜空を見上げると、なぜだかおじさんの顔が浮かんで消えたような気がした。


「またねおじさん、トリックアトリ〜ト〜! ハッピーハロウィ〜ン!」



 おじさんに届くかはわからないけど、私は大きな声を空に向かって張り上げた。






 ーーーー終わり。



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魔女の前に死霊将軍が現れた。 もりくぼの小隊 @rasu-toru

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