第14話「エリスは仲良くしたい」
怪盗ダイヤモンドローズを捕まえたあと、俺の日常にささやかな変化があった。
「幡ヶ谷くん、おはよう」
「幡ヶ谷くん、一緒に帰らない?」
永沢とたまに一緒に登下校したり、昼休みにしゃべるようになったのだ。
今まで千歳以外の女子とはあいさつくらいしかしてなかった身としては、新鮮な変化である。
登下校の時はともかく、教室にいる時は千歳がいないので心臓によくない。
千歳がいない時に女子に話しかけられるなんて、過去何回あっただろう?
「光彦さん」
昼休み、千歳がいつものように二人分の弁当を持って呼びに来た。
自分の分は自分で持つ、二人でどこかで合流しようと言っても、彼女は譲ってくれない。
何らかのこだわりを持っているようだ。
いつも世話になっている身としては、ささやかなこだわりを貫くくらいはいいだろうと今では諦めの境地である。
「幡ヶ谷くん」
そこまでは日常なので俺も同級生も驚かないんだけど、今回は永沢が千歳と一緒だったのだ。
「わたしも混ぜてもらっていい?」
と訊かれる。
何でまた? と思うのは無粋なんだろうか。
千歳にいやがってる気配がないし、千歳と仲良くなったんだろうと解釈してうなずく。
「学食行く? それとも中庭?」
と俺は永沢に聞き返す。
「わたしは学食派なの。ごめん、つき合ってもらってもいい?」
混ざりたいと言ったのに弁当持参じゃなかったからか詫びられる。
「別にいいよ」
と応じた。
どうせ移動するつもりだったし、学食で弁当を食べるのは認められているし、学食を使うなら飲み物を調達しやすいし。
学食に行って四人テーブルを俺が確保し、永沢はと千歳は買い物に立つ。
「はい、光彦さんはほうじ茶ですよね」
「うん」
すぐに戻ってきた千歳からペットボトルを受け取る。
「ごめん、お待たせ」
永沢が焼肉定食を持って戻ってきて、千歳の隣に腰を下ろす。
肉食女子ってヤツか。
「はい、エリスさん」
「助かる!」
紅茶を差し出した千歳に永沢は笑顔を向ける。
「え、何あそこ?」
「やばくない?」
「二大天使が集結か」
二人の存在に気づいた周囲からそんな声があがった。
まあそうなるよな。
二人が並んでいる様を正面から見る俺としては、心から共感できる。
「一緒にいる男は何なんだ?」
「釣り合いとれてないだろ」
こっちの意見も正直よくわかった。
「失礼な人たちね」
と永沢がイラっとする。
「今でこそ言われなくなったけど、入学当初は何で千歳が俺みたいなのとつるんでるんだってよく言われたな」
俺は過去をなつかしむ。
おかげで一時期千歳の機嫌が悪かったんだよなぁ。
千歳がニコッと微笑むが、思い出さないでほしいってサインだなこれ。
「わたしは仲いいのねとしか思ってなかったわ」
と永沢が言う。
おっ、千歳の機嫌がちょっとよくなった。
永沢ナイスプレーだと目で言ったけど、当然通じなかった。
つき合いの長さのせいか、千歳にしか通じないんだよな。
俺は気配を消して二人のやりとりを聞こうとするけど、永沢は時々俺に話を振ってくる。
「依頼って異能使いってわかってなくても受けてもらえるの?」
というものはわかるけど、趣味や好きなことを訊かれたのは何でだろう?
話のネタ探しだろうか。
「千歳に訊けばだいたい答えてくれるよ」と思ったものの、さすがに人としてダメな答えな気がするので、真面目に対応する。
「相談はとりあえず乗るよ。役に立てる自信がなくても、千歳で対応できそうなら千歳がメインでやればわけだから」
大事な質問に回答しておく。
「えっ、そういうものなの?」
と永沢が驚いて千歳を見る。
「ええ。わたしにできそうなら、ですけど」
彼女はくぎを刺すように返答した。
「そうなんだ」
永沢は何だか迷うそぶりを見せたので、
「千歳は何でもできるからまずは相談してみるくらいでいいと思うぞ」
とススメておく。
「たしかに。芸能界に潜入もできそう」
と永沢が言ったので、
「千歳なら芸能界でもメシを食っていけるだろうな」
同感だとうなずいた。
見た目は永沢だって負けていないと思うけど、他の要素はどうなのか知らない。
「褒めても何も出ませんよ?」
千歳は涼しい顔をして言う。
その後は雑談へと切り替わる。
「ふーっ」
学校から帰ってきて事務所にカバンを置くと、千歳がすぐにお茶をいれてくれる。
「おかえりなさい。そしてお疲れさまです」
一緒に帰宅したのにわざわざ言ってくれるのが千歳らしい。
「ああ。千歳もいつもありがとう」
お茶を受け取りながら礼を言う。
「まさか永沢と接点が続くとは思わなかったな」
事務所で二人きりなので遠慮なく本音をこぼす。
「律儀な人ですね。もっとも、それだけではないと思いますけど」
と千歳が応じる。
永沢が他にも何らかの意図を持っていると見抜いたのか。
「千歳が言うならそうなんだろうけど、どんな意図なんだろう?」
興味本位で訊くとなぜか困った顔をされる。
「光彦さんのその鈍感さだけは、わたしも完ぺきな擁護は難しいですね」
えっ、何で?
鈍感だって呆れられるような要素、今のやりとりであったか?
永沢の目的、そんなにわかりやすいんだろうか?
悩んでいると事務所のインターフォンが鳴る。
平日のこんな時間帯に来客なんてけっこう珍しい。
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