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勇者の肩にピョイと飛び移って、僧侶を根っこで引っ張って二人から離れようとしたその時、サラッとすれ違った金髪のお兄さんが一言。
「仔猫ちゃーん、お待たせー」
その先には魔法使いしかいないよね。
勇者がガバッと振り向く、ゆっくり振り向くのは僧侶、魔法使いも振り向く、魔王様も振り向く。
……なんか地獄だ。
スピーッとタピオカを飲む魔王様。
その横で温かい紅茶を飲む僧侶、こんなイケメンならもっと早く紹介してよと怒る魔法使い、魔法使いに胸ぐらを掴まれてブンブンされるがままの勇者、その間に割り込んでまあまあ仔猫ちゃんと魔法使いの肩を抱く金髪のお兄さん、インキュバスさんだ。
まあまあ地獄だ。
魔王様と会いに行った時は海で仲間とバーベキューやってたな、インキュバスさん。
チャラチャラした爽やかなお兄さんだと思ったのに、まさかココと魔法使いが繋がっているとは夢にも思わなかった。色々あるんだろうな。
氷無しのお冷やに入ってるオレをツンツンする魔王様が可哀想だよ。ずっと魔法使いの事が好きだったのかな。
こればっかりはオレじゃどうにもならない。
体をペーパーナプキンで拭いて、魔王様の肩にヨジヨジしてピトッと座る。
「魔王様、移動しませんか? 最後の一人に会いに行きましょう?」
「……うん、そうだね……最後も、うん、そうか、行こうか」
勇者が待ってましたとばかりに魔法使いをインキュバスさんに押し付けて、魔王様の後ろに隠れた。
パチンと魔王様が指を鳴らした。満天の星空に輝く三日月の夜。
「……キミも今日から友達だよ、魔法使い」
「あー、これ、最近これ、急に夜になったりするヤツ、これ魔王様がやってたんすか?」
「そう、出会った相手に見せてあげていた」
「えもーい、まじやばーい」
「では失礼する」
夜空を見上げながら寄り添う魔法使いとインキュバスさんに背中を向けて、魔王様がドットちゃんを呼んだ。
転送される前に、初めての三日月を見上げる。魔王様、ちょっとだけ特別な夜を取っておいたんだろうな。胸がチクチクする、草だから胸は無いけど何かがギュッてなる。
まばたき一つ、そこは魔王城の門前だった。
「……へ? 帰ってきたじゃん?」
「ただいまじゃの」
「魔王様?」
ちょっと困った笑顔の魔王様が門を指さした。
……トットットットトントコトンドドンドゴドンドドッドッドッドッドドドド! ドドドドドドゴドンドッドッドットコトントットットッ……。
デュラハン……!
そうか、まだだった。
魔王様は見た事ない横顔をしてる。オレより付き合いの長い勇者も、僧侶まで困ってる感じだ。
ふうと一息、門にもたれた魔王様のお話。
「まずはこの世界の設定かな。元のデュラハンは王直属の聖騎士、そちら側の人間なんだよ。みんなで王にも会いに行った、息子よと泣いていただろう? 俺は暇潰しか何かで悪いモンスターの封印を解いて、それを止めに来た王妃を殺し世界征服を企むドラ息子らしい」
設定とはいえ、そんな事は絶対にしなさそうな魔王様なのに。
なんなんだ、オレ達を作った人は何を考えてたんだ。
「まあ、王子だったんだよ。それを殺せと王に命令された聖騎士が来たから首を斬り落とした。それでデュラハンが生まれた、みたいだね。だからもう怨念の
ふむ、と勇者も僧侶も考え込んだ。
「あと魔法使いの事はもういい、引きずっていない平気、大丈夫だから気にしないで良いタピオカとは美味しい物だな」
今このままデュラハンに会えば、間違いなく戦闘の音楽が流れてしまう状況だと思う。
「ほら村人達にも会っただろう可愛い子は他にも沢山いると分かった今までは女の子といえば魔法使いしか知らなかっただけでそうだ世界が狭かったから気になっていただけで別に」
だからと言って先にデュラハンを説得して、というのも無理がある。だって首から上が無い、オレ達の声は届くのか?
「ワシの出番じゃの」
僧侶が杖で地面をトンと突いた。魔王様がブツブツうるさいから勇者の肩に根っこを伸ばして移る。
「そうだ、僕らには僧侶いんじゃん! 勝ち確じゃね?」
「そっか、どうやるの?」
「この世には魔法使いだけでは無いし女の子は」
「通常ならば
「恨みとか憎いとかバーサーカー的なこと言っちゃってる感じ?」
「もしかして使命感?」
「でも可愛い子がいると俺から声をかけたりは出来ない可愛いと恥ずかしいじゃないか魔法使いより可愛い子はいるのか」
「それじゃよ、使命感
「マジか王様じゃん!」
「王様だけじゃダメだよ、きっと」
「ほう?」
「……薬草? 王だけでは駄目とは?」
やっと魔王様の思考も帰ってきた。どこが平気で大丈夫なんだ、大ダメージじゃないか。
勇者の肩にいるオレを僧侶が見てる。長い眉毛の奥に隠れた藍色の瞳を初めて見た。
「王様と王妃様、王子様が必要だ。デュラハンの設定にあるのはきっと王家の幸せだった頃の世界なんだよ。三人が揃ってデュラハンに会いにいく、もういいよって言ってあげる。それでやっと命令を解けるんじゃないかな?」
「薬草は賢いのう。その三人の気配、お姿、願いをデュラハンに直接流し込むというのはどうかの」
僧侶がニコニコしてる。なるほどと感心してる勇者と魔王様。でも自分で言っておいてなんだけど、不可能だと思う。
王妃様はゲーム内に元から存在してない、うるさい天の声が読み上げた説明書に家系図として名前が書いてあっただけの存在だ。同じく王子様も。
「あの……横からすいません」
「ドットかい? 何か分かるのかな?」
完全に元に戻った魔王様に促されたドットちゃん、ずっと一緒にいるからもう震えない、普通に話せる。
でもどこにいるかはやっぱり分からないから、根っこで魔王様の肩にニョンと移っておく。多分目の前にいるんじゃないかな。
「私達ドットには色情報が入っていたりします。私みたいに、残念ながら特に意味の無い情報しか持ってないドットは転送用にこの世界に漂っています」
「なるほど?」
「この世界が作られた時に一番最初に意識を持ったのは私達です。色情報から地面になったりモンスターになったり、世界の色々な物になりました」
「俺達もドットの集合体という事だね」
あ、すごい、そっか。
頭の中で何かが繋がっていく。もしかしてドットちゃんは……。
「はい、そうです。世界を作る時に、作られたのに登場しない存在、というのもあります。魔王様の今のお姿もその一つです。ゲームを作った人間が、イケメンがいれば徹夜もモーマンタイとかいう理由で作ったのですが、エライヒトが上書きをして老人姿の魔王様が登場する事になりました」
「へえ、この体の方が軽くて楽だがな」
魔王様はグーパーしてる両手を見てる。勇者も、ふーんと空を見てる。僧侶は知ってたのかな。
オレもふと不思議になった。なんでオレに根っこが伸びるなんて機能を付けたんだろう。意味ないよこれ。
ドットちゃんの話は続く。でも大体は分かった。
「データリョウという物に引っ掛かって崩されましたが、私達ドットの中に王妃様のお姿を持った者がいます。人間の王子様も、元の聖騎士としてのデュラハンも。なので早い話、今のデュラハンを倒して一度消し去り、元の姿にもなれるデュラハンという新しい存在を作れば……」
「ちょっと待て、そうでは無いな」
魔王様がドットちゃんの言葉を
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