メモ2「気づかれない追跡者」

第15話「後輩女子は相談したい」

「こんにちは。さっきぶり」

 

 と最初に入ってきたのは制服姿の永沢で、見知らない女子を背後に連れていた。


 背丈は永沢と同じくらいで髪をサイドテールにした、おどおどとした子犬を連想させる。


 リボンの色が赤色なのでうちの一年なんだろう。


 スカート丈は永沢と同じく膝上10センチくらいだろうか。

 千歳と比べれば短いけど、これくらいのほうが動きやすそうではある。


「今日の依頼人はこの子なの。中学の時からわたしの後輩でね」


 と永沢が簡単に説明すると、


「ようこそ、幡ヶ谷探偵事務所へ。どうぞこちらにおかけください」

  

 千歳がにこやかにあいさつをして来客用ソファーをすすめた。


「ありがとう、ございます」


 女の子は緊張した面持ちでぎこちなく礼を言う。

 俺は位置をずらして永沢の正面に移動し、察した千歳が女の子の前に腰を下ろす。

  

 若干女の子の体から力が抜けて俺は予感が間違ってないと予想する。

 この子は男性恐怖症とまではいかなくとも、苦手ではあるらしい。


 なら俺より千歳が話しかけるほうがいいな。

 ちらりと隣に座った彼女を見ると、彼女はうなずいた。


「じゃあわたしからお話を聞きましょうか」


 と優しく女の子に話しかける。

 何も言わなくても伝わる助手ってのはありがたい。


「は、はい……」


 少女はまだもじもじしている。


「ほら、まずは名前を」


 と永沢が隣で彼女に指示を出す。


「はい。倉下みずきと言います」


 少女はようやく名乗る。


「はい。どうなさいましたか?」

 

 千歳は見た者の警戒心を解く表情で、聞いた者を癒すような声で対応した。

 心理カウンセラーとしてもやっていけそうだなとひそかに思う。


「えっと……何から話せばいいのか……」


 倉下は迷っているようだった。


「こちらに来ようと思った理由を、なるべく時系列順に教えてください」


 と千歳が指示を出す。


「一番最初に何があったのか、そこからね」


 永沢が優しく言う。


「はい。最初は二週間くらい前に、これが私の部屋の机の上に置かれていました」


 倉下は話しながらカバンから一枚の写真を取り出し、テーブルの上に置く。

 千歳と二人で見てみると、制服を着た倉下の後ろ姿が写っていた。


「……お友達が撮ったものではないですよね?」


 千歳は誤解しないように念を押す。

 流れ的にも撮られ方にも「隠し撮り」の可能性が非常に高くても。


「はい」


 倉下は両手をぎゅっと握りしめてうなずく。


 千歳はさすがに表情は平静なままだけど、永沢のほうは明確な嫌悪が浮かんでいる。


 盗撮されるって男でも気持ち悪いしな……。


「最初がこれということは、他にもあるのですね?」


 と千歳が言うと倉下は他の写真を見せてくる。


「全部隠し撮りですね……」


 千歳もさすがに平静さにひびが生じた。


「周囲を見回しても誰もいないのに、写真を撮られて」


 倉下は泣きそうな顔で、一枚の写真を一番上に置く。


「探してもムダ」


 定規とサインペンを使って書かれたらしい文字が目に飛び込む。

 これはかなり気持ち悪い。


 こんなの送りつけられたら、女子は男嫌いになりそうだ。

 とは言え、これだけじゃうちを頼ってきた理由がわからない。


 ちらりと千歳を見ると、


「警察には相談しましたか?」


 彼女は俺の思考を察して二人に質問する。

 とたんに倉下の表情は露骨に暗くなった。


「したのですけど、被害届を受理してもらえなくて」


 彼女の目から涙がこぼれる。


「犯人の特定につながる手がかりがないし、民事で処理できることも多いって言われたそうなのよ」


 と永沢は言ってそっと倉下を抱きしめた。


「盗撮ならたしかに迷惑防止条例になるでしょうからね」


 と千歳は認めたあと、


「異能が使われてる場合なら【異能犯罪】となり、充分警察が動く理由になるのですけど」


 説明をして永沢に目をやる。


「それを交番で教わったから、この子をここに連れてきたのよ。あなたたちなら異能が使われる証拠を探すか、犯人を特定して捕まえるかできるんじゃない?」


 答える永沢は期待のこもったまなざしで俺を見た。


「たしかに異能が使われているなら、俺の異能で判別できるな」


 と俺は応えて千歳を見る。


「どのあたりで撮影されたものか、写真があれば絞ることはできますからね」


 彼女は言いながらもう一度すべての写真をチェックした。


「差し支えなければお借りしてもいいですか?」


 と倉下に問いかける。


「は、はい。気味が悪いですし……」


 できれば千歳に持っていてもらいたそうな目つきだ。

 そこで永沢が首をかしげながら口を開く。


「幡ヶ谷くんなら写真さえあれば異能かどうかわかるんじゃないの?」


 というのが彼女の疑問だった。


「それは情報採掘者(サイコメトラー)の領分だよ。俺の異能は他の条件も要求される」


 俺は苦笑して答える。


「情報採掘者(サイコメトラー)は必要な物質さえあれば、情報の断片を読み取ることができるという点で、俺の異能よりも優れているんだ」


 俺よりも便利な異能と言えるけど、弱点も存在していた。


「情報採掘者(サイコメトラー)は読みとる情報を選べないですし、異能には使えないですけどね」


 と千歳が説明を補う。


「異能の情報も集められるという点で、俺のほうが優れているかもしれないな」


 という言い方をしたのは、使い方次第では情報採掘(サイコメトリー)でも異能の情報を集めることは不可能じゃないからだ。


 取得する情報を自由に選べないという点に違いはないけど。


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