魔女の前に死霊将軍が現れた・後
はて、我は幻死の間もといアンデッド城におった筈なのだが、月の浮かぶ暗き空が我の目の前にある。
―――いや我、何故に外に出ておるのだ?
周りを見れば見るほどよくわからぬ見知らぬ建物に囲まれた空間に我は立っておる。なにやら砂を貯めた四角の囲いやら、なんかただ登って滑るだけにしか見えぬ拷問器具のような物が見えるが、なにが何やらわからぬ不可思議な場所である。周りを淡く照らす火も儚く脆い、時折チカチカと点滅しておる。なんだ、光魔法の類であるかーーむ?
―――はて、人間の気配が微かにするであるな?
我が顔を向けた先にあるのは不安定な鎖で繋がれた小さな拷問器具。その上に座っておる三角帽子の女がひとり。気配はやつのもので間違いなかろうが。
―――ふむ、あやつは。
「はぁ……」
―――なにをしておる。
「ぇ、なにーーて、ヒフャアオォッ!」
話しかけたら随分と面白い反応をしおる。まぁ我、念波を直接こやつの頭に流しただけであるが。
「あ、頭がなんかグアングアン響くみたいになっててなにこれ? め、眼鏡があってない、目がまた悪くなっちゃった?」
なにやらぶつくさ言いながら目元に掛けておる魔法具らしきものをスベスベとしてそうな布でフキフキとし始めたがなんの意味があるのであろうか? と、まぁよい、それよりも。
―――キサマ、マツモトアズキであるな?
「……え?」
ふむ、所々成長しておるようだが、この最初にドロシーと名乗り我を謀った魔女の装衣は間違いあるまい。本人はキョトンとしておるので我、ちょっと待つ。
「な、ななな、なんで私の名前を?」
―――コカカカ、あんな騒がしい魔女を忘れる筈もあるまいて。
「ぇ、その変な笑い方に響く声、頭が燃えてるガイコツ頭のコスプレ……」
またこすぷれであるか、なんなのだその言葉は。なんか、目を何度もゴシゴシし始めたがヤメい。目玉がすり減るぞ。まぁ、我には目玉は無いがな。コカカカカ。
「あの時の、子どもの時にあった。不思議なおじさん。なんですか」
―――ふむ、不思議かは知らんが、間違いあるまい。
「わ、わはああァっッ、やっぱり夢じゃなくて本当におじさんはいたんだぁ」
ふむ、なにやら大人しげな雰囲気になったと思ったがこの好奇心旺盛な輝く眼は我の脳裏にあるマツモトアズキであるな。まぁ我、脳ミソなんて無いけども。
「そっかぁ、ハロウィンだからおじさんもコスプレして街に出てたんですね」
―――ふむ、はろうぃんやらこすぷれやらは知らんが。
我、なぜだかマツモトアズキの拷問器具の隣に座り、話し相手になる。ヌヌヌ、意外とバランスを取るのが難しいであるな。妙に小さいし、隣のマツモトアズキはなにやらキコキコとブーランブーランコと自分の身体を揺らしておるし。ふーむ、この拷問器具さては本来、後ろで執行人が背を殴りつけて空の彼方に飛ばーー
「ーー実はその次の年のハロウィンにもおじさんのお家にいったんだけど、おじさんもう引っ越しちゃってて」
これ、我が拷問器具考察をしておる間に話を進めるでない。
「友だちの中にはそんなおじさんいなかったんだって子もいたけど」
マイペースに話が進むであるな。まぁ、我いまなぜか寛容な気分だからよいがな。
「でも、信じてくれる友だちもいてーー」
ーー―――さっちゃんとかいう者の事であるか?
「ぇ、私さっちゃんのこと、おじさんに言ってたかな?」
いや、我の記憶が正しければ菓子を渡す時に自慢しようとか言ってたであるが。
「そっかぁえへへ、懐かしいなぁ……その、呼び方」
む、なにやら急にマツモトアズキの雰囲気が暗めがちになっておるな。
―――どうしたのであるか?
「うん、その、最近はちょっとギクシャクしちゃって、もうそのあだ名で呼ぶのもダメって言われて、なんかよそよそしくなっていっちゃって」
―――む、つまりは友との別離であるか?
「そ、そこまでじゃないと思うんだ。まだ、そこまでじゃ。ほ、他の仲良しな友だちも手伝ってくれて、ハロウィンの仮装で一緒に盛り上がってまた昔みたいにって……でも、私、恥ずかしくなっちゃって……それで」
ふむ、察するにここまで逃げてきてしまったというわけであるか。ムムムム?
「あ、おじさんにこんな話しても迷惑だよね。ごめんなさい」
いや、迷惑云々は抜きにして、なんだか我、こんな沈んだマツモトアズキは嫌であるなァ。よくわからなぬが胸がモヤモヤーッとするのである。我の胸には骨しかないけども。
―――マツモトアズキ、今日ははろうぃんというものであるのは間違いないであるな?
「ぇ、そうだけど、だからおじさんも張り切って仮装してるんでしょう?」
いや、我が張り切ってるかどうかは知らんが、マツモトアズキよ。
―――我に「とりっくあとり〜と」と言って菓子をせがんでみせよ。イタズラをするのも付け加えてな。
「え、あの、おじさんそれは子どもの時にやる事で。さすがに、高校生にもなったらそんなことーー」
ーー―――我、正直そんなこと知ったことではない。構わん許すやってみせよ。大きな声で。
「
なにか意を決したのかマツモトアズキ拷問器具から飛び降りてスクッと大地に立って我の前にくる。そして、息を吸い込むと。
『トリックアトリ〜ト〜ッ!! お菓子くれなきゃイタズラするぞおぉッッッ!?』
鼓膜をつんざかんばかりに叫びおった。まぁ、我に鼓膜は無いのだが、それはさておきコカカカ、これよこれ。この妙な呪文で我の前に現れたのが魔女マツモトアズキよ。
『トリックアトリーー』
ーー―――あ、いや、もうよい、一回聞けただけで我、充分だから。
「あ、そうなんだ、あ〜、アハハ、でもなんだが、スッキリした気分だあ」
―――スッキリついでにほれ。
「ぇ、これって月でひよった卵?」
―――コカ、その呪文を言わせたなら菓子をやらねばなるまいて。
まぁ、たまたま懐に入ってたのが、これであるだけなのだが。む、ついでにもうひとつこいつもあったはホレ。
「ぇ……このゼリーみたいなお菓子って」
―――うむ、腹持ちのよい栄養モンスター「レイズサワースライム」である。
「ぅ、でもおじさん、これもらってて悪いけど、あんまり美味しくなかったよ?」
あれぇ、そうだったであるか。ふむ、我は食事しないからまったく知らなかったである。あれ、では敬愛する魔王様とお妃様につい最近大量に詰め合わせて献上したのはマズかったのではあるまいか。我、とんだ大失敗? いかん、すぐにでも戻ってすぐに謝罪しなければ、特にお妃様にッッッ!!?
「アハハ、でも懐かしいなぁ。なんか凄く元気出てきたよおじーー……あれ、おじさん?」
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