第23話「犯人たちの事情」
低身長女子が異能を発動させる。
黒い望遠鏡みたいなものをかまえた。
長身長女子はさりげなく彼女を周囲の視線から隠せる位置に移動する。
もっとも一般人にも知覚できるタイプの異能じゃないので、念のためと言ったところだろう。
二人の緊張感のなさから本気で「二人組」を警戒していると思えない。
千歳は俺のほうには一瞥もくれず、足音も立てずに二人に近づいていく。
存在を認識していなければ俺だって見失ってしまいそうなすごい技術だ。
「よし、無事に撮れたよ」
と誇らしげに言って隣の女子に見せた瞬間、
「盗撮の現行犯であなたたちを拘束します」
と千歳が声をかけ、ぎょっとした二人組を一瞬で床に押し倒す。
二人相手に秒殺って相変わらず、目にしただけじゃ何をやったのかわかんないな。
千歳が二人を抑え込んだので俺も彼女と合流する。
「くっ、何なんだよ、あんたら……?」
低身長のほうが苦しそうに俺たちを見上げた。
「俺たちは依頼を受けて動いていた」
と言って一枚の写真を二人に見せる。
「それは」
「くっ!?」
二人は慌ててもがぐが、千歳の拘束からは逃げられない。
「しょ、証拠はあるのかよ?」
低身長のほうがにらみながら吐き捨てるように言う。
「あいにくと俺たちも異能使いだし、【異能犯罪本部】へのツテもある。言い逃れは無理だぞ」
と俺は脅すように警告する。
【異能犯罪本部】は異能を使った犯罪を取り締まるために警察に設置された組織だ。
ツテがあるのは事実だが、今回の件で動いてもらえるかは疑わしい。
要するにはったりだった。
「異能を使った犯罪は法律の保護対象にならないのですよね」
俺の意図を汲んで千歳もおだやかな口調で追い討ちをかける。
もちろんこれも事実だ。
異能を制御できなかった事故、悪意がない過失については情状酌量される場合もあるが、故意の場合は厳しく対処されるだろう。
「うう……」
長身長の女子はがっくりとうなだれている。
こちらのほうは諦めが早いらしい。
「事情をきちんと話すなら、見逃すこともある。俺たちは警察じゃないからな」
と俺は長身長のほうを見ながら話しかける。
これもウソじゃない。
俺たちは警察じゃないし通報や逮捕の義務があるわけでもなかった。
実は依頼人のほうが悪党で、加害者と思っていたに同情の余地があるケースもある。
倉下が俺たちをだましている可能性だって捨ててはいけない、シビアな稼業が探偵なのだ。
「わ、わかったよ」
低身長女子はまだこっちをにらんでいるけど、長身のほうは観念する。
「千歳」
俺が声をかけると千歳は二人の拘束を解くけど、単に解いたりはしない。
二人の財布をすり顔負けの速度で抜き取っている。
「筒治さんと北野さんね」
と二人が所持していた学生証を見て名前を言った。
「え!? あ!?」
二人は何をされたのか理解できず、混乱して自分の体をまさぐる。
「これで逃げられないし、逃げても無駄ですよ」
優しい顔をしてこういう時の千歳は容赦がない。
「うわ、えげつな」
女子校生二人組は顔を真っ青にしている。
「こういうことしてると、わたしのような人間と遭遇する危険があるのですよ?」
千歳は教え諭すように言うけど、そこで俺は外さなくてもいいんじゃないか?
ここでは言わないけど。
「俺たちはまだ優しいほうだぞ。依頼人の意向がすべてだからな」
と暗にタチが悪い存在をにおわせる。
「う、うん」
長身の北野は素直にうなずいたけど、もう一人の筒治はそっぽを向く。
反抗的な奴は無視して話を進めよう。
「それで動機は? 目的は?」
とストレートに訊く。
「……この筒治の片思いしてた男子が、倉下に告白してさ」
と北野が話しはじめる。
簡単に言うと「好きな男子をとられた(彼氏ではない)仕返し」だったらしい。
「あたしは協力しただけだし、倉下のことをちょっと怖がらせてやればよかったんだよ。し、信じてくれ」
と北野は必死に訴える。
まあ倉下が実際にされていたことと、彼女の話に矛盾は感じない。
「ぺらぺらしゃべるなんて……!」
筒治は裏切り者を見るように北野のことをにらむ。
頬が赤くなっているのは、知られたくない過去を知られた羞恥だろうか。
「ウソをついてはいないと思います」
と二人を観察していた千歳が言う。
ウソ発見器のかわりもできる彼女はマジで便利だ。
「月並みだけど二人とも可愛いんだから、自分を磨いてもっといい男をつかまえるといいよ」
と助言を送ってみる。
「きもっ」
筒治には呆れられ、
「あんたに言われてもうれしくない」
北野にはいやそうな顔をされた。
まあ俺が言っても二人の心には届かないだろうな。
「今回は俺たちだけでおさめておく。お前たちが今後何もしないならな」
と言った。
千歳に異論はないようなので二人を解放する。
筒治の異能は【遠くの情景(ロングレンジレンズ)】。
北野の異能は【近くの脅威(ニアーコーション)】。
俺が使う時があるのか怪しい能力だけど、一応ストックしておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます