第2話 時限爆弾

 浮かび上がるほど鮮明な赤い表示。

 数字は規則正しく時を刻んでいく。

 先にあったのは白と黒の導線。

 母と胎児を結ぶ命の管のようにそれらはあった。

 破壊の形象は男の耳元でいつまでもその羽音を響かせていた。

 何が起こっていると言うのだろうか――。

 



 ひと月前。

 処理班に配属された。

 男はそうなることを自ら選んだ。

 正式な転属希望は妙な夢を見た前の日のことだった――。

 

 夢の中で男は岐路に立っていた。

 迫りくる制限のきわにあった同僚たちの息遣い。

 ひとりの女性が目に映る。

 男はそれまでを回顧した。

 あなたは花のように可憐だ。

 いや、花にたとえるすらおこがましいほどに。

 女は男に尋ねていた。

 なんでそんな笑顔がつくれるの?

 理由を述べる必要などなかった。

 あなたのためならたとえこの身朽ち果てようと――。

 



 まさしく今、状況が男を取り囲んでいた。

 転属と邂逅、そして爆弾。

 いずれもが予定調和を象ったようにお膳立てされていた。

 



 この導線を切れば騒動は収まる。

 俺は噛みしめながらも笑みをこぼす。

 その頬にキスをするのは彼女。

 Viva la Vida(素晴らしき哉、わが人生).

 すべては俺のためにある。

 俺こそが世界の中心なのだ。




 遺影に映る男の笑顔は今日も満面だった。

 傍にする女がボソッと吐き出す。

 「ほんと稀に見る、バカづらだわ」




――爆弾事件?

ほとんどないから…………。

あ、なんか聞こえる。

『……焼かなければならぬ』



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