魔女の前に死霊将軍が現れた。

もりくぼの小隊

魔女の前に死霊将軍が現れた・前


 コカカカ、我は死霊将軍。血肉無き死霊将軍なり。我が魔王の忠実なる僕にして魔王軍七つの軍団がひとつ「アンデッド軍団」を束ねし者なり。敬愛する我が魔王より預かりし宝具「月影の卵」を狙いし存在を今宵も葬るとしよう。来るがよい愚かなる勇者共よこの「幻死の間」に来られるものなら、コカカカカカカカ!




 ……と、前置きをするが一向に勇者共は現れぬまま時だけがえらく過ぎたような気がするのである。まぁ、我はアンデッドだから時の流れなど知らんがな。というか死は既に超越した存在である。コカカカーー


 ーー―――将軍。


 配下のスケルトンがいきなり背後から念波で語りかけてくる。これ、突然話しかけてくるものでは無い。心臓が止まるかと思ったわ。まぁ、我もお前も話しかける口も止まる心臓も無いがな。コカカカ。


 ―――して、何のようであるか? 我はいま長らく同じポーズをしすぎて固まった関節を鳴らすのに忙しいのだが。

 ―――ハ、それは失礼しました。実は最近、またが異界の門から流れ着いてきまして。

 ―――ゴミとな? 見せてみよ。


 スケルトンの言うゴミとやらを受け取ると紙に包まれた柔らかい菓子のような物であった。異界文字で書かれたこれは。


 ―――月でヒョッタ卵であるか。


 そう、これはずいぶんと前に可笑しな魔女「マツモトアズキ」に適当に渡した異界菓子である。マツモトアズキ本人が言っておったから間違いあるまい。


 ―――月でヒヨッタ卵? あぁ、あの魔力の感じられぬ子どもな容姿の魔女でありますか。私には今でもただの人間にしか見えませんでしたが?

 ―――コカ、キサマもまだまだよな。ただの人間の小娘がこの幻死の間まで来れるはずなかろう。

 ―――ハ、失礼しました。


 コカカカ、よいよーーあ、これ頭を下げすぎるでない。キサマの頭は外れやすいのだから。いや、だからまた下げるでない、我が拾いに行かねばならぬだろう。もうよいよい、下がって自分の仕事をするがよーーぁ。




 結局、頭を下げたスケルトンの頭を回収して取付けてやると、さっさと退出を命じる。


 ―――やれやれ、仕方のない奴めが。ふむ、しかし。


 我が手中にある月でヒョッタ卵を見つめる。目玉は無いが我は見つめると、マツモトアズキの事を思い出す。まったく不可思議で賑やかなやつであった。どんな魔力を使って幻死の間に侵入したのやらな。この扉を開け放って現れたが、やつの後ろの景色は我の見知らぬものであったな。あれから、何度開こうとも代わり映えの無いだだっ広い空間が広がるのみであったな、ほれ、今日もこうして扉を開ければーー




 ーー―――コカ……どこであるかここは?



 扉を開けたら我、知らぬ場所にいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る