チームCC③


 『ソル』の一試合は三人一組スリーマンセルの三〇部隊、全九〇人で行われる。


 フィールドは半径二キロメートルの円形。市街地、研究施設、工業地帯、山脈、洞窟、森林など、様々な地形が用意されている。


 このゲームには大きな特徴が三つある。


 一つ目はステータスという概念があること。


 初期値に五〇〇のポイントが与えられ、それをSTRVIT強靭AGI速度に割り振る。


 STRは一〇〇ごとに与えるダメージ量が一増加。武器にはSTR要求値があり、それを満たしている武器が装備できる。高火力の武器ほどSTR要求値は高い。


 VITは五〇ごとに被ダメージ量が一減少。相手のSTRを上回っていると近接攻撃によるノックバック効果を無効化する。


 AGIは五〇ごとに移動速度が二〇%、跳躍力が一〇%上昇。


 二つ目は豊富な近接武器の存在。


 銃撃戦がメインであるはずのこのゲームには剣や槍、大槌などの様々な近接武器が存在する。敵に接近しなければ使えない近接武器は銃相手には圧倒的に不利だが、その分秒あたりのダメージ量DPSは銃弾の比ではない。一秒あればHP全損も可能なほどだ。


 ミリィの【大槌】が一撃でチーターを粉砕したのが良い例だ。


 間合いに入るまでにハチの巣にされるかもしれないが、入りさえすれば必殺の一撃を叩き込める。そういうハイリスクハイリターンの武器。


 ウエポンスロットという三つの装備枠がある。だから装備できる武器は最大で三つ。強力な武器ほどスロットコストは多い。攻撃力はないが他のスロットを拡張する特殊な武器もある。


 三つ目はオプションスロットという補助アビリティの装備枠が五つあること。


 たとえば敵の位置を把握する【ソナー】、攻撃を防ぐ【シールド】、罠を仕掛ける【地雷】など。オプションによってスロットコストは異なるが、最大五つまで装備することができる。


 ステータス、ウエポン、オプション。


 この三つの要素によって戦術の幅は無限に広がるのだ。


 それを踏まえた上で、クルトは次のような構成を好んで使う。


 STR:一〇〇。VIT:五〇。AGI:三五〇。


 ウエポンは【籠手】、スナイパーライフル【スカイフレアX】、【オプションスロット拡張】。


 オプションは【ワイヤー】、【ホッパー】、【ステルスローブ】、【ステルスローブ】、【インビジブル】、【キャットウォーク】、【電磁加速装置】の七つ。



「クルトって相変わらず尖ってるよね。隠密スナイパーって感じ?」



 マッチング中の待機ロビーで、クルトの構成を見たミリィがそんなことを言った。


 クルトは半眼になって。



「お前に言われたくないけどな」


「そうかな?」


「そうだろ」



 STR:二〇〇、VIT:〇、AGI:三〇〇。


 ウエポンは【大槌】、【双剣】、【籠手】。


 オプションは【ウエポンスロット拡張】、【ホッパー】、【ホッパー】、【シールド】。


 銃器を一切持たない近接戦闘特化型。


 FPSでこのような構成するなど頭がおかしいとしか思えない。



「でもそれを言うとガロのはつまんないね」


「普通はこんなもんなんだよ」



 ミリィの失礼な物言いにガロは青筋を立てた。


 STR:一五〇、VIT:二〇〇、AGI:一五〇。


 ウエポンはショットガン【ヘビィハンマー】、アサルトライフル【フォレストR2】、スナイパーライフル【イタクァM7】。


 オプションは【ホッパー】、【シールド】、【ウォール】、【ソナー】。


 ややVIT寄りのバランス型と言える。堅実で可もなく不可もなく。大会でもよく見かける構成だ。


 あまりにも無難な構成なので、面白みがないというのは否定できないが。



 ――マッチング完了。転送を開始します。御武運をGood Luck



 ガイド音声に祈られ、視界が漂白される。色を取り戻したとき、目にした景色は洞窟の岩肌だった。


 VRとはいえ、肌に感じる風や湿り気を帯びた空気、苔生した匂いなど、五感で捉えた情報は現実と遜色ない。


 ここまでリアリティに長けているのだから、VR業界が高い人気を誇るのは当然と思えた。


 各部隊は均等に転送されるため、開始直後は半径三〇〇メートル内には高確率で敵は存在しない。そして洞窟内であれば遠方から狙撃される心配もない。


 行動方針を決めるための話し合いくらいはする余裕があった。



「どこに向かう?」


「ここから一番近い原子力発電所を経由して市街地に向かう」



 クルトの問いにガロは即答した。


 市街地は高低差や遮蔽物が多く戦闘に適した地形になっているため、プレイヤーが集まりやすい激戦区として知られている。


 ランク戦ではキルするほど高ポイントを得られる。だからチーターは獲物の多い激戦区を好む傾向がある。


 チーターを狩るなら合理的な判断だ。



「了解。じゃあ私が先行するね」


「俺も並走する。ガロは後ろの警戒を頼む」


「わかった」



 手短に陣形を決めた三人は洞窟を駆け抜けた。


 途中、落ちている回復系のアイテムや手榴弾など投擲武器を拾いながら原子力発電所へ向かう。三分程度の時間をかけて、特に接敵することもなく原子力発電所に辿り着いた。


 海を背に大型の発電施設が中心にあり、その脇には貯水タンクがいくつも並んでいる。近くには二階建ての建物が二つ。


 踏み込もうとしたその時、ピリッとした感覚が体表をすり抜けた。



「【ソナー】っ!」



 ミリィが叫ぶ。誰が何を指示するまでもなく、各々は瞬時に足を止めて物陰に身を隠した。



「使用者はあの建物の二階みたい」


「ならこっちもだな」



 【ソナー】は敵と罠の場所を探知できるオプションだ。【ソナー】を使ったことが敵に伝わり、その使用者の居場所も割れてしまう。


 しかし敵に居場所が割れた後ならそのデメリットは無いようなものだ。


 装備しているガロが【ソナー】を使用すると敵の居場所が赤く強調表示された。ミリィが指した建物の二階に一人。その手前にある発電施設に二人。



「合流される前に手前の二人をやる。ミリィ、敵を引っ掻き回してこい。ガロはカバー頼む」


「オッケーっ」


「突っ込みすぎるなよ」



 敵が強調表示されている三秒の間に方針は決定した。


 クルトとミリィはそれぞれ装備している【ホッパー】を発動。足裏に三〇センチ四方の膜が現れ、それを踏みつけて大跳躍した。



「どっせぇいっ!」



 大きく振りかぶった【大槌】が壁に叩きつけられる。【ホッパー】による加速も上乗せされた一撃は轟音を響かせて壁を粉砕した。


 敵のど真ん中に単独特攻。セオリー無視も良いところだ。



「なんだぁこいつっ!?」



 壁の向こう側からいきなり特攻をかましてきたミリィに泡食った二人は初動が遅れた。


 ミリィの前でその隙は致命的だ。



「とうっ!」



 【双剣】に持ち替えた両手の刃が走る。


 陶器が割れたような音。全プレイヤーの初期装備であるHP五〇相当のアーマーが壊れた。


 たった二撃で五〇ダメージ。プレイヤーHPは一〇〇。


 敵が銃を構えたときには、四撃を叩き込まれてHPが〇になっていた。


 アバターが爆散し、リスポーンサークルに変わり果てる。


 【ホッパー】で跳躍してからこの間五秒に満たない。



「この女っ!」



 もう一人の敵は銃口をミリィに向けて発砲した。アサルトライフルから放たれた弾幕がミリィに殺到する。


 さすがのミリィも回避せざるを得なかった。近接武器しか持たない彼女は正面からの撃ち合いには勝てない。


 【ホッパー】で退避。【シールド】も展開。


 【シールド】の耐久値五〇は数発で溶けてしまい、ミリィ自身も被弾する。


 だがHPが削り切られるよりも早く階段に飛び込んで射線を切ることに成功した。



「完全修復剤入れるねっ」



 アーマーの耐久値を完全回復させるアイテム。使用には五秒かかる。つまり最低五秒ミリィは戦闘どころか移動すら行えない。言い換えると五秒の間、完全に無防備になるということだ。


 それを聞いた敵プレイヤーは回復中のミリィを落とそうと【ホッパー】で跳ぼうとした。



「一手遅い」


「なっ!?」



 突如、真横に現れたクルトに敵プレイヤーは驚愕。同時にこめかみに押し当てられたスナイパーライフルからゼロ距離射撃を食らって大きく仰け反った。


 HPとアーマー合わせて一五○あった命がごっそり一二○弾け飛ぶ。



「【インビジブル】と【キャットウォーク】は警戒してなかったか?」



 十秒間だけ透明化できる【インビジブル】と自身の足音を消す【キャットウォーク】。この二つの組み合わせによる奇襲は強力だ。


 だが敵プレイヤーも黙ってやられるだけではなかった。


 ノックバックにのけぞりながらも【シールド】を二重展開。さらに足元には【ホッパー】。


 窓を破って外に逃げるつもりだ。離脱の判断が早い。さすがは実力でAランクまで来ただけのことはある。


 スナイパーライフルの次弾装填は間に合わない。クルトは【籠手】に切り替えて自身も【ホッパー】で追撃。



「オラァッ!」



 空中を跳びながら拳と蹴りの連撃を【シールド】に叩き込む。一枚は割れたが二枚目は損傷を与えるに留まり破壊には至らない。


 敵プレイヤーの銃口がクルトに照準を合わせた。


 それよりも早くガロの狙撃が敵プレイヤーを【シールド】ごと撃ち抜いた。


 アバターが爆散。リスポーンサークルが光を放つ。


 残りは一人。だが動く気配がない。


 ガロが【ソナー】をかける。範囲内に敵影なし。不利を悟って逃げたようだ。


 発電施設の上からミリィの声が降ってきた。



「どうする? 追う?」


「いや、目的はチーターのキルだ。物資を補充したら市街地に向かうぞ」



 リスポーンサークルに五秒留まると光が消え、敵プレイヤーのスロット内にあった武器、オプション、アイテムが辺りに散らばった。


 これらと今の装備を入れ替えることもできるが今回は必要ないだろう。回復系アイテムを少しだけ拾っておけば十分だ。


 加算されたキルポイントに見向きもせず、三人は市街地へと駆け出した。


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