第22話「千歳がいないのがつらい」
月曜日の夕方、俺は一人で展望台に来ていた。
千歳がおらず一人でやるしかないので穴が生まれてしまうけど、おそらくここの優先度は下げてもいい。
予想が確信に変えるのは千歳の担当で、それが終わるまではここにいたほうがいいだろう。
俺たちの動きを予想して裏をかくために、再びこっちに戻ってくる可能性だってないわけじゃない。
「……うん?」
視界の隅で何かが引っかかったので、さりげなくそちらに注意を向ける。
まさか、と思うが意識をそらさずにいると、二人の少女が現れた。
一人は女子にしては長身で170くらいありそうな、モデル体型のおかっぱ頭。
もう一人は【思い出手帖(メモリアルブック)】で見た顔とそっくりな少女。
こちらは小柄でおそらく150センチくらいだろう。
気づかれたくないので、俺はそっと二人を視界から外して外の景色に気をとられているふりをする。
それにしてもどういうことだろう?
俺たちが別れてさっそくこっちに姿を見せるなんて。
ただの偶然か?
……偶然だけで説明することは一応可能だ。
だけど、今回の事件の犯人が二人組だと仮定した場合、二人とも異能使いの可能性だってありえる。
俺一人の時になぜ現れたのかという疑問までは解消できないけど、対等なパートナーならどっちも異能使いのほうがむしろ自然かも。
千歳にそっとメッセージを送り、間に合ってくれることを期待する。
だけど、もしも千歳なしとなると異能勝負に持ち込むべきだろう。
女子が相手でも二対一じゃ逃がさない自信がない。
捕らえる前に確証を得るためにも異能を実際に使ってもらい、そこを取り押さえるのがベストだ。
特に長身女子の異能は、まだ具体的な内容はわかっていないから。
二人はと言うと、今ガラスの前に立って雑談している。
一般人もいるわけだから、展望台を楽しんでいるフリが必要だろう。
あまり見てると警戒されると思うので視線は極力送らない。
第三者から可愛らしい女子高生の二人組に視線を送る、男子高校生がどう見えるのか? を考えると注意したほうがいいのだ。
……今の状況だと俺は詰んでるというか、何もできない可能性がある。
なぜなら上手くやらないと「痴漢」「変質者」だと逆襲され、周囲がそっちを信じるかもしれないからだ。
異能は一般人には認識されないタイプは珍しくなく、証拠を用意するのが案外難しい。
ダイヤモンドローズの時は現行犯で、しかも目撃者に警察もいたから話は簡単だったんだけど。
相手の倉下が女子、二人組も女子だから盗撮の疑いで取り押さえたという言い訳だって使いづらい。
「ねえ、あそこだね」
「ああ、知らない二年と歩いてるね」
「知り合いに頼んだのかな?」
二人組の声が聞こえてくる。
他の客と距離がある位置に行ってくれたおかげで助かった。
……他の客に会話を聞かれたくないからだろうけど。
「無駄なのにね」
「まあアタシらのこと知らないんだろうし、しょーがないでしょ?」
二人はくすくす笑っている。
無邪気な悪意を感じざるを得ないものだ。
クロだなと確信するものの、だからこそ現状打てる手がないのがもどかしい。
「ねえ、アカリお願い」
と小柄な女子が言うと、長身がうなずいて異能を発現させる。
「うん、二人組はいないみたいだよ」
と彼女は言った。
!? 俺は思わずぎょっとするが、態度には出さないよう苦労する。
幸い二人の意識は完全にガラスの向こう、おそらく倉下と永沢に向いていた。
「よかった」
と低いほうが安心する。
妙だなとは思っていたけど、まさか長身が探知しているのは「人数」なのか?
だとしたら俺と千歳が別れたとたん、ここにやってきた理由は説明がつく。
それに顔も異能も見ることができたので、あとで自分で検証はできる。
残っているのは彼女たちが異能を使って倉下を盗撮しているという証拠を押さえ、現行犯で捕まえること。
正直これだけ無警戒なら前者はそんなに難しくなさそうだけど、問題は後者だ。
と思っていたらいつの間にか金髪ボブヘアのギャル風の変装を千歳が何食わぬ顔で入り口に立っていて、俺は二度驚く。
彼女と目が合うと、他人のフリをしろとアイコンタクトで言われたのでそれに従う。
長身のほうが「人数」で探知するのなら、合流するのはまずいかもしれない。
取り急ぎこのことをメッセージで千歳に知らせておく。
【了解しました。異能を使ったら確保しましょう】
というメッセージが彼女から届いた。
【いいのか?】
【わたしたちが依頼を受けて動いているのだから特に問題にはならないでしょう。民事事件として処理できる範疇になるはずです】
不安な俺に対して送られてきた千歳の返事は心強い。
そうか、俺は刑事事件で考えていたけど、民事に持ち込めばよかったのか。
うっかりしていたけど、さすが千歳は冷静だ。
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