第43話「異能犯罪キラー」
「きっと元春さんを殺害した犯人を見つけます。あなたのために、そして警察の威信と面子のためにも」
と鷲沢が言うとニーナはこくりとうなずき、静江さんと一緒に部屋を退出した。
「何かやるせねえな。あのメイドを自分の護衛にしても、結果は同じだったかもしれないが」
ぽつりと津久田がこぼす。
「たぶん無事でしたよ。身のこなしからしても、静江さんはおそらく相当強いです。単なる異能使いじゃないと思います」
と俺は静江さんに対する評価を伝える。
「ふん、俺はそういうのわからんが……となると、あのメイドなら元春氏を殺れた可能性は高いんじゃないか?」
津久田の言葉に俺たちの誰もまさかとは言わなかった。
心を読むことができない以上、強力な異能使いという段階で容疑者になってしまう。
俺たちまで容疑者になってないのは、津久田たちとは顔見知りだからだろう。
ありがたい展開だけど、本来なら褒められたことじゃない。
「検証してみましょう。天に輝く十の星の輪、地に座す七つの王冠。結びて起これ。【悪魔の劇場(グランギニョル)】」
と俺は彼女の異能を再現した。
水球を一つ作り出して動かしてみる。
「ああ、一度見た異能ならコピーして再現できるんだったな」
津久田が思い出せば、
「相手が隠している能力まで理解して再現できるのは反則的な強さですよ」
と鷲沢が苦笑して言う。
千歳は彼女にうなずいてから訊いてくる。
「いかがですか?」
「……隠された能力はないし、この能力だと有効距離が短すぎて元春氏をどうにかしたのは無理だな。あと、俺と千歳に気づかれないのも厳しい」
俺は感想を告げた。
静江さんの異能を自分で使ってみた結果、彼女が犯人である可能性はほぼゼロになったと言える。
「彼女が実行犯ではないが共犯者である可能性、一応残しておくか」
と津久田が慎重に言った。
それは否定できない。
「俺がわかったのはあくまでも彼女に犯行は不可能だったろうということですからね」
と言って認める。
「そのくらいでいくしかないですね。さっきので屋敷関係者に話を聞き終わったので、次からは招待客になりますが」
鷲沢が今後の予定を話す。
「なら俺たちは一度出て行ったほうがいいかもですね」
と二人に言うと、
「……君たちは立ち会ってもらいたいと言ったはずだが」
津久田は怪訝そうな顔で、何を考えているのかと視線で問いかけてきた。
「元春さんの関係者はともかく、招待客の人たちは俺たちがいるとしゃべってくれないかもと思いまして」
過去にもあったことだ。
警察関係者でもない素人の俺たちに対して、強い不信感を持つ人たちが。
「……否定はできんな」
津久田がいやそうに顔をしかめる。
「今まで驚くほどスムーズでしたが、これからもそうだとはかぎりませんね」
と鷲沢は俺寄りの意見を口にした。
屋敷の関係者、元春老人に雇われていた人たちだからこそ協力してもらえたのかもしれない。
「わかった。君たちがいないほうが話はスムーズかもしれないしな」
「あとで情報共有するから、また合流してね」
津久田と鷲沢の理解を得て俺たちは一度外に出た。
周囲に人目がないのを確認して思いっきり背伸びをする。
「さて、厄介なことになってしまったな」
と俺は小さくこぼす。
旅行に来て事件に巻き込まれるなんて状況に遭遇するとは。
「早期解決のためにはあの二人から離れて、異能について調査するというお考えは正しいと思います」
千歳は俺の真意を読み取り、微笑みながら賛成する。
そう、津久田たちに言ったのはあくまでも表向きの理由だ。
本当の理由は俺たちだけで異能が使われた場所を特定することにある。
場所がわかれば犯人の顔も、使った能力も判明するのだ。
あとは津久田たちに任せてしまえばいい。
俺の異能は異能犯罪キラーだと言えるだろう。
「容疑者たちが自由に動き回るようになるまでが勝負だ」
と言うと、
「警察が二人しかいないのでは、抑え込むにも限度がありますからね。現状は相互監視状態になってますけど」
千歳が同意する。
むしろ警察に拘束する力がないのに、みんな大人しくしている現状は珍しい。
お互いに勝手なことができないようしている間に、情報を少しでも集めておきたかった。
……今回はレアケースなことが続出しているように思えるけど、気のせいだろうか。
「どこから行きますか?」
「建物の一番上からというのが定番だろうな」
千歳の問いに即答すると、彼女は首をかしげる。
「共犯者の合図にしたがって、建物の外から実行された可能性は考慮しなくてもよいのですか?」
もっともな指摘だけど、俺がやらないのには理由があった。
「今は中からやりたいな。実行犯が外の場合、俺たちだけで居場所を見つけ出すのは困難だろう」
と答える。
津久田たちを入れても四人しかいないのだ。
孤島と言っても隠れる場所には困らないのだから、充分な人手が揃ってからやったほうがよい。
もちろんホテルの中に犯人がいて、しかも単独犯というケースが一番だ。
「たしかに。承知いたしました」
千歳はすぐに理解してくれる。
俺たちはホテルの上の階から順番に調べていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます