第13話「永沢家はお礼をしたい」

「千歳、はぎとってくれ」


 あっけにとられてる人たちをよそに、俺は千歳に頼む。


「はい」


 彼女が俺の指示に従って顔付近のフードを取ると、俺たちと年がかわらない女の子のにらむような顔つきが出現する。


「お前が怪盗ダイヤモンドローズか。お前の異能は【虹色套(ダイヤモンドクローク)】。まとうことで七種類の能力を使えるコートのような衣類を作り出す」


 と説明を話すと女の子はギョッとした。


「自分以外の誰かに作った衣類を一定の面積触れられると、能力が発動できなくなるいうのがこの異能の欠点だな」

 

 さらに欠点を指摘すると顔色が青くなる。


「な、何で!? 誰にもしゃべったことないのに……何であたしの異能の名前と能力が、それに弱点までわかんの!?」


「どうやら自分以外にも異能使いがいるってことを、まったく想定していないようだな」


 道理で無防備だったわけだ。


 異能に詳しい者、もしくは対応できる異能使いがいないかぎり、無敵に近い能力だと言えるので無理もない。


「いちいち予告状なんて出さなければ、俺たちは呼ばれなかったのに」


 呆れると同時に気になってもいる。


 予告状をあえて出すような真似をしなければ、俺と千歳が待ちかまえることができず、この怪盗を捕らえるのは絶望的な難易度になっていただろう。


「それじゃ意味がない……」


 ダイヤモンドローズは悔しそうにうつむく。


「意味がない?」


 引っ掛かりを覚えたところで唐草警部が咳ばらいをする。


「犯人逮捕に協力感謝する。あとは我々に任せてくれ」


 ……仕方ないな。


「この子に逃げられないためには、なるべく体に触れる必要があります。女性警官を複数用意したほうがいいでしょう」


 と唐草警部に忠告する。


「なるほどな。異能のことはわからんが、きみの言葉を信じよう。幸い、今ここに三人来ている。左右から密着していればクリアできるだろう?」


「ええ」


 彼の確認にうなずいた。

 永沢家には女性が二人いる配慮かもしれないけど、これは大きい。


 男性警官が女子の体に密着するのはあまりよろしくないもんな。

 

「怪盗ダイヤモンドローズ。貴様を逮捕する」


 と唐草警部が手錠をかけ、ダイヤモンドローズは連行されていった。


「とりあえず一件落着かな」


 とつぶやくと永沢がまぶしい笑顔を浮かべ、寄ってくる。


「幡ヶ谷くん、本当にどうもありがとう!」

 

「きみのおかげでペンダントが無事だったよ」


 と守さんが言い、


「本当にカッコよかったよ!」


 興奮した永沢に抱き着かれた。

 

「お、おう」


 女の子に褒められ、柔らかい感触とぬくもりを感じてドキドキする。

 彼女の両親はと言うと、千歳と同じく微笑ましい顔で俺たちを見守っていた。


「謝礼についてなんだが、いくらくらい包めばいいのかな?」


 少し時間が経ち、まだ永沢に抱き着かれたままの俺に守さんが訊く。


「相手が弱かったので200万で大丈夫です」


 俺は即答した。


「えっ? そりゃありがたいけど、警察が何年も捕まえられなかった怪盗だよ? もっと高いのが自然じゃないか?」


 守さんがびっくりすると、体を離した永沢が俺を見つめて口を開く。


「本当にいいの? 相手が弱いってのも意味わかんないし、お父さんが頑張って支払うよ? 何ならわたしも」


 と彼女は熱を込めて言う。

 何やら危険な香りがするので慌てる。


「いや、弱かったのは本当だから」


 どう説明すればいいのかと迷い、俺は千歳に目をやった。


「異能使いの強さは単純な能力だけではなく、異能使い相手の対戦経験で変わってくるのです。ダイヤモンドローズは異能使いとの経験がない、最弱レベルでしょう」


 と彼女が話して俺はうなずく。

 

 強力な異能の持ち主が異能使いとの対戦経験をたくさん積む、というのが想定するかぎり最悪の相手だ。


 ダイヤモンドローズのようにその反対のタイプは端的に言うとカモである。

 だから高額の報酬は受け取れない。


 あと、あんまり稼いで目立っても困るという裏の事情もあるんだけど。


「俺たちはあくまでもバイトなので税金が高くなっても困りますしね」


 と冗談めかして言うと、ようやく守さんは笑ってくれた。


「じゃあ報酬は200万円で。それ以外にも何かきみたちに迷惑にならない形でさせてもらおう」


「まあそれなら……」


 固辞してもあまりよろしくないかもしれないと受け入れる。

 ようするに目立たないならもうちょっともらってもいいのだ。

 

 俺だって欲求はあるし、千歳に給料を払わないといけないし。


「じゃあ俺たちはこれで」


 と言って永沢家のみんなに別れを告げる。


「お疲れ様でした、光彦さん」


 二人きりになったところで千歳がねぎらってくれた。


「千歳もいつもサポートありがとうな」


 俺も礼の言葉を返す。

 彼女がいなければあんなスムーズにダイヤモンドローズを確保できなかっただろう。


「いえいえ、好きでやってることですから」


 と千歳はいつもの笑み。

 彼女はそう言うと思っていた。

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