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目の前できらめいてた光が弱くなっていく、もう聖騎士さんとしての黄金の鎧に変わってるし、ちゃんと首も顔も身体もある。
良かった、本当に良かったよ。でもオレはどうしちゃったの、なんだこれ?
背中に庇った魔王様を振り向く。勇者と僧侶の方を振り向く、やっぱり魔法使いもいた。
さっきまで武器を構えていたスケルトンな仲間達の方へも振り向く。
みんなポカンとした顔で聖騎士さんを、いやオレを見てる。
待って、なんでオレがこんな身軽にキョロキョロ動けるの?
「……だれ?」
勇者、オレが知りたいよ……オレは誰だろう?
根っこを動かしているはずが肌色の手が動く。体をまさぐる、緑色の服? 布?
根っこのはずが、足。
根っこを動かしてるはずが、背中で何かがパタパタしてる。
根っこ……どこ?
「薬草よ」
「……はい?」
僧侶が近付いてくる。目線が合う。なんで僧侶とオレの目線が、オレ、背伸びちゃった?
「その姿は緑色の宝石じゃの。宝石の妖精エメラルド、何かで読んだ事がある」
「あ、ありますあります! 設定自体が崩されましたが色々な宝石の妖精がいるという情報、あります」
ドットちゃんが形を作っていく。
青い髪に青く薄い羽、肌色多め、というか胸と腰だけ隠した布を身に付けた女の子の妖精。ああなるほど、オレも今その姿なのか。
色違いで赤、黄色、白、紫、黒と次々と少し透けた妖精達が出てきた。クスクスとみんなで集まってはパタパタ飛び回って、また集まる。可愛いな。
多分オレよりずっと小さい、だから可愛い。
オレだけデカくない?
いや待って、オレもこの子達の色違い、緑色の、この、え、無理、胸モニモニしてる、オレ女の子なの?
「……え? なんで? なんでオレ?」
「なんでかは知りませんが、この宝石の妖精という存在が削除された直後にアイテムの情報が書き込まれ始めたので、たまたまエメラルドが薬草に上書きされた、というだけでは?」
ドットちゃんの話を聞いてもサッパリ分からない。硬くなれって思ったけど宝石にはならないよ普通は。
胸を揉んでみたり足を触ったり手を見るオレの横で、デュラハンさんが金ピカ鎧姿になったり黒い首無しに戻ったりしてる。馬も付き合わされてる。
ゴーストさん達が、お上手、お見事って拍手してる。
オレもそれやりたい、なんか嫌だ、これじゃ大き過ぎて肩に乗れない、オレ薬草だし、女の子じゃないし、オレも、オレも元に戻りたい……!
キュポン! ポテン。
あ、戻れた。
「ちょっと待て薬草! なぜ戻る?! もう少し見せてくれても良い見たい眺めたい!」
「魔王様?!」
「だってなんか可愛いらしかったよ?! 戻ってみるが良い何もしないから少しだけ本当に少しで大丈夫だ!」
「イヤですよ! オレ薬草ですから薬草に戻るんですよ!」
「嫌だ! もう一回見たい!」
「だからイヤですよ! だってあれじゃ魔王様の肩に乗れないじゃないですか!」
「乗れる! 乗せる! 乗ってくれ! 乗せてみたい!」
「……わあ」
勇者と僧侶がほおーって頷き合ったりしながらニコニコしてる。そうだ、さっきは二人とも凄かった。
すがる魔王様の手をすり抜け根っこを伸ばす、勇者の肩にポテンと乗る。
「勇者ありがと、助けてくれて。カッコよかった」
「いやいや、仲間がカラダ張ってんだから助けなくてどうすんのさ、勇者の名が
ツンツンツンッとしてくれた。僧侶の肩にもニョンッと移る。
「ありがと。ずっと盾になってくれてた、デュラハンさんの中に入ってくれてた」
「いやいや、ワシの術より薬草の
撫でようとしてくれた指先がツルツルだ、そして一瞬でシワシワした。やっぱりそうだ。僧侶はなぜだか色々知ってる、だから色々出来るんだ。
「……僧侶にも本当の姿があるの?」
「本当に賢いのう……今度、内緒で見せてやるよ」
囁き声に囁き声で返された、ゾクッとするような声だった。眉毛の下の瞳がほんの少し紅く光ってる……何者……?
「僧侶! 薬草の独り占めはズルい! 薬草を返してくれ!」
「魔王様さ、今はほら、薬草より聖騎士でしょ? せっかく王子コスしてんだから積もる話もあるっしょ」
「そうじゃよ。ほれ薬草よ、うるさいから行っておあげ」
「わあ」
僧侶の肩から魔王様の肩に、青いニョロニョロでポンと移された。勇者に引きずられてる最中だ、ちょうどデュラハンさんから聖騎士さんになった所で足下に放り投げられた。勇者、雑だな。
「いってえ」
「ハハハ! 王子様、覚えていらっしゃいますかな? 幼少の頃に剣の稽古を付けた私を」
「そんな設定もあるのか?」
「はい、ございますよ。ちょうどその様に地べたに転がり泣いておられました、ハハハ」
「へえ」
「宜しければ、今から」
「いや止めておく、今は忙しい! とても忙しいんだ!」
「ハハハ、遠慮なさらず、大きくなられて、ハハハ、酒を一緒にと申されましたな、ハハハ」
どっちにしろ話の通じないタイプか。これはダメだ、離れておこう。
全力でデュラハンさんから逃げようとしながらオレも捕まえようとする魔王様の手をまたすり抜けて、魔法使いの肩に根っこを伸ばす。
「……アンタ大丈夫?」
「うん、ありがと魔法使い。ずっと回復の魔方陣をかけてくれてたよね? 疲れたんじゃない?」
「アタシはちょっと休めば何ともないし、回復ぐらいなら別に平気。絶対アンタの方がヤバかったし」
「食べる?」
「……は?」
「オレを食べれば、ちょびっと回復してあげれるよ」
「MP5?」
「うん、5」
キョトンとした魔法使い、すぐにキャハキャハ笑い出した。ヒイヒイ言い始めた所で、僧侶とお話ししてたインキュバスさんが寄ってくる。
「なーに、仔猫ちゃん? 楽しそー」
「こ、この薬草、マジ仲間思い、マジウケる」
「本気で言ったのに……あ、インキュバスさんもありがと。ずっと僧侶と一緒にデュラハンさんの中で何かしてくれてた」
「お、よく分かったね。超適役なお仕事だったし魔王様の為だし? 久しぶりにガンバっちゃったかなー」
「え、やってたの? インたんも?」
「してたしー、もう! 薬草君が分かってんのに仔猫ちゃんは分からなかったの?」
「ごめーん、キャハッ」
ニョーンッと勇者の肩に戻る。お礼は言ったし、もういいや。
こっちは魔王様が聖騎士さんから全力で走って逃げてる。もうすっかり魔王様に戻って魔王城の周りを……なんだろう、たまにデュラハンさんが魔王様を追いかけてる気がするけど、まあいいや。
勇者はそれをニコニコしながら面白そうにただ見てる。そういう所が好きだ。肩にいるオレをツンツン、ベチンッとほっぺたにくっつけてくれた。
「それオレ潰れる」
「へへ、まあイイじゃん、薬草ってなんか気持ちイイんだもん。とりあえず僕らが作っちゃった世界とか言っちゃってさ、楽しもうよ」
勇者が立てた親指を向けた先では王様と王妃様を中心に、みんな地べたに座ったりして
王族を地面に、いいのかなこれ。
ドットちゃんが飛び回ってるのか、レジャーシートがポンッと出たり、酒樽が出たり、食器が出て料理が出たり、とんでもなく忙しい。
……王妃様、キレイだな。魔王様は王妃様似なんだ。横顔とかソックリだ。
「ねえ薬草。僕さ、超イイコト思い付いちゃった天才勇者なんだけど」
「一応聞くけど、なあに?」
「さっきみたいなヤツ、本番でも使えるんじゃね?」
「魔王様をみんなで守る、みたいな?」
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