第12話 エルフとの再会
さて両者は欠け月の森に到着するやいなや早速仲間割れを始めています。
飽きないのでしょうか。
『何故二日連続でこんな森に入らねばならないのだ!』
「昨日とは違う森だぞ」
『そんなことを言っているのではない! 何故我も出向かんといけないのか聞いているのだ!』
魔王のその言葉にクレイはピタリと止まり、魔王の方へと振り返る。
突然クレイが止まったことに腹が立っている魔王を鼻で笑うと
「私の首を取りたいんだろう? 偉大なる魔王とやらも自らが使役していた魔物に怖じ気づいていると見える」
そしてクレイは前を向き、森の奥へと進んでいった。
クレイの言葉で怒りに震える魔王は拳をギリギリと握りしめた。
『この我を侮辱するとはなんたる不敬! 再生能力さえなければ貴様のその首、跳ねられたというものの!』
と文句をぶつぶついいながらもクレイのあとに続いていく魔王であった。
両者が森の奥へと進むとまたクレイは立ち止まった。
後ろからついてきていた魔王も同じように止まるが先程のように文句を言ったりはしない。
両者を包む気配に気づいていたからだ。
「……」
クレイは一言も発さずに剣・原初の白銀を抜く。
一度たりとも注意を怠らない。
魔王も面倒くさそうではあるが大剣を引き抜いている。
今日クレイが選んだ依頼はラミアという上半身が女、下半身が蛇の魔物の討伐である。その数は5体。
討伐理由は欠け月の森の近くにある村の子供を捕食したため。ラミアは子供が好物なのである。
「シュー……」
ラミア達の呼吸音が聞こえる。
ちょうどいいことにラミアは5体いた。
じりじりと両者を襲おうと近づいてくるのがわかる。
クレイは戦闘態勢へと入るが魔王は動かず、ただ大剣を握って突っ立っているだけ。
「シャアア!」
そして満を持したのかラミアの1体がクレイ目掛けて飛びかかってきた。
しかしこれで焦る勇者ではない。
すぐさま跳ねるように避けて、地面につくとそのまままだ起き上がっていないラミアの横を風のように通り過ぎる。もちろんただ通りすぎたわけではない。
動きを封じるために腕を落としたのだ。
痛みで悶絶するラミアを後ろから剣で心臓に突き刺した。本物の女体のように柔らかいラミアの身体を刺すのはオークのときよりは困難ではなかった。
クレイがラミアが1体絶命したのを確認すると魔王の方から2体分のラミアの断末魔が聞こえた。
クレイが振り返ると魔王の足元では2体のラミアの死体が転がっていた。
1体は首を跳ねられ、もう1体は頭を潰されていた。
クレイの視線に気づいた魔王はふふん、と胸を張る。
『我を殺すとのたまっていた貴様も所詮その程度ということか。は、疲れたのなら休んでいいぞ』
たったラミアを1体多く倒しただけなのであるのだが、何故か勝ったと息巻いている魔王。
その様子を黙ってみていた勇者にまたラミアが飛びかかるが八つ当たりのような形で見事ラミアの額に剣が刺さり、貫通する。ラミアは少しの間ウネウネと動くとそのまま動きが止まり、絶命した。
刺さったままのラミアを振り払うように剣を振る。
「誰が疲れただと? 」
これまでの疲労を諸ともしないクレイの様子に魔王は舌打ちをした。
こうして残るラミアは残り1体となった。
そして自然的に残り1体のラミアをどちらが葬るかという勝負?が始まる。
ラミアからしてみれば物騒な「私のために争わないで! 」状態である。
いや、「ドッチボールで一人になっちゃった」状態とも言えるだろう。
しかし、そういう結末は大抵第三者が持っていくことが多い。
『む?』
「なんだ」
突然起こった地響きに両者は驚く。ラミアもキョロキョロと辺りを見渡している。
地が揺れ始め、木を飾っていた葉がパラパラと次々に落ちていく。石も揺れによって飛びはねているようだだった。
そしてその音はどんどん近くなっていった。
「ブモオオオォォ!」
地響きとともに魔物の声が響き渡る。
木々が折れる音が聞こえたあと、それは現れた。
赤がかった茶色の毛に全てを貫くだろう巨大な角、レッドデビルブルという牛の魔物である。
「ピシャ!!」
「『あ』」
プチっとラミアが突進してきたレッドデビルブルにより、潰されて絶命する。興奮しきった状態でレッドデビルブルは両者に襲いかかろうとしていた。
『我の獲物を奪っておいてまだ楯突くか、おろかなことよ』
魔王が珍しく大剣を構えたその時
「緋き果実の虜になる者よ 空よりその指切り落とし 口腔を開けよ! 第14
その声に答えるかのようにレッドデビルブルの前に大きな穴が現れ、その穴に気づかなかったレッドデビルブルは吸い込まれるように穴の中へと落ちていった。
「これは……」
穴のなかで暴れるレッドデビルブルを見つめながらクレイは呟く。
ガサガサと草が揺れる音に気付き、ふと視線をそちらへと向ける。
茂みのなかから息を切らしたエルフが飛びだしてきたのだ。
「ごめんなさい、ぜぇぜぇ、怪我は……」
肩で息をしていたエルフが両者の方を向く。
そしてちょうどクレイと目があった。
クレイもエルフの見覚えのある顔を見て声をあげる。
「あれ、君は…」
「あ、あなたは…」
クレイは図書館で出会ったエルフと再会したのだ。
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