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「そうそうそれそれ、今までは頑張っても僕と魔王様じゃん? 僕とモンスターじゃん? 手を抜き合っても限界があってさ」

「うん」


「みんなでさ、みんながいれば、もっと上手にやれるんじゃないかなー、みたいな? せーのって」

「……うん、出来る、出来るね! ほんとだ、勇者は天才だ!」


 宴会に突入したみんなを眺めながら、よっしゃと笑ってる。本当に嬉しいって分かる、本当に喜んでる横顔。

 魔王様を連れ回してる間も何度も見たけど、勇者は真っ直ぐ笑うから好きだ。魔王様に負けないぐらい優しい。とっても優しくて強いんだ。


 ……これで本当にオレの出番が終わった。うん、良かったんだ。本当に世界が変わったみたい。


 こんなにみんな仲良く出来るんだ。今まではお互いに知らなかっただけ、透けれるみんなも透けながらお酒を飲んでる。その横で人間も普通に笑ってるし、モンスターのお話なんて面白く感じるんだろうな。

 勇者の肩にポテンと座る。


 オレ達の後ろを駆け抜けた魔王様とデュラハンさん、パチンという音も通り過ぎたかと思うと瞬く間に夜になった。今夜は花火が打ち上がってる。


「わあ、勇者、すごいよ!」

「うん、やるねえ」


「キレイ!」

「もしかして初めて見る? 一緒に行った事ないもんね?」


「こんなに近くは初めてだよ! ただの薬草持って魔王様は倒せないでしょ?」

「だな」


 エンディングで勇者が魔王撃破を王様に報告してる場面で上がってる、あの花火だ。あまり縁起の良いものじゃないのに、夜空に上がってると途方もなくキレイだ。


 オレ達の周りにポンッとかがり火が置かれた。城壁に沿ってポンポンポンッとズラッと並んでいく。ドットちゃん達が洞窟とかから持って来てるのかな、これもすごくキレイだ。


 勇者の足元を何かが転がっていった。アイテムかな、アチコチに色んなのがいる。

 体の大きなモンスターは小さなモンスターを膝や頭に乗せてやって、その間をピョンピョンしてる人間の子供達、勝手によじ登ってる子もいるな。もう酔っ払って寝てるヤツもいる。


 楽しそうにゴロゴロ転がる聖水達はお酒と間違われて飲まれ、飲んだ人間やモンスターは元気になって、聖水はまた満ちて、ムダな無限ループも生まれてる。


 ……これ、もしかしたら全員いるんじゃないかな。モンスター、アイテム、登場人物、村人、町人、魔王様と会いに行ったみんなが全員揃ってるぐらいかも。

 ドットちゃんが声をかけたら集まってくれた、みたいな感じかな。すごい、圧巻だ。


 勇者も目を細めて眺めてる。二人でしみじみしてたら、勇者めー勇者よー、と叫ぶ酔っ払ったアンデットさんに引っ張られて輪に混ぜられた。

 魔王様とデュラハンさんは風の様に通り過ぎる。

 こんなに優しくて幸せな世界だったのか。もう一人でポテンと座って過ごさなくていいのかな。


 斜め前であぐらをかく王様とパチッと目が合った。おいでおいで、と手招きされちゃってる。

 ヒャー、どうしよう。ニューンと根っこを伸ばして前に立ってみる。


「お、王様、ご挨拶が遅れました! 初めまして、薬草です」

「おお可愛いの、どれ」


 膝に乗せてくれてモチモチムチムチされてる。この感覚は親子だ、間違いなく魔王様と親子だ。

 あらまあ、と横から王妃様もニコニコツンツンしてくる。ああ、この感じも知ってる、親子だ親子。


「薬草君よ、我が息子を救ってくれて感謝する。心から礼を言うよ」

「ええ?! そ、オレ、ワタクシは何も」


「いやいや、魔王城から息子を連れ出してくれたのは君だと聞いた。あんな所に引きこもっておったのを」


 突然、フッと空気が動いた気がした。


「みなさーん! お仕事でーす! 転送しまーす!」


 ドットちゃんがアチコチで叫ぶと全員がブワッと消えた。これもまた圧巻だった。

 取り残されたオレ達。魔王様、勇者、僧侶、デュラハンさん、オレ。


「ウフフ、みなさんは特別ですから! あと18秒あります!」


 ドットちゃんだ、わざわざオレ達を残してくれたのか。


「よっしゃ、色々試しながらやってみちゃおっかな!」

「面白くなってきたのう」

「勇者、何を試すんだい?」


 魔王様を無視して勇者がオレに片目をパチンと閉じた。ビクッてしちゃった、チビってはいない。


「まあ計画立てながら倒しに行くんで、魔王城で待っといてー?」

「なんだそれは、怖いな? 薬草と何をした?」


「ハハハ、それまで手合わせして待ちましょうぞ王子様、ハハハ」

「イヤだ! 俺は魔王だ!」


 フッと勇者と僧侶が消えた。曲が流れる、ニューゲームの時の曲だ。


 リセットされたか持ち主が変わったんだ。


「……魔王様、オレも行きますね」

「薬草! 休憩は全部ここにおいで、早く帰って来てくれ! さっきの妖精になって来てくれてもいい、全然いいよ、いいからね?! いいね?!」

「ハハハ、頑張れよ、ハハハ」


「……はい! 行ってきます!」


 フッと魔王様とスピアを構えたデュラハンさんが見えなくなった。魔王様、大変だな。


 休憩は全部ここに、早く帰って来て……オレは戻ってきていいんだ、魔王城に。


 ……嬉しい、すごい。

 行ってきますって挨拶、生まれて初めて使った。ただいまも言っていいんだ、きっと。


 オレに、ただの薬草に帰る場所が出来たみたいだ。

 また魔王様と勇者と僧侶と一緒に、ご飯食べたりお茶飲んだり出かけたり……なんか必死に叫んでたのは聞こえなかったよ、妖精になって? 全く聞こえなかった。


 転送先は真っ暗、ニューゲームだとオレは宝箱からスタートだ。もう怖くないんだからな。

 オープニングの曲が始まって、天の声が何か選んでる操作音。今のうちに色々と準備を、ちゃんと段取りをみんなで合わせなきゃ。


「ドットちゃん、勇者が最初に会うスライムさんに伝言があるんだけど」

「分かってますよ、勇者さん達にも伝言ありますよね」


「話が早い、さすが!」

「ウフッ、序盤は薬草さん忙しいので私達に任せて下さい。ちょっと手強くなってきたら相談しにきますからね」


「うん、頑張ろうね」

「はい、私達のパーティなら出来ますよ!」


 ……私達のパーティだって……すごく、なんだろう、すごいな、もう全部すごいよ。


『はい、オープニングが終わりました。ゲームを始めていきたいと思います』


 わあ、また喋る天の声か。もっとこう、子供がキャーキャー言いながらやってくれたら楽しいのにな。


 ……早く休憩にならないかな、まだ始まってないけど。



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