第16話「犯人の狙いがわからない」
永沢に守られるようにして今回の依頼人・倉下みずきは退出する。
「まさかと思うけど、また姿を隠すタイプなのか?」
と首をひねった。
想定できる中で面倒なものはまずこのタイプになる。
姿が見えなくなるタイプの異能ってわりとレアだと思ってたけど、怪盗ダイヤモンドローズに続いて二人めなんだろうか?
「撮影機能つきの望遠鏡みたいな能力でも同じことができると思いますよ」
と千歳が指摘してくる。
「なるほど、言われてみればそのとおりだ。ランクとしてはそっちのほうが低くなるだろうな」
俺はうなずいて答えた。
望遠鏡みたいな異能は有効距離が長いほどランクは高くなるだろう。
「まずはこれらの写真が撮影されたポイントを割り出すしかなさそうだな」
と俺はため息をつく。
【悪魔の劇場(グランギニョル)】で標的の異能を探るためには、実際に異能が使われた場所を知る必要がある。
「どうしますか?」
と千歳に訊かれた。
「警察が動かず民事でと言われたってことは、事件性が低いという判断なんだろうな」
「ええ。隠し撮りされているとは言え、それだけですからね。下着の一つも写ってはいません」
千歳は感情を抑えて答える。
女性が盗撮されたと聞いて想像する、ひどい内容は一枚もない。
これだと単に気持ち悪いだけなんじゃないだろうか?
……女性が実際に感じる恐怖や苦痛を俺は想像しかできないので、言葉には出さずにおく。
「被害が小さいのは依頼人にとっていいことなんだけど、それだけに相手の目的がわかりにくいな」
と俺は言って千歳を見る。
「きみはどう考えてる? 意見を聞かせてくれ」
今後の活動の指針を決めるためにも、参考になる情報は多いほどいい。
「……女の子を怖がらせて喜んでいる変態の可能性が高いと思います」
二人きりになったからか、千歳の顔と口ぶりからは怒りがにじみ出る。
「同じ意見だ」
だが、問題はその先にあるだろう。
他にも写真を撮っているのか、それともこれだけなのか。
「盗撮が目的ならわざわざ本人に送りつける意味がないからな。何でだと思う?」
異能を悪用するなら、被害者は気づけない場合が多い。
知らせてきた意図はどこにあるのか。
「現在わたしが想定しているのは自己顕示欲の発露、あるいはゆがんだ愛のどちらかです」
と千歳は答える。
「自己顕示欲は『俺はこんなことができるんだぞ』というアピールだな」
俺が合いの手を入れると、
「女性かもしれませんよ?」
すかさず彼女は指摘をぶつけてきた。
「女性?」
意識になかった意見にぎょっとなって、彼女の天使のような美貌を見る。
「年ごろの女の子を標的にしているわりに、男性の欲望らしきものを感じません。少なくとも彼女に性的魅力を感じている可能性は低いのではないでしょうか」
彼女に言われて改めて写真を見直す。
「……たしかに友達が本人の許可を得て撮影したと言われたら、納得できそうな内容ばかりだな」
その場合おそらく誰も問題視しないだろう。
「女の子が被害者だから犯人は男だと決めつけると、足元をすくわれるかもしれないな」
思い込みで動くのはとても危険だ。
「はい。女性が女性に恐怖心を与えたいと考えたら、今回のような行動に出てくると思います」
女性にとって今回みたいなやり口は充分すぎるほど恐ろしい。
「ただ、内容が内容ですので、警察が動かなかったのは残念ながら当然と言えますね。もちろんそれこそが犯人の狙いで、今後過激化する線だって無視できません」
続けられた千歳の推測に俺はもう一度ため息をつく。
「過激化していくパターンは厄介だな」
その場合は千歳にガードについてもらうしかない。
「千歳がいれば何とかなりそうだけど」
「……わたしだって意識の外からの盗撮は防げる自信がありません」
困った顔をした千歳も可愛いけど、前言は撤回しよう。
彼女が盗撮のエジキになるなんて、想像しただけでも許せん。
「よし、まずどのへんで撮られたものか、分析してくれないか?」
意識を切り替え、話を戻す。
こういった作業は圧倒的に千歳が上手だ。
「異能が使われたことを想定すると、ブレが生じますけどよろしいでしょうか?」
と千歳に確認される。
「それは仕方ない。おおよその位置、方角を特定することを優先しよう」
と答えた。
これらがわかれば敵の行動範囲やパターンを予想できるかもしれない。
「そんな甘い相手だとよいのですが」
千歳は珍しく悪い方向に考えたようだ。
「手がかりを残さない用心深さがあるなら、送りつける写真の種類をもっと減らすだろう。きみが言ったように自己顕示欲が圧倒的に強いよ」
と俺は微笑む。
「だからきっと何とかなるさ」
慎重で用心深い犯人は手がかりはもちろん、手がかりを探すヒントすらなかなか残さないから厄介きわまりない。
対して自己顕示欲が強いヤツは、慎重になろうとしても詰めが甘い。
自分の能力を誇示することを優先しているので、相手がどんな能力を持っているのかまで頭が回ってないのだ。
そこがつけ目と考えて行動してみよう。
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