第14話 いつか君と同じ
「お帰りなさーい。て、あれ? 」
ギルドについたクレイ、魔王、ウィルシュの三人。
そんな組み合わせが珍しかったのかクロエが首を傾げる。その視線に気付いたのかクレイが説明を始めた。
「実は依頼の場所が同じでね、偶然出会ったんだ」
「あー、そういうことなんですね。お疲れ様です」
被る帽子のつばをクイッとあげる。
妖しく光る金色の瞳が見えた。
「それじゃあ報酬を渡しますね。こちらへどうぞー」
それからクレイとウィルシュはクロエから報酬を受け取るために部屋へと移動しようとしたが、魔王は面倒だ、といってその場を動こうとしなかった。
クレイは魔王の方へと一瞬目をやると何も言わずに、クロエに
「放っておいていい。行こう」
と言うとクロエの肩に手を置き、先にカツカツと歩いていった。
クロエは曖昧な返事で返すとクレイの背中を追っていった。ウィルシュも戸惑いながらも魔王に頭を下げてクレイ達のあとを追った。
そんな後ろ姿を見ながら魔王はため息をつく。
『………さて』
魔王は自分の部屋ではない方向に歩を進めた。
魔王をおいて部屋につくとクロエは二人がもつ麻袋の中身を確認し始めた。
確認がすむとクロエは麻袋をもって立ち上がり、それを金銭へと変えるために一度部屋の奥に入っていった。二人きりとなった空間でクレイが申し訳なさそうに口を開く。
「先程はすまない。恥ずかしいところを見せてしまった」
「いえいえ! 気にしないでください!」
ウィルシュは開いた手を左右に振る。
「パーティーで活動していればああいうこともありますよ。やっぱり仲間「仲間ではない」……えと友「友人でもない」……一緒にいますからね……」
かなり妥協した答えになった。
クレイも真顔でウィルシュの言葉に被せるように言うため圧がすごかった。
「やっぱりソロだと依頼によっては完全に達成するのが難しいのもありますから」
ウィルシュのその言葉にクレイはふと思い付く。
「……それならしばらくの間、私達とパーティーにならないか? 」
「へ?」
クレイの言葉にウィルシュは声を漏らす。
少し見開いた目を瞬く。
「仮でも構わない。実は私達は遠くの村からきていてこの国について知らないことが多いんだ。もしウィルシュがよければ私達に教えてほしいのだが……」
「んー……」
クレイの言葉を聞いてウィルシュは腕を組み、唸りながら目を閉じて考え始める。
クレイはそんなウィルシュの返答を待った。
すると扉がガチャリと開き、二つの麻袋をもったクロエが戻ってきた。
「お待たせしましたぁ……ウィルシュさんなにやってんの」
頭を抱えているウィルシュを見てクロエは眉を潜めたが、また通常運転に戻り、席についた。
「これがクレイさん、これがウィルシュさんのですね」
ポスッと音をたてて麻袋が机に置かれる。
クレイが麻袋をとるとなかには2500レイズが入っていた。我々の単位では2500円になる。
「クレイさんからもらった鱗の一つは損傷が激しかったですけど、ラミアの鱗だということが確認できたので問題はないです。たまーに偽装する人がいるので」
レッドデビルブルに引き潰されたラミアを思い出したクレイ。あまりにも損傷が激しく一番形状が保たれている(それでもひどかった)ものをもってきていてよかったと安堵する。
「ウィルシュさんのレッドデビルブルの角は特に問題なかったです」
そういうとクロエはペコリと頭を下げる。
「それではお二人とも、お疲れ様でした。もう帰ってもいいですよ」
報酬を受け取ったクレイとウィルシュはクロエに頭を下げるとその部屋からでる。
部屋をでた廊下でウィルシュがクレイの名を呼ぶ。
ウィルシュの声に振り向くクレイ。
「さっきの話なんですけど、僕もパーティーに入ってもいいですか? 」
「それはもちろん! いいのかい?」
「その方が効率がいいですしね。これからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく頼む」
お互いにペコリと頭を下げてるところにちょうどクロエが扉を開けてでてきた。
「……なにしてんすか」
* * * * *
『遅いぞ、貴様ら』
待ちくたびれた様子の魔王がパンを片手にクレイを睨み付ける。
「……部屋に戻ればよかっただろう」
『我が待ってやっていたというのになんだ』
魔王はため息をつくとクレイに向けていた視線をウィルシュに向ける。
その視線の冷たさにウィルシュは身震いをする。
『そこの耳長族、何を突っ立っている。さっさと散らんか』
「え、あ、はい! すいません」
ウィルシュは魔王の言葉に身体が固まるが、ペコリと頭を下げてクレイにも「ありがとうございました」と言い残し、ぎこちなく歩き去っていった。
ウィルシュの背中を目で追っていたクレイが不満そうな顔で魔王を振り返る。
『なんだその顔は。まあいい』
魔王は何かをパキンと指で弾き飛ばす。
その何かはクレイまで放物線を描きながら飛んで行く。
クレイはそれをつかむ。
それは金貨だった。
しかし、それは一瞬で石へと変わる。
「これ、あのときの……」
『回収しておいたのだ。代わりの金もおいてある』
指でクレイの手の上にある石を指差す。
魔王は誇らしげであるため嫌そうにクレイは魔王に目を向ける。
「……そのことに関しては礼をいう。ありがとう……」
『ふむ、宿敵から礼を言われるとは気分がいいな』
魔王は満足そうに息を鼻から吐き、豪快に笑い出す。
が、クレイは眉を歪ませる。
「だが、先程のウィルシュに対する態度はなんだ。これから共に依頼をやっていくというのに貴様のせいで溝ができたらどうするつもりだ」
その言葉に魔王の笑い声が止まる。
そして天井を向いていた顔をゆっくりと下げる。
『……あの耳長族と共に依頼をといったか』
魔王の低く重い声にクレイは不信に思い、剣を握る。
しかし
『よくやったぞ! 勇者!』
魔王はクレイに称賛の声を上げ、大きくガッツボーズをしたのだ。
クレイはなんのとこか分からず、動きが静止する。
『あの耳長族が入るということは戦力が増える。戦力が増えるということは一人につき殺す魔物の数が減る。つまり無駄な働きをすることもなくなる。我がいちいち奴らの相手をしなくてもよくなったのだな!素晴らしいぞ、これは!よい仕事をしたな、勇者!』
嬉々とした様子で魔王はクレイを誉める。
どれだけ働きたくなかったのだろうか。
クレイも宿敵から誉められ続けて、よくわからない感情に苛まれていた。
「……と、とにかく明日からウィルシュと行動する。あんな言葉をまた使うようだったらそれ相応の対処はするからな」
『構わんぞ。使える手駒にはきちんとした対応をせねばならんからな』
クツクツと笑う魔王にクレイは冷ややかな視線を送る。
「……どんな者でも道具にしか見えないんだな」
そんな魔王と同じ空間にいるのが嫌になり(いつも嫌ではあるが、今回は特に)クレイは自らの部屋に戻ることにした。
クレイが部屋に戻り、一人になった魔王にクロエが話しかけた。
「こんばんは、バルゴさん」
『む、貴様か。その呼び方はやめろと言ったはずだが』
「名前が長いから嫌だと言ったはずですが」
『それは貴様の勝手だろう』
「バルゴさんのもそうですよね」
魔王の威圧に負けじとクロエは言葉を返す。
表情に変化がない。
魔王は少し唸るとため息をつく。
『もうよい……』
「ありがとうございます」
クロエはペコリとお辞儀をする。
さすがの魔王も真顔で言われる言葉には弱かったようだ。
『それで何のようだ』
「いえ、なんか嬉しそうだったんで話しかけただけです。特に深い意味はありません。どうでもいいことだったらすぐに忘れますし」
『……貴様本当に正直なんだな』
「ありがとうございます」
『誉めとらんわ』
魔王はクロエのペースに乗せられていることに気付き、さっさと部屋に戻ろうとした。
そこでクロエが口を開く。
「ところでバルゴさんとクレイさんってどういう関係なんですか? 」
『……はぁ? 』
クロエの質問に魔王は吐息にも似た言葉で返した。
魔王の様子にクロエは質問をもう少し付け加えた。
「いやお二人ともパーティーにしては仲悪いなと思って。なかなかいませんよ。お二人みたいにいつも言い合いしてるパーティーは」
クロエは腰に手を当てた。
魔王はふと考える素振りを見せるとクロエを見下げる。
『奴がどう思っているかは知らんが我は……』
一瞬迷ったのか言葉が止まるが、またゆっくりと話し出す。
『同類、だと思っておる』
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