第二章:遊びじゃない

遊びじゃない①


「みんなー、お疲れ様」



 とりあえず午前中のプレイを終えた透哉たちをナズナが出迎えてくれた。まるで部活のマネージャーのように抱えたお茶を甲斐甲斐しく配ってくれる。


 受け取ったお茶を開ける気力もなく、三人は椅子の上でぐったりとした。



「チーター、いくらなんでも多すぎだろ……」


「さすがに全試合で、しかも複数相手にするのは辛いものがあるな……」


「四チームのチーターに囲まれちゃったら絶対むりだよぉ……どうやって勝つのあれぇ」



 最低でも毎試合一人はいるが、今日は全員がチートを使っているチームが同じ試合に複数。しかも連続で遭遇するような状況だった。


 チーターフルパーティーというだけでもキツいのに、それを複数同時に相手にするのは、もはや難易度ナイトメアである。


 三つ巴、四つ巴の状況であるだけまだマシだ。もし銃口が全部こちらを向くとなったらいよいよどうしようもない。


 そんな三人の嘆きを聞いたナズナは思い悩むように頰に手を当てる。



「うーん、そのうちそうなるだろうから早めに対策を検討しておくわね」


「そのうちそうなるのか」


「地獄だね」


「だな」



 透哉とみりあは疲れ切った様子でお互いの顔を見合わせた。



「まあまあ。みんなの負担を減らせるように開発側にも頑張らせるから。とりあえずお昼食べてきたら? もう正午は回ってるし、お腹空いてるでしょ?」


「そうするか。雅楼、奢って」


「お小遣い制のサラリーマンに酷なこと言うなよ。透哉の方が自由になる金は多いだろ」


「妻子持ちの辛いとこだな」


「理解してくれて嬉しいよ」



 中身のない会話をしながら、男二人並んでゲーム部屋を出て行こうとする。そんな透哉の背中をみりあが引っ張った。



「ちょっと待ってよ透哉! デート! デートの約束!」


「え、そんなのしたっけ?」


「したよっ!? ゲーム終わったらしてくれるって言ったよ!?」


「ええぇ……」



 言ったっけなぁ、とナズナを見る。



「透哉くん、女の子を騙すのって悪いことだと思うの」



 年上のお姉さんから非難の目を向けられた。言ったらしい。全然覚えてない。


 とはいえ、約束してしまったのなら仕方ない。



「わかったよ。で、どこ行きたいんだ?」


「透哉が決めて! 透哉にリードしてもらいたい!」



 なんて願望丸出しな要求でしょう。


 さてどうしたものか。正直、今までゲーム三昧だったから女子高生が喜びそうな場所なんてさっぱりわからない。共通の話題といえばゲームだが、それでは仕事と変わらないだろう。


 腹を満たしながら考えよう。



「とりあえずランチだな」


「やった! どこ連れてってくれるの!?」


「それはついてからのお楽しみだ」



 満面の笑みで喜びを露わにするみりあ。



「というわけで雅楼、ナズナさん、ちょっとこいつと行ってきます」


「夜遅くまではダメよ。あとちゃんと節度を守ってね。いかがわしい建物に入ったらダメだからね」


「……ナズナさんの中で俺ってどういう人間なの?」


「男の子」


「雑っ!」



 世の中に男の子はごまんといますけど!? え、なに、生物学的な括りで認識されているの?



「私は透哉が行きたいところならどこでもいいけどぉ?」


「うるせぇこのちんちくりん」


「私着やせするタイプだから脱いだらすごいんだよ」


「アレよりも?」



 みりあが馬鹿なこと言うため、透哉も真面目に取り合わずナズナの方を指差した。


 包容力ある大人のお姉さんに実っているものを。



「アレは脱がなくてもすごいよね」


「透哉くん! みりあちゃん!」


「あはは、にっげろぉっ!」



 顔を真っ赤にしたナズナに追い立てられ、悪戯した子供のように笑いながらみりあは笑う。


 手を引かれた透哉も一緒に逃げることになった。


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