第19話 青春

 そばにはびしょ濡れのパッと冴えない同級生。

 ずれたメガネがいつもならハハッと笑ってしまうところ。

 磯山健斗、十四歳。

 もうなにがどうなってもいい覚悟で臨む。

 にぎりこぶしをさらに強くすると、そこに飛び込んでいった。


「がぁあああ」


 何を意味しているかはわからない。

 威嚇しているつもりが目のまえの相手には何の効き目もなかった。

 がむしゃらに腕を振るとそれが空を切った。

 その態勢のまま、向こうからのパンチをすかさずもらう。

 受けた衝撃が瞬間にぼくの世界をぐらつかせた。

 普段ならばここでダンゴムシのようにうずくまってしまうところ。

 それでもぼくはやり返す。

 なんどやってもうまくあたらない。

 それでもぼくは必死だった。


 ――気がつくと、ぐしゃぐしゃな泣き顔を見せる同級生がいる。

 すこし離れて、不良グループのリーダー格がメンバーのひとりを小馬鹿にしながらなだめていた。

「はいはい、もうやめよう、もうじゅうぶん」

 なにがどうなっているのか全然わからなかった。

 やがてリーダー格を残してメンバーは去っていった。

 ぼろぼろに泣き崩れたままの彼女。

 そんな中でようやく気がつく。

 やっぱり無理だったんだ。

 悔しさのせいか、ぼくも歯を食いしばって泣いた。


 足音が聞こえる。

 すぐそばでそれが止んだ。

 廊下の窓から入る日の光が大きな影で遮られる。

「おまえ、負けちゃったね」

 顔を見上げるとそこには見下ろす顔。

 見くだすところが見あたらなかったところに見いっていた。

「悪かったな、もうやらせねえから」

 そう言うと同級生の肩を軽く叩いた。

 泣き止んできょとんとする彼女。

 なにがどうなってるのかよくわからなかった。




「なあ健斗、この敵どうやって倒せばいいんだ」

 すぐ隣にはいつかぼくをボコボコにした不良メンバーのひとりがいる。

「またかよ、おまえ、学習能力なさすぎ」

 リーダー格が小馬鹿にしながら言う。

「あのー、これ、飲まないんですか?」

 同級生が飲み物を抱えて待っている。

 サンキュー、はやっぱり言わないが、ありがたくそれらを受け取るメンバーたち。

 ひとりが開けると炭酸が勢いよく吹き出した。

「うわ、おまえ振っただろ、これ」

 それを見守る彼女の笑顔は前と違ったいじらしさを見せていた。




 ――なにがどうなっているのかよくわからない?

 青春とは時にそういうものなのかもしれません。

 とりあえずぶちかましていれば後で笑えることもあります。

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