第18話「千歳は提案する」

 昼休み、永沢は合流して来なかったので俺たちもそっとしておいた。

 そして放課後。


「少しずつ片づけていくか」


 学校を出たところで隣の千歳に話しかける。

 地道な調査ってのは本当なら苦手だ。


 できれば警察とか得意な人たちに丸投げして、昼寝でもしていたい。

 

「ええ。まずはこのポイントですね」


 と千歳が提示したのは時系列的に一番古いものだ。


「犯人が特定できたらいいんだけどな」


 俺の異能の発動条件を満たしても、相手の異能がわかるだけ。

 犯人を特定するためにはさらに作業が必要になる。


「犯人の異能が遠距離発動タイプじゃないことを祈ろう」


 と俺はつぶやく。

 その場にいなくても発動できるタイプと、俺の異能の相性はよくない。


「その場合でも対応は可能ですよ」


 と千歳はやわらかい表情ではげましてくれる。

 彼女のおかげで前向きな気持ちになれた。


「まずはやってみよう」


 やらないうちからごちゃごちゃ言いすぎるのはよくない。

 俺の悪い癖だと反省する。


 千歳が指示するポイントに行き、異能で探ってみるがダメだった。

 発動条件に引っかかるものがあれば、俺は自然とわかるのにそれがない。


「ダメだな。遠距離発動タイプだ」


「それでも前進ですよ。屋外でなおかつこんな写真を撮れるポイントがどこなのか、手がかりになりますからね」


 と千歳は明るく答える。


「まあ情報収集のターンだと割り切るしかないな」


 俺はうなずいて次の作業に取りかかった。



「……光彦さん、少しいいでしょうか」


 数日後、俺をいつものように起こしたあと、千歳が真剣な表情で切り出す。


「事件のことで何か気づいたのか?」


 彼女の表情から予想して訊く。


「光彦さんには隠せませんね」


 と千歳は微笑み、


「わたしになりに思いついたことがあって、聞いていただけたらと思います」


 彼女はそう告げる。


「わかった。ご飯を食べたら聞かせてもらうよ」


 と俺は答えた。

 ここ数日、しらみ潰しに歩き回るだけで何の進展もなかったのだ。


 彼女の意見が光明をさしてくれることを期待しよう。


 朝ご飯のオムレツ、ニンジンスープ、サラダスパゲティをたいらげて、食後のコーヒーを楽しむ。


 今日は登校日じゃないのでのんびりできるのが幸いだ。


「それで? 何を思いついたんだ?」


 俺が改めて質問すると、千歳は地図を取り出す。

 赤い点の数々は倉下が写真を撮られたと思われるポイントだ。


 それらから赤い線が伸びていて一つのポイントを示している。


「ここからなら、移動せずにすべての地点を撮影可能ではないかと、昨夜寝る前にひらめいたのです」


 と千歳が気負わずに話す。

 ひらめいたというが、彼女は基本直感を頼りにしない。


 他の可能性を思いつくかぎり潰した上での結論だろう。


「たしかに位置的にはそうだし、たしかめてみる価値はありそうだ。現状他に手がかりもないわけだし」


 俺は賛成した。


 集めたデータに基づいた千歳の意見がそうそう外れるわけがないと思うんだけど、ストレートに言うと彼女はいやがる。


 だから言い方にはちょっとした工夫が必要だった。


「じゃあ移動してみよう。ここはどこだ?」


 と俺は訊く。


「区役所前ビルですね。基本年中無休で午前九時から午後十時まで、一般向けに無料で開放されている展望台があります」


 すでに調べていたらしい千歳はすらすらと答える。


「年中無休で一般人でも登れるのか……」


 おまけに無料となるとたしかに怪しいポイントだ。

 誰かを監視、撮影するタイプの能力にうってつけにもほどがある。


「実際に見てみないとわかんないけどな。他の建物が邪魔だったりする可能性はある」


「はい」

 

 俺が思いつくことは千歳も思いついているだろう。

 彼女は驚かず同意する。



 そうして区役所前ビルにやってきて、実際に二人で登ってみた。


「見晴らしがいいな。それにここからなら四方向を見渡せる」


 平日の午後4時台なのに人がちらほらいて、人気がありそうだと感じる。

 円状のフロアの床と天井以外がガラス張りになっていて、外の景色が見事だ。


「街の中心付近の立地ですしね」


 千歳も感心している。

 彼女の表情から察するに考えていることは同じだろうな。


「有力すぎてミスリードを疑いたくなっている」


 と俺が言うと、


「同感です」


 千歳が真剣な表情で同意する。


「とりあえず試してみるか」


 ここが犯人の撮影ポイントなら話は早い。


 俺の異能は異能使いじゃないとすぐに気づけないタイプだから、何の支障もなかった。


 ちらりと千歳を見ると彼女は小さくうなずく。


「天に輝く十の星の輪、地に座す七つの王冠。結びて起これ。悪魔の劇場(グランギニョル)」


 小声で言いながら能力を発動させる。


「……盲点だったな。ここで異能使われたこと、何回もあるのか」


 俺の言葉に千歳が目を丸くした。


 悪魔の劇場(グランギニョル)は条件を満たした時、使われた異能をすべて読みとってしまう。


 この点は俺でもコントロールができない。

 つまり目標以外にも異能の使用者がいた場合、それらも拾い上げるのだ。


 この場合完全に蛇足で、無駄に負荷がかかってきてうっとうしい。

 ……遠く離れたものを撮影するタイプの能力……いた!

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