第48話「犯人はお前だ」

 ──みんなの目の前で犯人の殺害方法を話そうとしていた幡ヶ谷光彦の胸に、大きな剣が突き立てられた。


 幡ヶ谷光彦は血を吐きながら倒れ、近くにいた助手の千歳が悲鳴をあげる。

 少しの間を置いて、ニーナの口からも絶叫がほとばしった。


「きゃああああ!」


「やぁああああああああ!」


 悲鳴をあげたのは女性で、男性は呆然としていて目の前の展開が受け入れられていない。


 元春に仕えていた使用人たちも例外ではなく、フロアは混乱の極みにある。

 冷静な者がいれば意外と津久田と鷲沢が冷静だと気づいたかもしれない。

 

 だが、それに気づいた者はいないようだった。




「とまあ、今のが元春氏を殺害した異能ですよ。剣を造って遠く離れた相手に突き立てる能力【悲劇はある時突然に(トゥラジディーシャワー)】です」


 フロアの入り口から俺こと幡ヶ谷光彦が説明すると、全員がいっせいにこっちをふり向く。

 

 誰もが唖然とし、あるいは真っ青になって酸欠金魚のように口をパクパクさせている。


「ウソ……あなた、死んだはずじゃ?」


 ようやく立ち直った光翼寺が、震える指で俺をさす。


「死んだと思ったでしょう? 実はさっきまでみなさんが見ていたのは、俺が異能で作り出したかりそめの存在だったんです」


 意識して微笑みながら種明かしをする。

 

「えっ? でも、千歳さんは……?」


 光翼寺が俺から千歳に視線を移すと、彼女はいつもの様子に戻っていた。

 千歳はもちろん俺の手の内は知っている。


「千歳の演技力、すごかったでしょう? だから芸能界でも飯を食っていけるって言ったんですよ」


 俺が笑えば、


「えっ? あれってそういう意味だったの?」


 光翼寺はぽかんとした。

 具体的なことを言わなかったから、千歳の容姿を褒めたと解釈したかな。


 まあわざとなんだけど。


「さて、俺が異能を発動する際にとなえてた言葉に実は意味なくて、好きな時に能力を使えるんですよ」


 要するに今回の時のように、敵の攻撃を誘うための罠だ。


「えっ?」


 と反応したのは静江さんだった。

 異能使いだからこそ、俺の言葉には驚いたのだろう。


 異能使い同士なら、何となくお互いのランクを推測できる人もいる。


「犯人が諦めなくてさらに異能を使ってくることも考えていましたけど、意外と諦めが早かったですね」


 みんなが見てる前で俺を殺して口封じをしようとしたくらいだから、短絡的な上にもっとしつこいかもと思っていたんだけど。


 俺の異能が何の準備もいらず自由に発動できると知って、心が折れたなら狙い通りだ。


「……当然でしょう」


 と声を出したのは静江さんだった。

 

「あなたの異能は明らかに規格外です。対抗しようと考えるなんて、普通は思いません」


 彼女の声は落ち着いていたものの、はっきりと畏怖の色がにじんでいる。


 さりげなくニーナをかばえる位置に移動してるのは、犯人から彼女を守るためだと思いたい。


「回りくどいやり方をしたのは、抵抗しても無駄だと示すためなんでわかってもらえたらうれしいです」


 と俺はふてぶてしさをよそおって話す。


 みんなすっかり異能の存在を信じたらしく、場の空気はうまい具合に俺が支配できている。


 問題は本物の殺人事件だと信じている人が何人いるか? なんだけど、犯人を逮捕できるならいいかな。


「じゃあ本題に入りましょう。元春氏を殺害し、俺も同じ異能で口封じしようとしたのは、いったい誰なのか」


 と言ったあと口を閉じ、ゆっくりとフロア内にいる面子を見回す。

 ごくりと誰かが唾を飲み込み、緊張が高まった中で俺は一人の人間を指でさした。


「犯人は、お前だ!」


 俺が指さし、他の人たち全員が驚愕し、顔から血の気が失せたその人の名前は千崎。


 元春氏が信頼して重用していた執事だった。

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