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 右からお父さんの優しい声、左腕にお母さんの暖かさ、これが川の字。


 ああ、ダメだ。ダメ、もうダメだよ。


「……きょう、いま、オレ、かえったら、かえるね」


「そっか。あ、エヴァちゃん、あの、いっぱいお土産あるからね、ちゃんと詰めてあげるから、ほらお菓子とか、途中で食べて、だから、だからね、待っててよ?」

「そうかい。体に気を付けて。回復出来るからって無理しちゃ駄目だからね」


 ゴロンと転がって、王子様を抱いたままのお母さんの上をゴロゴロ越えたら笑ってた。片手で顔をおおってて、声だけ笑ってた。


 ユウタの上もコロリン、軽いから大丈夫。ソウタの横にコロンと落ちた。オレを真ん中にして川の字だ。


「帰ったら、帰るね」

「え?」

「うん」


「こっちからの入り口を開けれるなら何とかなりそう」

「やだよ、明日も、明日って言ってたじゃん」

「うん。ユウタ……うん、仕方ないだろ?」


「えへへ」


 今度はソウタの上を、あ、クロに怒られる。

 慌ててパタッと羽ばたいて越える、変な感じになっちゃってソウタが笑った。

 パタパタ、みんなと同じく転がるアキナの横へ。


「あのね、聞いておきたい」

「……なにかな?」


「帰れると思う?」

「……ゴメン分からないよ。生きてるなんて思って無かったから……あ、さっき何か言ってなかった?」


「なんだっけ? 忘れちゃった」

「あ、そう?」


「出入り口を開いたら入ればいいのかな」

「あんま役に立たなくてゴメン」


「充分だよ。帰ったらサリエルの練習してみる。オレじゃないんだったら探してあげるよ。見たいでしょ?」

「うん。あのさ……やっぱ待って、なんかあった、死の国から『RPG』に帰るの、サリエルの術? 魔方陣? 何か作ったんだよ、それ、なんだっけな! どっかに書いたのか入力したのか!」


 足をバタバタさせるアキナに、なんだなんだとみんなが起き上がってしまった、けどアキナは気にしてない、そのままモシャモシャと頭を抱えてる。


 確認、した方がいいのかな。

 オレは妖精達と王子様を連れて行く。何かあったら大変だよね。


「アキナ、イヤじゃなかったら記憶を見せてくれる? 『RPG』を作ってた頃の記憶」


「……いいけど、エヴァちゃん未成年?」

「みせいねん」


「お、オトナ?」

「大人? 大人とは言えないと思うけど、どうかな?」


「いや、まあ、うん、どうぞ。その方が早いんでしょ? 何でも見てよ、罪滅ぼし、罪、滅ぼしまくるつもりだから」

「うん、ありがと」


 じゃあ遠慮なく茶色いモシャモシャ髪の頭を触らせてもらう、えい。


 チラッと目の端で、ユウタがソウタの胸に顔をうずめてるのが見えた。背中をトントンしてあげてるソウタは向こうを見てる。帰る、ごめんね。


 ……二十歳って、どれぐらいかな?

 アキナの記憶は難しい。鏡に映る顔を見てもお化粧で雰囲気が変わって年齢が全然読めない。

 お誕生日も特に何もしてないのかも、さかのぼってるはずなのにケーキとか、おめでとうみたいな日が全然……逆から行けるかな?


 生まれた時から、今までを、えい。


 ここまでお父さんやおじいちゃん、おばあちゃんの姿があったのに、七歳おめでとう、からお母さんと二人だけのお誕生日になった。

 十五本のロウソクが立つケーキはお友達かな、短いスカートの子達に囲まれて、裸の男の子も出てきた、十七歳のお誕生日がケーキの最後かも。


 ここから二、三年後。

 学校かな? これが会社、お仕事? 


 あ、あった。

 勇者、王子様、魔法使い、僧侶の若い姿の絵、魔王様も。絵の後は文章を書き始めた。また裸の人間だ、みんな別の人か、色んな男の人が出てくるな。ここからはゆっくり見た方がいい。


 なるほど、確かにアキナはメインキャラクターをゲームの中に描いた後は町や村を作ってる。黒い山、生き物、植物、海、海の中……その合間でノートに目を向ける、で、裸の男の人が出てくる。


 ミカエルさんはアキナが作ったのか。白い翼、パソコンの中で本物みたいな絵の羽が一枚ずつ増えていく。サマエルさんにも黒い翼が……あ、来た、これはサリエルを作って……あれ?


 パソコンから離れて、作る人が変わっちゃった。さっき、何人か前に裸だった男の人だ、笑顔のその人と場所を交代しちゃった。

 少し戻ってみても、先を覗いてもアキナはサリエルをいじってない。


 逆に、魔王様だ。

 一番最初に作られて、サリエルに倒された後の世界には王子様がいる。

 二人だ、二体だ、魔王様と王子様が別々にいるんだ。

 王子様には体がある、あの世界のどこかに。


 いやでも、待って、ちょっとこのお話はまだ置いておこう。


 参ったな、帰る方法は何も分からない。手探りにも程がある。

 でも、確実にサリエルは『RPG』の中にいる。オレかも知れないし、違うかも、何も分からなかった。


 アキナの頭から手を離す。


 あの男の人を探す、ステッキを浮かべる……けどダメだ、なんとなくダメな気もしてた、掴めない。

 この人も『RPG』から意識も記憶も離れ過ぎてるのか、ステッキの動きが変だ。

 上を向いたり下を向いたりもしない、ピクリともしないのは、もしかしたら生きてないのかも。


 でも、世界は出来上がってた。魔王様はサリエルに倒されて、サリエルは帰って来れてるんだ。

 ステッキを握り直す……魔方陣か術があったなら。


「ありがと、アキナ。後はオレ達の世界で何とか出来そう」

「あ、そう? うん、良かった……なんかゴメン、ちょっと色々あって」


「よし、帰ろっか」


 ……誰もお返事はしてくれない。ワンもニャーもエリザベス可愛いも聞こえない。お父さんがウンと頷いて、首を横に振ってくれたのだけは見えた。


 ゆっくり移動、陸地が近付いてブラインドの術。

 ゆっくり降りて、窓の鍵を開けて、誰かが見てたら勝手に開くショッピングモールのドアみたいだろうな。


 暖かいお家の中で、妖精達はパタパタッと好きな場所に散って、キンちゃん達の水槽を元の場所に、エリザベスを鳥カゴに。

 ルイ、カイ、キイちゃん、アイちゃん、ウイちゃんはソファーの上にモフッと下ろしてあげて。


 お父さんと、王子様を抱っこしてくれてるお母さん、ソウタとユウタ、アキナを下ろして。

 夜のお散歩、おしまい。


「ソウタ、お部屋に行くね、みんなとお話ししてくる!」

「うん、なんかあったら呼んで?」


 はい、と良いお返事をしてトコトコとリビングを出る、後ろ手に扉を……なんか挟まった。


「痛いのだが、薬草よ」

「……王子様おうじざばごべんだざいごめんなさい


「俺も連れて話しに行くと良い。役に立つかも知れない」

「あい」


 モフモフなレッサーパンダを抱っこ、少し暖かいのはお母さんの……。


「まったく……階段だ、踏み外さないでくれ」

「あい」


「薬草、しっかりしてくれ、泣かないでくれ。薬草に何かあったら俺は永遠にこの姿だぞ?」

「……うう……うふ」


「まあ居心地は悪く無いが、このままでは本当に何も出来ない。魔王から公務を引き継ぐ事になったらどうしてくれる?」

「……ぐ、ぐにの、お、お仕事じごどにレッサーパンダが来で……会議とか集まりを……うふふ」


「そうなる。困るだろう?」

「うふふふ!」


「いや笑い事では無い」

「あはははっ!」


 ソウタのお部屋をパタッと開けてパタッと入る。

 テレビの画面には、ちょうど良い、魔王様と僧侶とタイチがいる。

 魔王様、また角生えちゃってるな。まあいいか、あの姿の方が魔力が多いんだっけ。


「魔王様、僧侶、タイチ、お手伝いして!」

『なんだい薬草?! 何でも言ってみろ!』

『ほいほい』

『ボク見学ね』


「うふふ。あ、ドットちゃん達もお願いします、というかドットちゃん達にかかってます、探して欲しい!」

『はい、なんでしょうか? ……あの、言い辛いのですが魔法使いさんからサリエルを探せとは言われています。でもまだ見付けられません』


「うん、いいよ」

『はい? では何を?』


 サリエルがいないなら確信が持てるじゃないか。オレがサリエルだ。そう思って進めた方が良い。


 探してもらう物は……。



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