第1話 招待状

懐かしい夢を見た。あれは中学の時の話だ。どうやらうたた寝をしてしまっていたらしい。


伊久いくは小さく伸びをしてぐるりと辺りを見渡した。


高級ホテルの最上階。ガラス張りのホール。

夕日が落ちたばかりの空がよく見える。淡い青と薄紫、ピンクが混じりあった夜になるまでのほんのわずかな不思議な景色。

この時間帯の空は何だか非日常のような雰囲気がただよっていてちょっと好きだ。いつもなら地上から見上げているはずなのに、今日はホテルの最上階だからか空が近く感じて、まるでその景色に自分が溶けてしまいそうな錯覚におちいる。


まさかこんなに自分と不釣り合いな場所を訪れる日が来ようとは。

伊久は自分がどうしてこんな所にいるのかイマイチ状況を飲み込めずにいた。



その招待状はある日突然、伊久の自宅に設置されているステンレス製の郵便受けにパサリと音を立ててやって来た。


___招待状


「…何これ」


差出人を確認すると家庭用ロボットを生産している大手メーカー「 r.Bルビー株式会社」の名前。


〈ご当選おめでとうございます!

当社の製品を購入されたお客様の中から厳正なる抽選を行った結果、貴方様を新製品披露パーティーにご招待致します…〉


などと書かれた紙が入っていた。応募した記憶は勿論ない。母にも確認したが知らないようだった。


兄に至っては興味すらないだろう。だって極度の機械音痴なのだから。テレビの使い方すらちゃんとわかっているか怪しい。


「あらこれ、家族で参加できるんですって」


いつの間にか伊久が持っていたはずの招待状は母の手に渡っていた。


「お父さんは仕事で行けないだろうから3人で参加しましょう、ね?」


パーティーなんて普段は縁遠いため、得体の知れない招待状にもかかわらず母は浮かれているようだった。おそらく内容もよく理解してないし、『パーティー』という文字しか見えていないのだろう。


「え、でもこれ新製品発表って書いてあるよ。母さんも兄ちゃんも機械苦手じゃん。絶対つまらないって」


そんなの行ってみないとわからないじゃない、とすでに行く気満々の母は鼻歌交じりに"出席"の文字にキュッとペンで丸をつけた。



_____。

ハウリングの音が会場に響く。

ハッとして目線を上げると、ステージの壇上にスーツを着た男性が立っていてその手にはマイクが握られていた。


先程まで騒がしかった会場がシンとした空気に包まれる。スマホのロック画面を見ると、パーティーの開催時刻ちょうどだった。

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