第46話「警察二人と話をする」
ノックして中に入ると津久田と鷲沢の二人がいて、休憩しているところだった。
二人とも全然疲れを見せていない。
百戦錬磨の津久田はともかく、キャリアでまだ経験の少ないはずの鷲沢もかなりタフだ。
この辺を買われて異能犯罪本部に抜擢されたんだろう。
「お疲れ様。何か収穫はあった?」
と鷲沢が声をかけてくれる。
その瞳には若干の期待があったのは申し訳ない。
「いいえ。残念ながら」
俺が首をふると津久田が鼻を鳴らす。
「そりゃそうだろう。手がかりなんてものは人海戦術で集めるのが一番いいんだ。たった四人だと現状維持くらいしかできねえよ。お前のせいじゃない」
彼はフォローしてくれる。
雑で乱暴なようでいて、こういう気遣いはできる人だった。
「どうもです。それで一点気になることがあって来たんですけど」
優しくされた後だと切り出しにくいけど、確認しないわけにもいかない。
「何だ?」
俺が話している間に千歳が元春老人の遺体に寄っていた。
「烏山さん?」
気づいた鷲沢が彼女をとがめる。
「失礼しました」
彼女は悪びれず、鷲沢に微笑みを返す。
二人の視線が一斉にこっちを向いたのは、千歳は俺の意向に沿って動く人間だと知られているからだろう。
「どういうつもりだ?」
津久田の声に怒りはないけど、困惑と疑念の色が濃い。
「もしかしたら俺たちはだまされているのかも、なんて考えが浮かんだもので。千歳、どうだった?」
「この遺体は本物です。どうやらこのお二人にだまされていたわけではないようです」
俺の問いと千歳の返事を聞いた鷲沢は腑に落ちたという表情になる。
「元春氏の死がフェイクで、今起こっている出来事こそイベントじゃないかと二人は考えたのね?」
キャリアだけあって頭の回転が速い。
「ええ、失礼しました」
俺と千歳が頭を下げると鷲沢はクスッと笑う。
「元春氏から企画を持ち掛けられたのは事実ね。ニーナさんに対するサプライズで」
「俺らは依頼を断ったという点が、お前らの想定とは違うところだな」
津久田が続きを言って鼻を鳴らす。
「お二人は断っていたんですね」
たしかにそっちの可能性は考えてなかった。
「他の人たちがパニックにもならず、冷静さを保っていることから、わたしたちとニーナさんだけが知らないのでは? と推測したのですけど」
千歳が俺たちの意見を告げ、話を戻す。
「二人とも経験あるもんな。殺人事件に遭遇してんのに、パニックになる奴が出ないのは変だと考えて、そっから気づいたわけか」
津久田は少しだけバツが悪そうな顔になる。
「何しろこちらは二人だけ、あなたたちを入れても四人しかいないもの。パニックが起こったら手に負えないわ。だから状況を利用したほうがいいって判断したの」
あなたたちには気づかれたけどね、と鷲沢は説明した。
こっちは推測通りだったな。
「もっとも作家の光翼寺だけは感づいていた。殺害方法については彼女と被害者役の元春氏しか知らなかったらしい」
と津久田が言ったことで納得した。
企画を考えた光翼寺は当然、イベントの流れをすべて知っている。
企画にないことがあれば、それが増えれば疑問を持つのは不思議じゃない。
「……今回の事件が単なるイベントだったらよかったんですけどね」
それなら俺、千歳が踊らされただけだし、ニーナは元春老人に怒るなり甘えるなりできていた。
「同じ意見だよ」
と津久田が言う。
「絶対犯人を見つけるわ」
鷲沢が意気込む。
「ええ。俺たちも協力しますよ」
と言ってから俺は一つの提案をする。
「最悪の場合ですけど、こういう手が使えると思います」
聞いた津久田、鷲沢、千歳の三人はみんな顔をしかめた。
「たしかに犯人を追い詰めるにはいいやり方だがな」
「あなたが危険じゃないかしら?」
津久田、鷲沢はあまり乗り気じゃないらしい。
「犯人はわかっても証拠の確保が難しいのが、異能犯罪ですし」
危険はある程度覚悟しなきゃ、犯人を捕まえることは無理だ。
「犯人を突き止められたならやってもいいぞ」
と津久田は認める。
「いいんですか、津久田警部?」
鷲沢は反対らしかった。
「そこは信じるしかないだろう」
津久田のほうがつき合いが長いからか、受け入れてくれるらしい。
もっとつき合いの長い千歳はと言うと、反対だけど止められないとわかっている表情だ。
「じゃあ引き続き調査します。千歳はここに残って、二人と情報を交換しておいてくれ」
「承知しました」
再び外に出て行く。
まだ調べてないエリアを続けて調べていくうちに、ようやく異能が使われたポイントを見つける。
そこは一階フロアの柱の陰で、状況とタイミング次第じゃ周囲から死角になったと考えられた。
一メートル置きに確認するレベルのマメさでやらないと、見落としていたかもしれない。
「……そうだったのか」
もちろん犯人の顔も俺にはわかった。
念のため、もう一度打ち合わせしておこう。
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