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「さてさて。実はな、少し状況が変わりそうだ」

「え? え?! ボク出れます?」


「かも知れないぞ? ここにいるエヴァが色々と道を開いたやも知れん」


 王様の言葉にタイチさんの目が輝いてる。どうしよう、牢獄から出してあげれる様な道を開いた覚えはない。何か繋がりがあるのかな?


「エヴァさん、ただの薬草さんですよね? ありがとうございます!」

「はい、タイチさん、いえ、どうもです。何をしたらどうなってるのか、オレはちょっと分からないというかアレですけど、どういたしまして!」


「タイチで良いっすよ。よく新聞で見てます。薬草の妖精、オテンバお姫様って、そうですよね?」

「あ、多分そうかも……えへへ。あの、タイチは、えっと……」


「あ、ボクはみんなが言う天の声です。向こうの世界から来ました。誰かに気付いて貰いたくてウロウロしてたらゲーム中だったみたいで、妨害罪とか他にも何か色々で逮捕されちゃったんすよ」

「……はい?」


「誰も信じてくれなかったけど、王様だけちょくちょく会いに来てくれてたんです。もう何年ここにいるんだか分からない感じっすね」

「はい?!」


 王様と魔王様が吹き出してるし、僧侶もクツクツ笑ってる。

 え、笑い事じゃなくない? すごくない? ビックリしないの?


「えっと! タイチは! すごい! なんで信じてもらえないんですか?!」

「アハハッ、いやボクが何を言っても嘘っぽくなるし、もう邪魔とか何もしないからココから出して欲しいだけなんだけど……難しいっすね、異世界は」


「なにか無いんですか?! 証拠とか?!」

「特に無いんすよ。ここの人達は勉強熱心だから大体の事を知ってて、何を言えばボクが天の声の世界から来たって証拠になるのか、もうホントお手上げです」


 そんな……ノートと鉛筆か。


「……シロナガスクジラ、描けますか?」

「はい、え? 絵か、子供レベルですよ? ええと、こんな感じ、あ、こうかな、こんな感じ?」


 下手だけどお腹に何本も線があって、人魚族みたいな尾びれで、優しい目を描いてる。

 タイチは本物をちゃんと描けてる。


「……なんでみんな信じなかったんですか?!」


 檻の向こうからタイチがこっちに向けてくれたノートには紛れもなく、魔王様と海の中で見たシロナガスクジラがいる。

 図鑑に載ってる絵とは全然違ったんだ、なのに描けてる。

 見た人と知ってる人しかあのキレイな形は思い付きもしないと思う。それって天の声か、オレ達がつい最近開いた海に潜った人だけだ。


「タイチはずっと閉じ込められてる、元々知ってたって事なんだ、天の声の世界で見た事があって知ってたんだよ! 王様、これは証拠になりますよね?!」

「よし、エヴァ? 君が暴れてくれたお陰でタイチの裁判もやり直しが出来るだろう。一方的ではない、天の声の世界の様な裁判だ。それまで私の独断だが、謹慎という減刑はどうかな?」


「本当ですか?!」

「本当に?!」


 王様の提案にオレとタイチの声が重なった。

 タイチのお話、聞いてみたい。絶対に面白い、多分何を聞いても面白いはず!


「まあ今思い付いたからガバガバだが、充分に反省もしておるし、良く分からないという理由だけで拘束していたのは逆に犯罪とされてもおかしくない。今は新しく証拠も掴んだ。居場所さえ明らかにしておけば文句も無かろうよ」


「やった! 出られますよタイチ!」

「やったー! 出られる!」


「という訳で、息子よ。我が城には空き部屋が無い、一部屋も無い、今だけ無い。そっちの城内での預かりは如何いかがなものかな?」


 魔王様がニコッとしてくれた。

 これは、きっと……!


「構わない。この国一番の術師である大僧侶と薬草の妖精が常駐する城だ、魔王もいる。脱走も不可能。メイドもいる。住人が一人増えても生活には全く問題無いだろうと思う」

「ありがと魔王様!」

「……やった、やっと外に……」


 タイチ、泣いてるかも。お洋服の袖で顔をゴシゴシしてる。

 変な人かと思ったけど、まさか天の声の世界の人なんて、そりゃ泣くよ、知らない世界で牢獄に閉じ込められて何年も、それって……わあ、大変だ!


「ま、魔王様、どうしましょう? オレは何が出来ますか? タイチのお手伝いを何か、何を、何から?!」

「フフッ、薬草? まず落ち着こうか」


「はい!」

「よし。手伝いがしたいならタイチに何をして欲しいか聞いて、そして出来る事を一つずつやってあげなさい。要らないと言われたら何もしないんだよ。薬草は学校も仕事もある。よく考えて、まず落ち着いて。後は距離感だ」


「距離感?」

「タイチと話す時は薬草姿に戻るんだ。二人きりになるな、何もしていなくても可愛いのだから何もするな、その目を輝かせてパタパタするのは禁止だ、可愛い。後は……」


 長くなりそうだ。タイチの檻の鍵が開けられてる。

 大きな黒いリュックにノートを何冊か入れて、王様に着替えのお洋服を持って行けと言われてペコッと頭を下げてる。もうそれだけ、それしか荷物は無さそうだ。


 王様とニコニコとお話をしてる、優しそうなお兄さん。

 ああこれは絶対楽しい、魔王城にって言ってくれた王様も、いいよと言ってくれた魔王様も大好きだ。


「いいか? 聞いているのか薬草よ? 守れるのかな?」

「はい! 魔王様大好きです!」


「……はい宜しい、とても良い」

「タイチ! 帰りましょう、帰ろう!」


 パタパタッと羽ばたくと黒いニョロニョロがお腹に巻き付いた。ピヨンと張ってて動けない。


「……僧侶よ、少しタイチから生活の話を聞いて必要な物を用意してやってくれるかな?」

「……かしこまりました。やれやれ、ようやくですな」


「またこの国が動く。忙しくなるな? 友よ、頼むぞ」

「程々にするぞ、体が追い付かん」


「嘘を申せ、バリバリだろうが」

真実まことじゃ、今にもハゲそう」


「その長い藍髪を切ってヅラでも作っておけ」

「全く喰えない王だ」


 魔王様に留められて聞こえた王様と僧侶のコソコソ話に、胸の奥がギューッてなった。

 仲良し、友達、盟友だっけ、すっごくいいと思う。うふふってなる。


「ハハッ、本当にお姫様っすか? なんか繋がれちゃってますよ、それはアリなんですか?」

「なんだ? 薬草は俺の妻だから正真正銘の姫だ。何か言いたい事があるなら……」


「わあー! 魔王様、タイチ、僧侶! 帰りましょう!」


 面倒な事になる前に、魔王様が怖くてタイチが来なくなっちゃったら大変だ、普通に仲良くして欲しい、とりあえず帰って、なんかこう、温かいお茶とか……。


 パタパタしてた羽が絡んだ。

 動かし方を間違えたみたいな良く分からない感じ、絡んだとしか言い様がないや。

 ニョロニョロで掴まえられてて良かったかも、なんかヘニャッてなってる。


「え?! なんすか?! 大丈夫ですか?!」

「ああ、大丈夫らしい、問題ないと思う。ついさっき膨大な魔力を使ったんだ。この数日も物凄く色々あった。薬草はギリギリまで元気で突然限界を越えるんだ」

「……ふえー」


「鳴いた?!」

「疲れた、眠い、そういう合図だと思ってくれたら良い。タイチは気にするな。俺が世話をしている」

「……ぷえ」


「電池切れっすね」

「電池とは?」

「……でんち……え、何ですかそれ、天の声の物? 切れちゃったら食べるとか? 美味しい?」


 何かにつけてオレの様子を見ながら魔王様の解説を聞いて大笑いしてるタイチを連れて、王様と騎士達が先を、赤い絨毯の廊下を歩く。


 何を喋っても聞いても嬉しそうなタイチは窓を見つけると駆け寄った。ポロッと涙が一粒その横顔に流れて、急いで手で拭ってる。


 人間の涙は大事に一つずつ流れる。

 良く分からない事を言う人だから牢獄へ、そんなの乱暴過ぎる。

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