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「牢獄に入れられていた期間は十一年と十ヶ月だそうだ。ほぼ十二年か、長かったな。本当に申し訳ない」
「十二年?!」
「十二年……いや魔王様、本当に大丈夫です。もう謝るの無しでお願いします……いやー、十二年か。そっかそっか。ボク、二十七歳ですね」
「そうか。俺は八百歳ぐらいだ」
「え?!」
「マジすか?!」
「嘘だ。この世界が出来てから三十年ぐらいか? なら三十歳か? いや、設定では王子が二十二歳だから同じなのか? まあいい、奪ってしまった時間は取り戻そう。後で話がある」
……八百歳でもビックリしたし、この世界が三十年経ってるのもビックリしたし、魔王様が二十二歳かもというのが一番ビックリした。
なんかビックリした、目が覚めた。
ちょうど魔王城だしブンブンと体を揺すってニョロニョロから抜け出す。
魔王様は震えてるし、タイチも向こうに顔をやって笑ってるみたいだ。
そんなに変な動きだったかな? まあいいや。
パタパタッと先に降りて、正面の扉を開ける。まずは厨房へご挨拶だ。
「ただいま!」
「薬草ちゃん! おかえり!」
「お帰りなさい、待ってたよ。クフフッ、お帰りなさい」
「ああもう! 危ない事ばかりして、もう! ……お帰りなさいませ、もう……」
「お帰りなさいませ」
「あのね、タイチはハンバーガーとカレーと
「ハンバーガーは知ってる」
「カレー、薬草ちゃんが食べられないからしばらく作って無いけど頑張るね」
「何のチキンですって?」
「
両方のほっぺたをマリアさんとアリアさんにプニプニされながら、泣いてくれてるシーナさんに抱っこされて、
パタパタッと大広間へ。
お茶とケーキを出されてたビーンさんとゼロが同時に立ち上がって迎えてくれた。
青い透けた羽が出てる、オレと同じ羽、色違いの……飛び込む!
「ゼロ!」
「やあエヴァ、首は繋がっているかな? アハッ、本当に面白い子だ、期待通りだったよ!」
「知ってるの?」
「うん、魔王が逐一教えてくれた。私が姉だと言ってくれたんでしょ?」
「うん、あのね、ちょっと前に指輪を壊してもらったんだ! ゼロも何の縛りも無くなった! 全部ほどいて大丈夫になったからゼロも好きに生きれるよ!」
「アハハッ、うん、ありがとう。いやそんな私の事より、もっと自分の話とかあるでしょ? それにさ、私は指輪の話を知らなかったよ?」
「……あれ? そうだっけ? そうだった!」
「全部まとめて魔王が教えてくれた。エヴァがいない間に仲良くなっておいたからさ、三人でシよう」
「わあ、まだそのお話は続いてるの?」
「もちろん、あれ? 魔王の匂いがする? やっとヤッたのか。じゃ私がエヴァを抱いても文句は無いね?」
「え?! ま! や! わあ!」
「フフフフ! ウソ、冗談。なに真っ赤じゃん、本当にシタの? 良かったね、ウフフフッ」
姉との感動の再会に見えるのかな? ビーンさんが手帳にカリカリ何か書いてる。ギュッてし合って途中から耳元で囁き合って実はこんなお話なんて、聞こえたらビーンさんの腰が抜けちゃうだろうな。
やっぱりゼロとは思いの方向が違い過ぎる、けど。
「あんまり心配させないでよ、超久しぶりに泣いちゃうトコだった」
「……ごめんなさい。前に泣いたのは何だったの?」
「ナンパした男にも女にもフラれた時」
「……そっか、ごめん」
まあいいや。オレの方が背が少し大きくなったのに小さく感じちゃう抱っこ、本当にお姉ちゃんなんだな。うふふってなる。
「ただいま、お待たせしたね」
「こんにちはー」
魔王様がちゃんと扉から大広間に入ってきた。タイチも……なんか着替えさせられてる。
白いお洋服に黒いズボン、それは魔王様のを小さくしてあげたのかな?
うん、上下紺色よりはずっと良いと思う。
魔王様の紹介から、五人で席に着く。
オレにも温かい紅茶が出てきた、これは薔薇の匂い。野イチゴのタルトも出してくれた。クリームがクリームじゃないのに甘くて美味しい。
そういえば久しぶりなんだ。食べ物も、暖かい紅茶も。
なんか目の前がジワッてなって見えなくなっちゃいそう。モクモク、モグモグしてたら……見られてる? 向かいのビーンさんとゼロに、隣からタイチに、斜めからは魔王様に、四人に見られてる。
「……え、えっと?」
「ああもうお気になさらず姫様はそのままで、どうぞお召し上がり下さい。私は居ないものと思って頂いて結構です。私はただの壁です、椅子です、テーブルです皿です空気です、ハイ」
ビーンさんの言い方にタイチが吹き出した。うん、なんか変だったよね。
あ、そうだ、チキンだ。
「タイチ、
「あ、はい、また急ですね。んと、お店です。食べ物とか生活に使う物とか結構何でも置いてあって、二十四時間ずっと開いてます。で、レジの横に揚げたチキンとか肉まんとかあって、つい買っちゃったりしてたんですよ」
「……コンビニご飯?」
「あ、それそれ、チキンとお弁当と飲み物でコンビニご飯っぽいかな? オニギリとカップラーメンとか、パンとカップスープみたいに色々と組み合わせたりするのが……あれ? コンビニご飯は知ってるんすか?」
「前に魔王様が風邪を引いた時に雑記を読んでたら、そこに言葉だけあって」
「へえ、雑記?」
「天の声の世界から聞こえる事をそのまま書いただけの本です」
「はあー、そんなのもあるんすか?」
凄いなと笑うタイチが少し、ほんの少し寂しそうに見えた。なんだろう? ダメだったかな? 楽しいお話の方が良いよね、何かあるかな?
「タイチは天の声の世界で何をしてた人ですか? あと、一番楽しかった事は?」
「ボクはただの高校生でした。入学したばっかりで通学路にもあんま慣れて無くて、危ないトコが分かって無かったんだよね、トラックに轢かれてさ」
「……
「あ、こっちは学校が一つだっけ。えーっと、薬草……も行ってるよね、学校」
「うん」
「多分そこが小学校って呼ばれてる。んで六年通って卒業したら中学校に三年通う、そこまでが義務教育って全員が行かなきゃいけない学校です。そこからほとんどの子供が受験、んと、テストを受けて合格したら高等学校に三年通う。んで、また受験して大学に通う人と、働く人に分かれたりします」
「すごい! 九年も絶対お勉強?! その後も学校があるの?! いいな、すっごくいいな!」
「えええ、薬草は勉強好きな人? そっか、そういう人もいるっちゃ居たかな?」
なんか苦い顔をされた。
んん? ソウタも勉強しなさいってお母さんと揉めてるっぽかったし、天の声はお勉強が嫌いな種族なのかな?
「じゃあ、じゃあ!
「ええと、荷物を運ぶ大きな車……もしかして車?」
「くるま」
「車を説明……えええ、どうしようかな? 紙と鉛筆で、いや? 描けるかな?」
「タイチ、ちょっとお邪魔していいですか?」
「え? どこに? 何を、何が?」
「くるまの事を考えてください」
「あ、はい、はい……車、トラック……」
タイチの頭の中に思い浮かべてる物をここに出せるかな? ちょうどステッキもある。タイチに見られてるから術師っぽくクルンと回してみせる。安心して欲しい。
オレの魔力をタイチに分けて、タイチが実体を作る。人間に幻術を使わせるんだ。
「えい」
「……うお?!」
「これがトラック?」
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