第30話「ニーナは友達と参加したい」
「おじい様にあとで言わなきゃ。初めて友達ができたって」
ニーナはうれしそうに両手を胸の前で重ねながら言う。
初めての友達が俺でいいのか?
一瞬不安がよぎったものの、彼女の表情を見ると何も言えない。
それに千歳も一緒なんだからきっと大丈夫だ。
「ねえねえ、今夜このホテルでミステリー企画があるって知ってる!?」
ニーナは不意に目を輝かせ、身を乗り出してくる。
「ああ、知ってるよ」
突然のことにちょっと面食らいながらもうなずく。
続いて光翼寺と船で話したこと、ここに来るまでに元春老人と遭遇したことを、彼女に伝える。
「そうなんだ! 光翼寺先生とお話しできたなんていいなぁ! わたし、緊張しちゃって話しかけられないのよね」
とニーナは羨ましそうに言ったあと、しょんぼりと肩を落とす。
「そうなんだ」
ファン心理ってやつかな。
友達が今までいなかったなら、人づき合いも苦手なんだろう。
今のところそんな感じはまったくないんだけど、相性の問題だろうか。
「そう言えば俺たちって参加表明はしてなかったよな」
と千歳に確認する。
「はい。元春さまの口ぶりですと、飛び入りでの参加も認めていただけるようでしたけど」
彼女がうなずく。
「あら、おじい様ってそういうところは頑固なのに。よっぽどあなたたちのことが気に入ったのね」
ニーナが目を丸くする。
静江さんも0.8秒ほどで驚きを消したので、かなりレアケースであるらしい。
「たぶん俺の祖父と仲がいいからだろうな」
と俺は予想をしゃべる。
初対面でいきなり気に入られる理由なんて、他にないと思う。
「おじい様は友人の関係者だからって特別扱いしないわよ?」
ところがニーナにきっぱりと否定されてしまった。
「わたし以外の家族とは折り合いもよくないし」
彼女は少し心配そうな表情で言う。
たしかに気難しそうな雰囲気はあった。
「うちも似たようなものだな」
と俺は共感を示す。
「そうなのね。お年寄りってそういうものなのかしら?」
ニーナは微笑んだあと、困った顔をして疑問を口にする。
「愛想のいい人だってどこかにはいるはずだけど」
もっとも俺もよく知らないんだけど。
話が変になりかけたので戻そう。
「ニーナはミステリー企画に参加するつもりなのか?」
と訊いてみる。
「もちろん! 数少ない楽しみだわ」
ニーナは輝くような顔でちょっと悲しいことを言って、期待に満ちた視線をこっちに向けてくる。
「あなたたちはそれで、参加してくれるの?」
「そうだな。参加しようか」
俺は決断をする。
そもそも参加したくない理由などないのだ。
元春老人にニーナにと、求める人たちがいるならという気持ちになる。
「千歳はどうする?」
彼女の答えは予想できたけど、それでも一応確認した。
「もちろん参加しますよ」
言うまでもないという言葉を柔らかい微笑に包んで、彼女は即答する。
「やった! 友達とイベントに参加!」
ニーナは手を叩いて小さな子どものようにはしゃぐ。
参加表明をしてよかったなと思う。
「二人は探偵なのよね? じゃあ今回はわたしが優勝しちゃうかな」
とニーナは元春老人の言葉を連想させることを言った。
この辺は祖父と孫って感じだ。
「俺は謎解きは専門外だぞ」
元春老人にも言ったことを告げる。
「えー、そうなんだ?」
ニーナは予想外だと目を丸くした。
うなずいたら彼女は首を可愛らしくかしげて、
「じゃあどんなことをしてるの?」
と訊いてくる。
彼女は探偵イコール謎解き以外のイメージはないらしい。
「地道に情報を集めて、手がかりを揃えるんだ」
異能のことをしゃべってもいいのかわかんないので、わざと大ざっぱな説明をする。
「ふうん?」
やはりと言うか、ニーナは全然イメージできなかったようだ。
「それでもわたしより調査のノウハウがあるでしょう?」
彼女はすぐに気を取り直して、新しい期待をぶつけてくる。
「否定はしないけど、戦力になるかどうかはイベント次第だろう」
と俺は困惑した。
ミステリー作家の実力って、現実の調査方法を知ってるかどうかと関係ないと思う。
そもそも俺たちの専門は異能使いだから、一般人だろう光翼寺に知っておけというほうが無茶だ。
「いいではありませんか? 三人で頑張れば」
弱気な姿勢を取り続ける俺に、千歳がやんわりと言ってくる。
「そうだな。一緒に楽しくやろうって点なら、期待してもらってもいいぞ」
「よかった! それがいいわ!」
とニーナは再び笑みを見せた。
黙っていた静江さんが小さく咳ばらいをする。
彼女はハッとしてふり向いて、
「ごめんなさい。しずも一緒だから四人だったわ!」
と元気よく訂正した。
「なるほど」
と言うと、
「お嬢様と一緒にお世話になります」
静江さんが営業スマイルとともにあいさつをする。
「こちらこそお世話になります」
たぶん彼女がニーナの面倒を見るんだろう。
そのついでに俺たちが厄介になる展開だってあるかもしれないと思い、先手を打ってあいさつをしておく。
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