第24話「依頼人に報告」

 二人を返したあと、千歳が倉下に連絡を入れる。


「会って詳しく話を聞きたいそうです」


 彼女はスマホを顔から遠ざけながら言った。


「当然の要求だな」


 本人が知らないところで事態は解決しました。

 安心して報酬を払ってくださいって言われて、納得する人は少数だろう。


「永沢と一緒に事務所まで来てもらってくれ」


 そのほうがいいだろう。

 倉下がされていたことは、ファミレスなんかで話していいことじゃないし。


 永沢だってことの顛末を知る権利はあるはずだ。

 

「わかりました」


 千歳が口頭で相手に伝える。

 雰囲気的に相手は永沢だろう。


「三十分後に事務所に来てもらえるように申しました」


 と千歳は報告する。


「ああ、ここから事務所に戻るまで、頑張っても十五分かかるからな」


 永沢と倉下を待たせないためにはそれくらいがちょうどいい。


「じゃあさっそく戻ろう」


「ええ」


 俺たちは急いで展望台を降りて事務所へと帰る。

 

「千歳が普段からきれいにしてくれてるおかげで、出迎え準備をやらなくてよくて楽だな」


「それもわたしの仕事ですから。お役に立てて何よりです」


 千歳は笑顔でお茶をいれてくれた。


 たまには自分でいれて彼女にふるまうのもありだと思うんだが、彼女はこういう点に関して意外と頑固だったりする。


 彼女のほうが何でも上手いので、彼女がやりたいならあえて止める理由がない。

 お茶を飲んでひと息ついたころ事務所のインターフォンが鳴った。


「はい。幡ヶ谷探偵事務所でございます」


 と千歳が迅速に応対する。

 こちらを見てうなずいたので、永沢と倉下が来たと察した。


 予想通り制服姿の二人がゆっくり入ってくる。


 永沢のほうは落ち着いた様子で、倉下のほうは半信半疑だからか、どこかそわそわしていた。


 俺たちを信頼しているかどうかの差だろう。


「あのう、本当に?」

 

 といきなり切り出した倉下に、


「まずはおかけください」


 千歳が笑顔で椅子をすすめる。


 相手の会話を切って主導権を握り、さらに緊張をほぐしつつ自分の提案に従わせ、しかも相手は腹を立てないのは彼女ならではの芸当だろう。


「さ、座ろう」


 と永沢が落ち着いて先に座ったことで、倉下もちょっと安心したように続く。


「解決したって本当なの?」

 

 俺たちのほうをチラチラ見るだけで言い出せない倉下を見かねてか、永沢が直接的に訊いてくる。


「とりあえず犯人の顔と名前は抑えて、動機を聞き出して忠告もした。解決のめどは立ったと言えるだろう」


 と俺が応えた。


「ああ!」


 倉下はパッと表情を輝かす。

 そして感極まったように泣き出した。


「すごいね。具体的にどうやったの?」


 そんな倉下の肩をそっと抱きながら、永沢が次の質問を放つ。


「写真を撮ったポイントから計算して、撮影ポイントを割り出して、そこで待ち伏せをして取り押さえた。まあだいたい千歳がやったんだけど」


 と俺は説明する。

 千歳抜きだとこんな短期間での解決は確実に無理だった。


「千歳さん、やっぱりすごいんだ」


 と永沢は目を丸くして千歳を見る。

 感心された千歳は微笑むだけで受け流す。


「あくまでもうやらないと約束させただけなので、そういう意味じゃ解決したとは言えないかもしれない」


 と俺は正直にしゃべる。


「……もしもまた何かしてきた場合は?」


 倉下は顔を青くしてうつむき、永沢がすっと目を細めて訊いてきた。


「【異能犯罪本部】に情報提供することになる。俺たちにはツテがあるから、補導は確実にされるだろう」


 と答えてから倉下を見る。


「結果に納得できないというなら、報酬については検討するけど……?」


 今回の結果にしたのは俺の独断で、依頼人の許可を得てない。

 倉下は勝手なことをされて納得できないと抗議する資格がある。


「いえ、充分です」


 倉下は笑みを見せたものの、若干こわばっていた。


「この子がいいならわたしもいいけど、もしも同じ人間が何かしてきた場合、追加報酬なしで対処をお願いできるの?」


 と永沢が訊いてくる。

 

「当然の要求だ。千歳」


 幡ヶ谷のマニュアルでも想定されてることなので、千歳に声をかけた。

 彼女はうなずいて書類を取り出して二人に見せる。


「解決したと思われた件が再発した場合、追加報酬はいただかずに対処いたします。また依頼をキャンセルされるなら成功報酬を返却いたします。着手金と交通費などは返却できませんので、ご了承ください」


 そして千歳は説明した。

 

「まあ犯人が今回の二人組と別だと判明したら、その際には追加報酬の相談をさせてもらいたいけどな」


 と俺はつけ加える。

 

「それはもちろんだわ」


 永沢が言い倉下もうなずいたので話はまとまった。

 

「幡ヶ谷君の見立てだとどうなの? また何かこの子に仕掛けてこない?」


 と永沢は俺に訊く。


「可能性は低いだろう。自分たちと同じ異能使いが出てくることは想定しても、プロの異能使いが来るとは思ってなかったみたいだから」


 俺は自分の感覚を彼女に伝える。


 北野の異能は倉下の友達か誰かに異能使いがおり、協力することを想定していたのだと思う。


 俺たちのように報酬をもらって動くプロを想定していたなら、いくら何でもお粗末すぎる。


「なるほど、プロが出てくると思ってビビったのかしら」

 

 永沢と倉下は納得したようだった。

 ならひとまず今回の件は終わりだな。

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