第21話 じゃんけん

 ここだけの話なのだが、私には他人のオーラが見えてしまう能力がある。


 便利なようだが、これは実に困ったことで、たいていの場合はうっとおしくて仕方がない。


 ほとんどが同じ色で形も大差ないことが多い。


 勤務先の上長はどどめ色でいびつな形、たまに顔を合わせる売春婦とほとんど同じだ。


 生徒たちを含め、校長先生や清掃員のおばさんも私の周りの大半がそうだった。


 ときおり駅のホームで淡い紅色の丸みを帯びたものに出会うがその人たちのことを私はよく知らない。


 だからオーラが見えたところで参考になるところは少ない。


 もちろん役立つこともある。


 それはじゃんけんの際に発揮される。


 人はじゃんけんをするとき何を出すかによってオーラの形に変化が出る。


 グーは凝縮していき、チョキは尖がり、パーは微妙に広がる。


 たまに見間違うこともあるがたいていの場合、その形状を見せる。


 だから私のじゃんけんの勝率は飛びぬけていた。


 そしてそのじゃんけんの強さに人が羨望の眼差しを向けるとき、そのオーラは普段

よりも激しく揺れる。


 なぜだか私にはそれがおかしくて仕方なかった。


 ある忘年会の幹事を決めるとき、壮絶な腹の探り合いの後、この際じゃんけんで決めてしまおうということになった。


 大の大人がまるで小学生のような思考回路である。


 私はほくそ笑みながら、意気が揚がっていく周りの姿をそのくすんだオーラとともに眺めていた。


 勝負に挑む前からオーラの形でたいていの結末が見える。


 しかしそのなかで稀なオーラを私は見つけた。


 それは以前にみかけたことがあったオーラと色も形状もそっくりだった。


 とりあえず一抜けを果たすと、後学のためか、私はその見知らぬ人が醸し出すオーラの行方を追っていった。


 見慣れないオーラの持ち主は最近やってきた鈴原さんという方だった。


 鈴原さんは手の指が欠けていた。


 それは幼少の頃に事故で失われたのだ、と隣にいた同僚に聞いた。


 鈴原さんは次々にじゃんけんに負けていった。


 当初に見せていた余裕も今はなく、焦りと諦めを織り交ぜたような複雑な表情を見せていた。


 そんな状況でもオーラの具合は当初と変わらず、同じ色と形に保たれていた。


 最後に鈴原さんは一騎打ちに挑むことになる。


 私はひそかにエールを送り続けていた。


 見事に負ける。


 それでも初めと終わりでそのオーラには寸分の違いも見られなかった。


 私はそれに感嘆した。


 そして私は鈴原さんのお手伝いをした。


 同僚たちはみな怪訝に私を見ていた。


 それはやはりどどめ色でいびつな形だったと思う。




 ――最初はグー、じゃん・けん・ぽん。

 こちらの勝ちのようですね。

 見えてますよ、そのオーラ。

 

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