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これだよ。イタズラでやりたかったのにな、僧侶に雨を降らすの。
オレが濡らして魔王様が乾かすやつ、どれぐらいの早さでポンポン変わるのか見たかったのに。まあいいや、今度にしよう。
「ありがとございます、上手くいきましたね」
「あの魔方陣マジウケる」
「妙案にも程がある、ワシらだけでは手間取って……薬草や、どうした?」
「どうもしないよ?」
「では一件落着でしょうか? 僧侶、王様と王妃様の元へ参りましょう」
「……そうじゃな……薬草よ。言いたい事は山程あるが、どうした? 泣くでない」
魔王様とも誰とも全然違う、僧侶の抱っこ。
灰色のローブの袖でオレの顔を拭ってくれながら、ちゃんと羽を避けてギュッてしてくれる。
「……そのうち薬草も教科書に載るぞ。可愛らしい肖像画でも描いて貰っておくと良い」
「……うふふ、なにそれ」
「大薬草の功績とかな、フフン」
「何にもないよ」
「そう思うとるのはお主だけだ。いい加減思い知れよ」
「……ありがと」
「ああ、あの魔王様にも謝るなり何なりしておけ。毎度毎度ゴロゴロのたうち回りおって、ゲロゲロ吐き散らかして大変なんじゃ」
「なにそれ?」
「薬草から設定の物語を全部聞いた夜もな、その前にも幾度かあったな。今回も酷い有り様じゃった。まあ人前でシャンとしてるのは褒めてやれよ」
「わあ」
僧侶に頭をナデナデされて、お城へ向かう二人に行ってらっしゃいと手を振る。
……ナデナデ、なんか今の変な感じがした。
ヒマワリの髪飾りを避けて指で髪をワシャワシャすると、何かが移動してる気がする。
ムニッ、捕まえた。
「……コウモリ。キミはずっとここにいたの?」
「キッ」
オレの指にくっついた緑色の小さなコウモリ。チマッとしててお返事も出来て、目が三角で口もギザギザで可愛い……いやこれ、クロとコハクをジャックさんに預けた時に付けられたんだよね?
じゃあバレてる所じゃない。
レイナさんと入れ替わったのなんて見え見えで、多分これは最初から最後までジャックさんには手に取るように、マーリンさんや僧侶、魔王様にも筒抜けだったんじゃないのか?
どこから、どこまで……?
ボフッと顔が熱くなった。
なんかもう体中が熱くなった。
オレを目指して来てた魔王様、途中から急加速してスッ飛んできた。なんか今は色々と恥ずかしい、目が見れないよ。
「どうした薬草?! なんだ?! 術が大掛かりになったからか? 疲れたのか? 大丈夫か?」
「大丈夫です」
「赤い、熱があるのか? まさか風邪か? いや、あんな所に閉じ込められていたんだ、何か変な
「だいじょぶです」
両肩を掴まれてブンブンされても熱いものは熱いし、なんかもう……よし、誤魔化そう。
「魔王様!」
「なんだい薬草?!」
「あの、なんか色々ごめんなさい!」
「ああ……そうか、別にもう良い。
「はい」
「いや薬草、本当に大丈夫なのか? 顔が赤い、熱いぞ? 一度帰って休もう、後始末はみんなが居るから任せろ。ここまでやってくれたんだから誰も文句は言うまい」
ほっぺたに大きな手のひら、まだまだ心配されちゃってる。本当にごめんなさいって思いながら、でも、どこからどこまで……やだもう。
黒いニョロニョロでニョロンと巻かれて腕の中へ、お姫様みたいに抱き直して飛んでくれてる。
檻の中にいた時はあんなに魔王様の事ばっかりだったのに、いざ戻ってみたら……あ!
檻、牢獄だ!
忘れ物はこれだ! 檻の中にあの人がいる!
「魔王様! お城へ、王様のお城へ、牢獄へ、もう一度です!」
「嫌だ。もう離さない。何かそういう契約でも交わそう。何時間か離れたら俺が爆発するとか」
「そうじゃなくて! 捕まってる人間がいました、ご飯、あの、パン食べてました、倒れてるかも、みんなには王様と王妃様の元へ行くように言ってしまって、もし誰も見に行って無かったら!」
「了解だ」
グインッと方向転換、お城まで一瞬だった。まばたき二回で着いてた。
ドットちゃんの転送並みじゃないかな本当に。
近くにいた騎士から牢獄の騎士に取り次いでもらうと、やっぱりみんな少し慌て始めた。
忘れてたんだな、みんな忘れてたでしょ。
鍵を開けてもらって右を指差すと魔王様がカツカツと歩いてくれる。なんか抱っこされたままのオレ、偉そう。
サクライタイチ、お名前はタイチさんでいいのかな?
「……生きているのか?」
「こんにちは、タイチさん?」
こっちに背中を向けて横になってて、黒い髪の先もピクリともしない。
ステッキを向けて魔方陣を描きながら虫を探す……探す……なんだこれ? 変な体?
「……魔王様、一緒に探してもらえますか?」
「……ん? なんだこれは?」
「人間ですか?」
「人間、だろうが……なんだこれは?」
「変ですよね?」
「変というか……これは僧侶を呼んでみようか」
はい、と術で呼びかけようとして止める。
もうここに向かって来てる、後ろに来る、王様と騎士達と一緒だ。
「ほう、先を越されたか」
「おお、ちょうど良かった。エヴァ、おいで?」
僧侶と王様。おいでと言われても今は急いでこの人を……僧侶がホイホイと片手を向けてくるから、パチンとバトンタッチ。
魔王様の黒いニョロニョロがオレを王様に渡した。抱っこで受け取る王様、とても申し訳ない、今はもうオレの方が大きい、顔が見れない。
「エヴァ、この一連の騒動の責任を取って貰わねばならないよ」
「はい」
「ではまず、一日でも二日でも休みなさい。その後に授与する」
「……刑を、ですか? 授与?」
「ハハハッ、少々イジワルな言い方だったかな? 勲章だよ? 勲章の授与、エヴァがこの国の民を救ったのだから」
「んん?」
「道すがら僧侶から聞いて来たよ。たった五人で国民の半分の命を守り抜いたと。それはエヴァの指示だったそうじゃないか、もう立派に勲章ものだよ」
「いえ、多分オレじゃなくても大丈夫でした。それより……ここに忍び込んだ事とか、レイナさんと色々とやってしまったのは……あれは何か犯罪になるような気がします」
王様の抱っこが揺れる、あ、笑ってくれてる。
それにオレを見上げて片目をパチッとした。なんか撃ち抜かれた。王様も可愛い。
「それは聞いておらんな。何やら忘れ物を取りに来た女の子がいたそうだが、それしか知らんぞ? ホホホ」
「……えへへ」
「さて、あちらも終わったか。無事か、タイチよ?」
「あ、そうだった」
王様がソッとオレを床に降ろしてくれた。ワンピースの裾を摘まんで片膝を折ると、ニコニコと片手を胸に当ててお辞儀をしてくれた。
こうした方が良いと思ったんだけど、なんか合ってたみたいで嬉しい。
振り向くと檻の向こうでポカンと座ってる男の人と目が合った。すぐにその黒い瞳は王様に向く。
「……王様、はい、無事? 無事みたいっすね」
「良かった良かった、遅くなってすまなかったね」
「なんですか? 何かあったんですか?」
「うんうん、まあ色々あったが終わった所だよ」
「へえ……今日めっちゃ人いますね?」
「ああ、紹介しておこうか」
僧侶、魔王様、オレを順番に紹介してくれる王様。
バタバタと立ち上がって、ワクワクした感じで頭を下げながらオレ達を見てるタイチさん。多分オレもワクワクしちゃってる。なんとなくだけど魔王様より年上みたいな、かなりお兄さんな気がするし。
上下が同じ素材で出来てる紺色のお洋服を着てて、机の上には開いたノートと鉛筆、山積みの本と雑誌、新聞の束。
それよりタイチさんと王様は知り合いらしい。というか間違いなく仲が良い、普通に喋ってる。
王様と犯罪者が普通に仲良し? なんでだ。不思議な体の中といい、タイチさんの事を知りたくて仕方ない。
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