第13話 ポエム

 ふたりの男女が対峙する。

『いかにも』な雰囲気のなかで男は女に告げる。


「ぼくはきみが、すきだ」


 女が応える。


「わたしも、すき」


 こうして真実の愛への探求が、いま、始まった。


***


「きみは、そんなに、このぼくのことがすきなのかい?」


「ええ、そうよ。あなただって、そうでしょ?」


「もちろんさ、こんなに愛を注いでいる人間をぼくは他に知らない、何よりもぼくはそれが末恐ろしい」


「あら、あたしの方が上よ。だってこんなにあなたのことを愛してるんですもの」


「ちょっと待て、きみは、ぼくの愛がきみの愛に及ばないとでも云うのかい?」


「ええ、あたしの愛の方が素晴らしいわ。それにきっとまともなはずよ」


「そんなはずはない。僕の愛は深い、そして何よりもあたたかい」


「いいえ、あなたの愛はあたしのそれに比べれば安っぽいわ、なんだかどこかの企業で大量生産されている感じよ」


「はっ、その言いぐさは残飯ものだな。そんな貧相な表現しかできないようじゃ、このぼくの愛の尊さなんて何もわかっていやしない」


「えっ、それを言うなら噴飯ものでしょ。こっちこそ笑っちゃう、あなたはいつも、そう。いちいち背伸びしてポエムっぽい言い回しでごまかしてるだけ」


「このアマ、言わせておけば。そんなものは本質とは何の関係もないはずだ」


「ア、アマですって!? 馬鹿ね、関係大アリよ。伝えたいのならば正しい言葉を使いなさいよ。第一、あなたがよく言ってる『うららかな春の昼下がりのティータイムのようにきみは美しい』って何よ? 正直、長いし、よく考えると、意味わかんないのよ」


「やれやれ、これだから女は……。いいかい、そこにいる自分の姿を想像してご覧よ――ほら、とても美しい、そして何よりも安らぎに満ちている」


「なによそれ、あなたの美しさとあたしの美しさを混同しないでほしいわ、それに安らぎなんて美しさとは全く関係ないじゃない。おまけに安らいでるのはあなただけじゃないの? なんでそれがあたしへの賛美につながるのよ」


「嗚呼、女ってやつはなぜ、その瞬間を彩っているはずの美を感じることができないんだ」


「はず、っていうのがそもそも的外れなのよ」


「きみはぼくのことをすきだったはずなのだが?」


「ええ、すきよ」


「ならばどうして、そんなトゲのある言い方をするんだい?」


「あたしがすきなのはあなたをすきなあたしだからよ」




 ――どちらが真のポエマー?

 いずれにしても自分を愛することは正義のはずです。

 決して偽善ではありません、悪しからず。

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