第13話 禁句
「誰だ、この耳長族は」
唯一そのエルフのことを知らない魔王が声をあげる。
魔王の存在に気づいたエルフは首をこくりと曲げて魔王を凝視する。
「うわ、でっか」
『なぬっ!? 』
真顔で言うものだからさすがの魔王も驚き、いつもの不敬やらなんやらがでてこない。
確かに2メートルはある魔王の姿に驚くのはわかるが表情に変化がなく、棒読みのように言うため逆に怖い。
「ところでどうして君はこの森にいるんだい? 」
「僕ですか? 僕はギルドの依頼でここに」
「! 君もギルドに登録していたのか」
図書館で出会ったエルフの少年がまさかギルドにいたとは知らずに驚くクレイ。
「いやぁ、ちょっとお金が必要になっちゃって……」
照れたように笑い、頭をポリポリと掻くエルフ。
魔王が『賭け事か? 』と聞くとエルフは「あんなの何処が面白いんです? 」と返された。
長い時を生きてきたであろうエルフに言われてはぐうの音もでない。
「ちょうど僕が受けたこの依頼の報酬が高くて来たんですけど、暴れるは逃げるはで思ったより手こずっちゃって」
めちゃくちゃ走りました、とまた面白そうに笑うエルフ。
「そうなのか。それは大変だったね」
「はは、ありがとうございます。ですがお二人に迷惑かけてしまったみたいで……」
申し訳なさそうに頭を下げたエルフにクレイは微笑む。
「なに、君が連れてきてくれたそいつのおかげでラミア一体倒すのに手間がかからなかったよ。謝らなくても大丈夫だ」
「そう、なんですか」
クレイのその言葉でエルフはほっと息を吐く。
クレイもエルフの反応をみて気にしていないようだと安心する。
「あ、自己紹介が遅れました。僕、エルフのウィルシュ・ルードといいます」
「私はクレイ・ヨルムンガンドだ。よろしく頼む」
胸に手を添えて微笑むクレイ。
クレイの顔は世間的に見てもイケメンに入る部類であり、お年頃の女性であればイチコロにされているだろう。
もちろん、男であるウィルシュにそれは効くこともないのだが
「………イッケメーン……」
「?」
目の前で顔面宝庫を見せられて灰になりそうであった。
そんな二人をみて魔王は何をやっているんだと呆れており、完全に忘れ去られたレッドデビルブルを哀れに思っていた。
『この魔物はどうするつもりだ? 』
「「……あ」」
ドンマイ、赤牛
* * * * *
結局赤…レッドデビルブルは穴のなかで討伐し、角を持ち帰らなければいけなかったらしく、ウィルシュは先程唱えていた術と似た力でなんとか角を穴から取り出した。
好都合ということでクレイと(嫌そうな)魔王はラミアの下半身の鱗を一枚ずつ剥ぎ、その死体を穴へと埋めた。これであれば付近の魔物が死体の匂いで集まってくる可能性も低くなり、森への影響も少ないのだろう。
ウィルシュの術で穴があった場所は元の平たい地へと戻った。変わったのは下に魔物の死体が埋まっていることである。
「これでいいかな」
パンパンと手についた砂を払うために手を叩くウィルシュ。
「それじゃあ行きましょ! 」
ウィルシュを待っていたクレイは「ああ」と返すが魔王はふん、と息を吐くだけで黙っていた。
帰り道
木々が生い茂る道を進んでいく三人。
魔王はその図体のせいで枝にガツガツとあたり、魔王が通った場所は折れた枝や葉が落ちていた。
クレイとウィルシュは一度会ってることもあり、すぐに打ち解けあっていた。
するとクレイはふと思ったのかウィルシュに質問をする。
「そういえばさっきの魔法、凄かったがあの第14星唱というのはどういう意味なんだい? 」
「……え? 」
クレイの言葉にウィルシュが青ざめた様子で立ち止まった。
唇はわなわなと震えている。
「ど、どうしたんだ? 」
後ろの魔王も怪訝そうな目でウィルシュをみていた。
ウィルシュは三度深呼吸をすると落ち着いたようではあり、ゆっくりと話し始める。
「……その魔法という言葉はどこで知ったんですか」
「魔法を? 」
『そんなもの普通に暮らしておれば必ず耳にするだろう』
両者ともウィルシュが言っていることが分からない様子。しかしウィルシュの言葉で両者は思い出したことがあった。
このアリアステレサに来てからは魔法という言葉を聞いていないのだ。
自分達は何気なく使っていたが、そのときは人気のない場所やそもそも人がいないとき。
人がいる場所で両者がもつ魔法をつかったことがなかった。
「そういえばこのアリアステレサでは魔法を使っているところをみたことがないな」
『ただ単にそういう技術がないだけか』
などと発する両者にウィルシュはピシャリといいはなった。
「もう二度とこのアリアステレサでその言葉を使わないでください!」
ウィルシュの言葉に思わず驚く。
先程まで普通に話していたエルフからいきなり怒鳴られた。
それだけでも驚くが、それだけではなく言葉の内容にも疑問をもった。
「……どうしてなんだい」
敢えて魔法という単語をいわずに質問するとそれを汲み取ったのかウィルシュも使わずに話し始める。
「その言葉はこのアリアステレサでは禁句として見なされているものです。使った者は重い刑罰に処されます。そして……」
ウィルシュはここで一呼吸おく。
「その言葉を言った者のことを他者はすぐにお城に報告しなければなりません。それで報告した者は刑罰を受けなくてもよくなるんです」
ウィルシュはそこまで言うと泣きそうな声になる。
「僕、僕そんなことしたくないんです……」
「……すまない。そんなことも知らずに言ってしまって……」
クレイが片膝をつき、頭を下げた。
「報告しなければならない」ということを言ったことからウィルシュは本当にそんなことをしたくないのだと両者は思ったのだ。
「……これからは気をつけてくださいね。三人だけの約束です」
ひきつってはいたがウィルシュは笑っていた。
クレイも頭をあげて微笑んだ。
すると魔王も
『我は約束は守る方だ。貴様に迷惑はかけん』
と威厳たっぷりで言ったがウィルシュのことを案じてという気持ちが伝わってくる言葉だった。
「……あはは、なんだか変な空気になってしまいましたね」
「そうだな。それではいこうか」
「はい」
こうしてまた歩き始めた三人。
魔物に出くわすこともなく、欠け月の森を出ようとしたその時
「………ん?」
ふと感じた気配にクレイは振り向く。
だが人影もなくただ木々が立っているだけの光景である。
『おい、どうした』
「クレイさん?」
クレイの様子をおかしいと思ったのか立ち止まって待っていた。
クレイは森へと向ける視線を名残惜しそうに反らし、ウィルシュと魔王が待つ所まで向かっていった。
そう、まだ出会う時ではないのだ
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