第2話「依頼人は学園の天使様」
異能というのは文字通り普通の人間が持っていない、特殊な能力のことだ。
火をつけたり雨を降らせたり、空に浮いたりさまざまである。
1万人に1人とか10万人に1人といった割合で存在すると言われているみたいだけど、本当のところはわからない。
まあ現時点ではマイナーな存在だと考えて間違いないだろう。
それだけに一般人はそんな簡単に異能が使われるとは思いつかない。
少なくとも永沢がそう考えた理由はあるはずだ。
「とりあえず話を聞かせてもらおう」
それを知りたくなったので、彼女に事情の説明を求める。
「ええ、実は何日も前から家で不思議なことがあったの。たとえば物の置き場がかわっていたり」
永沢はうつむき、気味が悪そうに話しはじめた。
「それはたしかにいやだろうな」
彼女の背後にひかえている千歳も不快感を堪えた表情になっている。
気のせいではないかとはこの際言わないように心がけていた。
「ええ。それだけじゃなくて、家のリビングにこんなものが」
と永沢は言って一枚の茶封筒を取り出す。
中身は一枚の紙切れで「あなたの家の大事なペンダントをいただきます。怪盗ダイヤモンドローズ」と書かれてある。
「怪盗からの予告状か」
ダイヤモンドローズは貴金属を中心に狙う泥棒だったはずだ。
「ほんとなら警察案件なんだけどなぁ」
けっこう名前が知られた犯罪者だし。
たしか知能犯罪課になるんだったか?
「警察、一度も捕まえられてないよね」
永沢は不満を込めて言う。
たしかにダイヤモンドローズの名を聞くようになってから何年も経過していて、いつも警察は取り逃がしている。
広義の意味では「警察がムリな事件」に分類されてしまうだろう。
だから彼女は警察じゃなくて、俺のところにやってきたのか。
「……千歳から聞いたと思うけど、俺は異能使い相手じゃないと力になれないよ? 単に泥棒としてすごいだけだった場合、役立たずになってしまうんだ」
と念のため警告しておく。
普通の事件も扱えるんだったらもうちょっと仕事はあるかもしれないんだけどな。
あいにくと俺は完全な一芸特化型と言えるタイプだった。
「わたしが異能使いだと思う理由はね、カメラなの」
「カメラ?」
俺は首をひねる。
防犯カメラについては対策可能なので、それだけだと弱い。
「サーモグラフィだったかしら? お父さんが買った体温を感知できるタイプなの。それでもどこにも引っかからなかったの」
という永沢の説明を掘り下げて聞いてみた。
「なるほどな。防犯カメラや赤外線センサーを突破しただけじゃなく、熱探知系に引っかからないのはおかしいと」
前二つなら俺は無理でもたぶん千歳ならやれるしな。
「そうでしょう?」
永沢に同意を求められたのでとりあえずうなずく。
たしかに体温については普通の手段でごまかすのは無理そうだ。
「自分の体温をコントロールしたり、知覚されないタイプの異能使いという可能性はありそうだ」
と言うと永沢は目を輝かせて身を乗り出す。
「そうでしょう?」
千歳に負けない美貌がドアップになり、シャンプーのいい匂いが鼻をくすぐる。
そして胸甲戦力も千歳といい勝負らしいと、俺の視力は確認した。
ちょっと照れてしまって目をそらすと同時に千歳が咳ばらいをして、ハッとなった永沢があわてて元の位置に戻る。
「とりあえず一回家に行ってみてもいいか? つけこむ隙がないか、目でたしかめたい」
と俺は希望を出す。
「ええ、もちろんよ。プロにチェックしてもらえれば、わたしたちじゃわかんないことに気づいてもらえるかもしれないし」
永沢は快諾してくれたので立ち上がる。
「千歳、出かけよう」
「はい」
当然千歳も連れて行くんだが、永沢はすこし驚いたようだ。
「烏山さんも?」
犯罪がおこなわれるかもしれない場所に女の子を、と彼女は思ったらしい。
「千歳ならだいたいは大丈夫だぞ」
異能が絡まないなら俺よりずっと優秀だ。
何なら異能使いの犯罪者との対決する以外、全部千歳一人でいいまである。
「こう見えてわたし、アクションいけますよ」
と言って千歳は腕まくりをしたものの、華奢で可愛い女の子にしか見えない。
だから犯罪者たちだってだまされるわけだが。
「……まあ探偵助手をやってるくらいだものね。二人がいいって言うなら来てもらうけど」
と永沢は認めた。
「話が早くて助かる。千歳がいない俺は役立たずになりかねないからな」
「それってどうなのよ」
自己評価を正直に話したところ、依頼人には呆れられてしまう。
「光彦さんは少々自己評価が低いのですよ。彼にしかできないことがあるのですから、自信を持っていただきたいのですけど」
と千歳が困った顔で言う。
彼女はいつもはげましてくれるが、あまり調子に乗るとこの世界はあとが怖いんだよなあ。
「とにかく、俺はすぐに出られるから、千歳は支度をしてくれ」
と指示を出す。
俺は財布と自分自身さえ現場に持っていけばいいだけだ。
「えっ、何かいろいろ準備とかあるんじゃないの?」
打ち解けてきたのか、永沢が気安く質問をしてくる。
何もしゃべってもらえないよりはずっといい。
「それをやるのが千歳なんだよ。どうせ俺、上手くできないから」
「……名探偵なのは烏山さんのほうなんじゃないの?」
と永沢が目を丸くする。
よく言われることだし、俺だってそう見られる自覚はあった。
否定するのはたぶん千歳くらいのものだろう。
俺たちが話しているうちに千歳が準備を整えていた。
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