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「お願いします」
『……分かりました。少し待ってて下さいね?』
ドットちゃんにお願いした事は一つだけ。
術か魔方陣かも分からないけど、サリエルが出来る事を知ってるドットちゃんを探してもらう。
向こうでは、もう魔法使いの指示でサリエル探しをしてる。
それでかなりの数のドットちゃんが動いたはずなのに誰も心当たりが無いなら、きっとお話も出来ない、ただ漂ってるドットちゃんが鍵になるはず。
誰かが知ってるはずだ、必ず。
『薬草、俺は何をする?』
「魔王様はドットちゃんが見付かったら、見付けてください」
『……見付かったら、見付ける』
「はい」
『嫌な予感がビンビンするがの、ワシは?』
「僧侶はドットちゃんが見付けて、魔王様が見付けたドットちゃんの記憶を読んで欲しい」
『……ドットが見付けて魔王様が見付けたドットの記憶を読む』
「うん」
二人とも動かない、伝わらないかな?
魔王様の黒魔術を解く時に喋れないドットちゃんの記憶を読めた、あれを二人にやって欲しいんだけど……どう説明すればいいかな?
『了解した』
『心得た』
「わあ、ありがと。お願いします! オレはこっちで準備するね」
『……薬草、その、薬草の力も策も信じている。だが危険は無いのか? 本当に戻れるのか? もっとこう、確認してから、時間をかけても良いのではないか?』
「大丈夫です。なんですか? オレが戻っちゃダメみたいに聞こえますよ?」
『そうではない、断じて違う。今すぐに戻って欲しい。一秒も惜しい』
「じゃあ、あの、本当に大丈夫ですから黙って見ててください。真っ黒の所で迷ったら探してください。魔王様ならオレを見付けてくれるって信じてます」
お返事をされる前にテレビに背中を向ける。離れる、フィギュアが飾ってある棚の方へ、オレが落ちてきた辺りへ。
「……薬草? どうしたんだい?」
胸に抱えたままだった。
王子様の声にビクッとしちゃった。そうだよ同じ声、いい加減これにも慣れなきゃ。
「なんでもないですよ。ここら辺かなって」
「突然急ぎ出したのは、本心を思い知ってしまうのが怖いといった所かな?」
「黙って見ててください」
「薬草よ。別に心の向くままに生きて良いのではないか? カイが言っていた様に、自分が居心地の良いと思う……」
「黙って!」
「そうか」
「……ごめんなさい、見ててください」
「任せよう」
何を言っているんだ王子様は、オレが居心地の良い場所は魔王様のそばだ、膝の上、肩の上、手のひらの上だ。
薬草であっても、妖精であっても、魔王様と一緒に居たいんだ。
「……エヴァ? 大丈夫?」
「うん、何もないよ。どうしたの?」
「カバン、こっちに来てから使ってたやつ、取りに来た。母さんが持って来いって。オヤツとか用意してたよ」
「え、それじゃ持って帰っちゃうよ?」
「うん、あげるよ」
「うん、そっか、ありがと」
「……あのさ」
「うん」
「俺をつ……」
「あ!」
「なに?!」
「大変だ、せっかく動物園に行ったのに遊園地に行ってないよ?! 動物園の隣にあるんだよね、遊園地!」
「……ああ、なんか潰れたって聞いたかも。今は遊具の公園があるとか何とか」
「え、そうなの」
「フフッ、じゃあ……次に来た時に遊園地行こう、ちゃんとした遊園地。連れて行くよ」
「うん! 楽しみだな、やった」
カバンを取って、フィギュアを眺めてるオレの後ろを通って、ソウタが階段を降りていく足音。
……タイチが庇った女の子の所で見ちゃった記憶、ソウタの心に巻き込まれたのを思い出す。
ずっと良い子だった。ユウタが生まれた時も、お母さんが寝込んでる時も、お父さんが怪我をした時も、ずっと良い子だったんだ。
そこにオレも……ソウタと……ソウタとは居られないんだよ。分かってるよ。
黒い山を一緒に飛ぼう、魔女の森でジャックさんから一緒に逃げよう、水晶の泉で水遊びしよう、聖なる湖は
「……うう」
「薬草よ。ダダ漏れだな」
「……あい」
「連れて行けば良いではないか。ソウタは特に意味のある役目は負っていない。この世界から消えても……」
「意味! あります! ソウタはお父さんとお母さんとユウタに必要です!」
「では四人まとめて連れて行けば良い。クロとも離れなくて済む」
「……お」
「どうした? 良い案だろう?」
「……お父さんは動物の命を救います。お母さんはお薬を作ります。ユウタは宇宙飛行士になります。この世界に必要です、だからソウタも必要です」
「なるほど。ではさっさと諦めるがいい。いつまでグズグズしている」
……そう。諦める、諦めよう。
最初から住む世界が違うって自分で言ってた、分かってたじゃないか。
「……ありがとございます」
「そうか。やはり強く賢い、
「……その体、帰ったら何とかします。何を言われても可愛いだけです」
「せっかく盛り上げてやったというのに……なに? 何とかなるのか?」
「王子様の人間の体、どっかにあります」
「よし、帰るぞ薬草」
魔方陣が見付かるといいな。描けば帰れる、逆もだ、描けば来れる。
術だった時は……オレが強くなるしかない。
今なら魔力も
……そうだ、帰る前に。
お母さんのお部屋へ魔方陣を繋ぐ。コッソリ、オレが帰ってから教えよう。
薄暗いお部屋でステッキをポチッと押す。ピカピカ光っちゃうんだ、すごいでしょ。
沢山の植木鉢の中から、これ。一番大きなハイビスカスの木にしよう。
「えい」
先っぽにあった小さな
パンッと花弁が開いたから、黄色い花粉をコナコナする。シナッと萎れて、種が付いた。
これが大きくなった時、もしかしたら妖精が生まれるかも知れない。力のある妖精が育てれば可能性があるんでしょ。
クロの弟分、妹分、お友達になれると思う。
みんなの遊び相手になれると思う。
誰も一人になんてさせない。
これでよし。
魔方陣をくぐる、その前に振り向く。
あのイスでお母さんがオレを抱っこしてくれてた。
マンガ、すごかったな。絵が動いて喋ってるように見えたんだ。
最後まで、いやオレ達の最後ってどこだろう? とりあえずイイ感じの所まで描いてくれたら嬉しいな。お母さんが考えたお話のマンガも読みたかったな。
魔方陣をくぐる、ニャーニャーワンワンと迎えられた。
お父さんの動物病院、ここも薄暗いからステッキがキレイだ。
九つあるケースは満員、みんなどこが痛いの? どうしちゃったのかな?
「えい」
ここにいる九匹だけになるけど、回復。
きっとお父さんはすぐに気付くだろうな。お話が出来る魔方陣もまだ消えてない。もし消えちゃってもクロが書き直せるかな。
ここで教えてもらった、この世界の生き物の複雑で面倒で奇跡みたいな仕組みを。
オレはそこに混ざれない、混ざる事を許されないと思う。
あ、受け付けのオバチャンって会えなかったな。どんな人だったのかな、次……次に来た時に会えるかな。
よし、魔方陣を繋いで飛び込む。
薄暗いお部屋でステッキをクルクル、緑色のニョロニョロでプラネタリウムをポチッとする。
ユウタが喜ぶこと、多分オレやジャンに近いと思うんだ。
「えい」
ブラインドの術の応用だ、ユウタの声で『
固定の魔方陣を重ねて完成。オレが居なくても消えない術だよ。
ユウタは宇宙飛行士になって宇宙人を連れて来る。そうしたらオレはこの世界でも羽を出して飛べるって言ってた。
頑張れ。誰もやった事がないなら、ユウタが一番最初にやる人になるんだ。一番は周りから何を言われるか分からないけど、味方をしてくれる人も絶対いるんだから……頑張れ、オレも頑張る。
お部屋の星空、これも帰ったら作ってもらおう。
いや、オレが作らなきゃ。ちゃんとユウタから教えてもらったんだ、ユウタの名前がオレの世界の教科書に載るかも知れない。
プラネタリウムをポチ、消す。
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