第5話「千歳は譲る気がない」

「じゃあいろいろ見せてもらいますよ」


 と唐草警部たちは順番に家の中を見て回る。

 案内役として両親がついていったので、俺たちはリビングに残された。


「やっぱり話がわからないわよね、警察って」


 永沢は三人だけになったことで、露骨にいやそうに顔をしかめる。

 せっかく呼んだ俺たちが相手にされてないことは明らかだったせいだろう。


「まあ追い出されなかっただけマシだよ。千歳を連れてきて正解だったな」


 と俺はニヤリとする。


 永沢は千歳と同じくらい顔がいいものの、おそらく異性を魅了するテクニックは持っていないだろう。


「まあ、そのために烏山さんを?」


 永沢はジト目で俺を見る。

 女性的魅力を武器にするという部分が不愉快だったらしい。


「実際効果的なんだぞ。警察はまだまだ男社会だからな」


 女性の幹部も増えてきているけど、頭数はそんなに多くはない。

 たいていが唐草警部のような中年男性だったりする。


 つまり男受けが抜群の容姿とテクを備えた千歳は、切り札だと言えるだろう。


「烏山さんはそれでいいわけ?」


 永沢の視線が千歳に向けられる。


「はい。おかげで永沢さんのお力にもなれるでしょう?」


 彼女はいつもどおり柔らかい笑みで答えた。


「うっ、それを言われると弱いんだけど……」


 永沢は千歳のありがたみがわからない人じゃなくて何よりである。


 千歳が警察関係者を丸めこめず俺たちが追い出されていたら、彼女は孤立無援になっていたかもしれない。


「でも、悔しくないの? あなたたちのこと信じてもらえなくて」


 と永沢は気をとり出して言う。

 背後にがおーと虎が火を吐いてるビジョンが浮かびそうな剣幕だ。


「別にいいよ。警察の人海戦術と科学捜査力は頼りになるからね」


 と俺は即答する。

 日本警察が無能というのは大きな過ちだ。


 得意分野においては無類の強さを発揮するし、競い合おうなんて考えるだけ無駄である。


「今回の相手は推測だけど、機器に感知されない異能だ。戸締まりした家に侵入するほうは能力なのか、それとも泥棒技術でやってんのかわかんないか」


 と俺は言って千歳を見た。


「判断する材料が足りないのが厄介ですよね。能力が一種類なら対策をとりやすいのですけど、複合タイプもいますから」


「複合タイプ」


 永沢がつぶやく。


 異能使いと言っても効果が複数あるタイプ、そもそも複数の能力を組み合わせたと言えるタイプがあるんだよな。


「わかんない点がある以上、ナメられてるくらいのほうが仕事しやすい」


 と俺はいきなり本音を明かす。

 これに永沢はびっくりしたようで息をのむ。


 警戒されると動きづらくなってしまうのは事実だ。


 大した力を持ってなさそうな高校生だと油断してくれると、異能を出し惜しみしなくなる。


「光彦さん、とっても頼りになるから大丈夫ですよ。異能使い相手ならたぶん世界最強です」


 と横から千歳が彼女に話した。

 

「いつもながら千歳の評価が鬼のように高いなぁ」

 

 俺は苦笑する。

 無限のような信頼はありがたいが、それだけではすまない。


「少なくともわたしの中ではれっきとした事実です」


 俺に対して千歳は微笑を向けてくる。

 この点に関して彼女は全然譲ってくれない。 


「何かいいわね、信頼し合ってる感じで」


 と永沢が俺たちを見て評価する。


「つき合いの長さが大きいだろうな」


 たしか十年くらいになるだろうか。


「おかげで千歳には恥ずかしい秘密を握られてるし、隠し事もできないよ」


 だから彼女だけにはかなわいと語る。


「いいじゃない? そういう人がいるなんて」


 と言った永沢の表情は複雑だった。

 うらやましがっているような、まるであこがれているような。


 気の置けない友人が少なかったりするのか?

 ちょうど足音が聞こえて、大人たちが入ってきた。


「家の構造は理解しました」


 と唐草警部がしゃべっている。


「人数をかけるとそれを利用するのが、いまいましいダイヤモンドローズの手口なんです。だから今回は少数精鋭でいきましょう」


「わかりました」


 と永沢の両親たちがうなずいた。

 その娘が俺たちをちらちら見ている。


「人数をかけないのは賛成」


 と俺は小声で言った。


「犯罪に利用できる異能はだいたい面倒くさく、数の利が活きないことがよくあるのですよ」


 と千歳も小声で説明する。

 

「今回のタイプだと人ごみにまぎれて逃げるのが得意そうだからなぁ」


 警察の人海戦術を逆手にとるというのは、つまりそういうことじゃないかと推測した。


 カメラをごまかせるのなら、見た目を別人に変える能力だって持っているかもしれない。


 ほとんど何もわかってないのでいろんな可能性を想定しなければいけないのだ。


「そこ、何を話しているんだ?」


 唐草警部がじろっと見ながら食いついてくる。

 うへえ、小声で話すくらいスルーしてほしいなあ。


「いえいえ、警察の方は頼もしいなと話し合っていたのですよ」


 と千歳が微笑みながら応じる。


「ふん」


 さすがに警部だけあってデレデレはしなかったものの、とがめる気はなくしたようだった。


「それじゃあ狙われてるというペンダント、見せてもらってもいいですか?」


 と唐草警部が依頼する。

 これは俺たちにとってもチャンスなので、そっと千歳や永沢と視線をかわす。

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