第47話「論より証拠」

 津久田と鷲沢によってホテル一階のホールにみんなは集められていた。


「何があるんですか?」


 と声をかけたのは光翼寺だった。


「これから事件について説明します」


 津久田は答えてから俺を見る。


「この幡ヶ谷が犯人を教えてくれるでしょう」


 ホール内の人間の視線すべてが俺に集中した。

 初めてじゃないけど、やっぱり独特の雰囲気が生まれるよなぁ。


「幡ヶ谷くん? 謎解きは専門外じゃなかったっけ?」


 と皮肉を飛ばしてきたのは光翼寺だった。


 他のメンツはニーナと静江さんを除いて、そもそも「お前だれ」状態だろうから無理もないか。


「ええ。普通の謎解きは専門外ですよ。警察や専門の探偵に任せたほうが絶対にいい結果が出ると思います」


 皮肉のたぐいをぶつけられるのも初めてじゃないので、にこやかに対応する。

 

「あのね……わたしをからかってるの!?」


 光翼寺はイライラとして声を荒げた。


 異能の存在を知らない人にしてみれば、俺がおちょくってるように感じられるのだろう。


「落ち着いてください、光翼寺先生。光彦さんの説明はまだ途中ですから」


 と千歳が涼やかな声で優しく話すと、光翼寺は冷静さを取り戻す。

 千歳ってときどき猛獣使いみたいな芸当をやってのけると感心する。


「ええ……もったいぶった説明はやめてよね」


 彼女が引き下がると、恰幅のいい中年男性がかわりに前に出てきて、


「こんな小僧の言うことなんざ、信じても大丈夫なのか? こいつに任せるなんて、警察のメンツはどうした?」


 俺をバカにするだけじゃなくて、一緒に警察も貶めた。

 今度は千歳の眉がぴくっと動いたけど、俺が目で彼女を制止する。


「彼は特別捜査官ってやつですよ。こういった事件専門のね」


 と津久田が話す。


「特別捜査官!? 特殊犯罪解決のエキスパートを集めたという!?」


 中年男性は知識を持っていたのか、驚愕して俺を見る目が変わる。

 制度として実在するんだけど、俺と千歳は違うんだよなぁ。


 誘われたことがあるってだけだけど、ウソも方便ってやつか?


「探偵は潜入捜査などをしやすくするための、仮の姿ってことかしら」


 すっかり信じてしまったらしい光翼寺がぶつぶつとぶやく。

 

「すごい」


 ニーナがキラキラと尊敬と期待のまなざしで見てきて、心が痛い。

 あとで彼女には本当のことを打ち明けたほうがいいと思う。

 

「話を本題へと移らせてもらいますね」


 津久田がいい空気を作ってくれたので活かすために、俺は説明を開始する。

 幸いみんな聞く姿勢を持ってくれたようだ。


 ……犯人も表面上は他の人と変わらず、演技力がハンパないと思う。

 

「まず、犯人はいったいどうやって、元春氏を殺害したのか? 一番の謎はここですよね」


 俺はゆっくりと全員の顔を順番に見ていく。


「そ、そうだな。部屋にはカギがかけられていたし、犯行が可能なほどひとりの時間が長かった者はいないと、津久田警部が言っていたぞ?」


 真っ先に反応したのは先ほどの中年男性だ。

 彼だけは場の空気に飲み込まれていない。


 あるいは飲み込まれないように、必死に口と頭を動かしているのだろうか。


「普通にやったら無理ですね。人間業じゃありません」


 と俺は認める。

 

「ど、どういうことだ? まさか幽霊か妖怪のしわざとでもいう気か?」


 中年男性は呆れた顔になった。


「似たようなものだと言えますし、俺はそれらが実在するとみなさんに証明することができますよ」


 俺はおだやかに返事して、じっと彼を見つめる。

 彼のみならず、多くの人はぽかんとしていた。


 彼らは異能の存在を知らないのだろう。


 静江は落ち着いているし、ニーナはピンときたように自分の専属メイドをちらりと見る。


「中には知っている人もいますよね。──そう、異能です」


 と告げた。


「いのう? 何それ?」


「お前は何を言ってるんだ?」


 光翼寺や、さっきから絡む男性は無数の疑問符を顔に浮かべている。

 

「論より証拠。まずは実際に使ってみせましょう」


 と俺は宣言した。


「天に輝く十の星の輪、地に座す七つの王冠。結びて起これ。悪魔の劇場(グランギニョル)」


 いつもの詠唱をとなえ自分の異能を起動させる。

 再現するのに選んだのは静江さんの能力だ。


 目の前でいくつもの水球を作り出して見せる。


「何だ? いきなり水が現れたぞ?」


「いったいどこから!?」


「いや、そもそも水のかたまりが宙に浮いてるなんておかしいだろ!」


「手品か!? 手品だな!」


 とたんに多くの人たちが驚き騒ぎはじめた。

 異能の存在を知らなかったんだから当然だろう。


 本来、異能はあまり公にしないほうがいいとされているし。


「これが異能です。実在するんですよ」


 と言って水を動かしながら、本題に入る。


「ちなみに俺の異能は誰かが使った異能を再現する能力です。つまり、今回の事件で使われた異能も再現できるってことです」

 

 ゆっくりと言うと、とたんに人々が静まり返る。

 次に俺が何を言うのか、うすうす察したのだろう。


 異能を解除して水を消して、


「これからどんな異能が犯行に使われたのか、やってみませましょう」


 と宣言する。

 誰かがごくりと生唾を飲み込む。


「天に輝く十の星の輪、地に座す七つの王冠、ぐふっ」


 いつもの詠唱をはじめたら、俺の胸に大きな剣が突き刺さった。


「…………えっ?」


「いやぁあぁあああ!」


 真っ青になった千歳の悲鳴が響く。

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